転生したら薬物中毒のホストになっていた件(3)

 ナビから聞いた、≪ナイト・キング≫の概要をまとめると、こうだ。


・≪ナイト・キング≫は、全三回戦で行われる。

・全て一対一の勝ち残り戦となる。

・前回優勝者である、もう一人の歌舞伎町からの参戦者はシードとなっており、決勝戦は残りの四人の中から勝ち抜いた者と、前回優勝者との対戦になる。

・対戦相手や対戦方法は、当日知らされる。


「とすると、最も警戒すべきは前回優勝者である、もう一人の歌舞伎町からの参戦者ってわけか……」


 僕の独り言に、ナビが煙草の煙をくゆらせながら返事をした。


「いやー、全員強敵だぜ?ミナミは歌舞伎町に負けず劣らずの激戦区だし、どうやらススキノや福岡の代表は、ホストになってわずか半年足らずで、圧倒的No.1の座を獲得した、超やり手らしい」

「ナビ、知ってるの?」

「まあ、仏飛丸が参戦するって決まってから、俺なりに調べたのよ。つっても、ミナミは関西人らしくオラオラ系、ススキノは王子様系、福岡は……確か、戦国武将系ってことくらいしか分かんなかったけどよ」


 なんて優秀な奴なんだ……。

 こういうきっちりした説明の時は、読みやすさを重視して口調をまともにするあたりも優秀だ……。読者のことをきちんと考えている……。偉い……。もっと褒められても良い……。


「とにかくよ、どんな対戦方法になるか分かんない以上、この一週間は体調を万全に整えつつ、これまでの馴染み客に、いつでも協力してもらえるようアピらないとな!とりあえず、今日からは≪ナイト・キング≫出場の宣伝だ!」

「わ、分かった!」


 もうすぐ〈Another World〉の開店時間だ。

 僕はナビの助言に従い、今日はお金を使わせるのではなく、≪ナイト・キング≫の宣伝に注力しようと、仏教徒(仏飛丸派閥のホストたち)にも協力を依頼した。


「任せて下さいっ!」「やってやりますよっ!」「仏飛丸さんなら絶対優勝だぜっ!」「南無ッッ!!」


 なんか一人、本物の仏教徒がいた気がするけど、とにかく心強い!


 いよいよ開店時間になった。

 〈Another World〉の扉が開くと同時に、派手な衣装と装飾品で身を飾った女性たちが、次々に入店してくる。


 当然、No.1である僕……いや、仏飛丸の指名が多い。僕は開店前に覚えた馴染み客の顔と趣味嗜好、そして仏飛丸の口調や癖を必死に思い出しながら、接客をこなしていく。

 ボロが出そうになった時は、僕の傍にがっちりヘルプでついたナビがサポートし、お酒は全て仏教徒たちが飲んでくれた。


 そうして、周囲の助けを得て何とか一日目をこなした僕は、慣れないキャラを演じたせいかものすごく疲れてしまって、その日はすぐに帰り、シャワーも浴びずにぐっすり寝た。




 それからあっという間に時間は過ぎていき、僕もようやくホストとしての振る舞いが板についてきた、五日目に事件は起こった。


 その日、出勤した僕は、いつもとは違う喧噪に気付いた。既に出勤していたホストたちは、僕の顔を見てはっと息を呑む。


 何事かと、人だかりに近づくと、オーナーが僕に厳しい目を向けた。


「昨日は、月締めの最終日だった。そして、集計の結果……先月の一位は、鯛魔だ」


 魔族(鯛魔派閥のホストたち)の歓声。膝から崩れ落ちる仏教徒たち。


「すまん、仏飛丸。俺が、≪ナイト・キング≫の宣伝に集中しろなんて言ったから

……」


 悔しげに表情を歪めたナビが、僕に頭を下げる。だが、そんなナビを押しのけ、一人の男が僕の前に立った。


 全身のあらゆる所にタトゥーを入れた、長身痩躯の男。魂嵐世たまらんぜ鯛魔たいまだ。


「遂にてめえからNo.1の座を奪ってやったぜ、仏飛丸よお?」


 そう言って鯛魔は、僕の鼻先で中指を立てた。ちなみにその中指には、『FAX YOU』と彫られていた。この後FAXが送られてくるのか…?


「ところでよお。日本一のホストを決める≪ナイト・キング≫に、店のNo.1ですら無え奴が出場するなんて、おかしいと思わねえか……?なあ、お前らっ!」


 鯛魔が振り向き、魔族たちに向かって叫ぶ。その叫びに呼応して、魔族たちも声を張り上げた。


「そうだそうだっ!」「仏飛丸なんて相応しくねえっ!」「鯛魔さんこそ俺たちの代表だっ!」「南無ッッ!」


 ……今ひとり裏切ってなかった?


 ともかく、以前にも触れた通り、ホスト界において店のNo.1とは絶大な権力を持つ。オーナーと店長をちらと盗み見るが、この件に関して口を出すつもりはないようだ。ということは、二人とも鯛魔の言い分に一理あると思っているわけか……。


 どうやら、≪ナイト・キング≫の前に、こいつと勝負をつけなければいけないらしい。


 僕は、相手に呑まれないよう、精一杯の虚勢を張った。


「じゃあ、どちらが上か、はっきり白黒つけようじゃないか」

「随分強気じゃねえか。面白え、その勝負受けて立つぜ!」


 鯛魔が顎まで届きそうな長い舌を出し、親指を下に向けた。ちなみにその親指には、『KLLL YOU』と彫られていた。”クルルルッユー”になってるぞ……?


「ではその勝負、私が預かろう」


 口髭をたっぷりたくわえた店長が、口を開いた。

 店長は、僕と鯛魔の二人に交互に視線を向けてから、たっぷりともったいをつけてから言った。


「勝負方法は……≪メンヘラ落とし≫だっっ!!」


 それを聞いた鯛魔……いや、僕以外の全員が、目を見開いて息を呑んだ。その様子を見て、僕一人だけがきょとんと間抜け面を晒していた。


 そう、この≪メンヘラ落とし≫がどれだけ過酷な勝負か、この時の僕には分かっていなかったんだ―――。




つづく

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