第7話 山本と私

 月日は流れ私は中学三年生になった。私が山本と田中と三人で友達として仲が良いことを学校側も把握したのか私たちは同じクラスとなった。


 山本は再び学校に来るようにはなったが、元の調子に戻ることはなかった。心に大きな負債を抱えた彼女は何日かに一度学校を欠席するのである。

 

 そして彼女の腕には不自然な傷が見られるようになった。カッターナイフで切ったような傷が無数に存在したのである。彼女曰はく自らを傷つけることに快楽を感じるそうだが、私にも田中にも理解することはできなかった。当然自分を切れば血が流れるのだから生命維持に支障が出ると判断した脳は痛みを彼女に伝えるはずである。


 不自然な傷が見られるようになったと同時に不安定な言動をするようにもなった。私と彼女の連絡のやり取りに[私は父に愛されていない]という趣旨のものが送られてきたのである。田中へのアプローチがいまいちうまくいっていないという相談はたべたび受けたが、もっと身内との関係性に言及するようにまで至ってしまったのは彼女の心が決壊寸前であることを示す証拠であった。


 私はこれをチャンスだと捉えた。


 彼女の心には今隙がある。田中よりも彼女の心を埋める存在となれれば彼女は自分になびいてくれると考えたのである。いかんせん人間として間違っている考えであることは自覚しているから少々の自己嫌悪もあったが、それよりも彼女が欲しかったのである。


[田中くんは私のことを友達としてしか見てくれない。もうあきらめようかな]

[せめて玉砕覚悟で突っ込んでからにしたらどうだ? 可能性はある]

[友達関係まで壊れたらと思うと……]

[諦めたらそこで試合終了ですよ。その逆は諦めたのでそこで試合終了。諦めない限り勝負は続く]

[wwwwww]


 私は彼女の気が済むまで彼女の相手をした。純粋に彼女の成功を願う友達を演じ続けた。そうすることで彼女にとっての私の存在を大きくしようと画策したのである。

田中よりも私の方が貴女を支えられますよといわんばかりに彼女の相談にはすべて乗った。そうしているうちに彼女に少しばかりの変化があったのである。


[こんなこと言うと引かれるかもしれないけど]

[どうした?]

[私、清水くんでいいかもしれない]

[んんんんんんん??????]


 計画がうまくいったことを内心ほくそ笑むが、無論山本にそのようなことを伝えることはない。素で疑問に思っているかのような返信を私は返した。詰めを誤り全てが水の泡になってしまっては私の大敗北である。


[だってこうやって私の事気遣ってくれるし……。もしもね? 清水君と付き合うようになったら田中君への想いは捨てるよ。すぐには無理かもしれないけど]

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