転生したら薬物中毒のホストになっていた件(2)
転生した僕は、二段ベッドの下段で目を覚ました。
そのことに気付かずに起き上がろうとして、上段ベッドにしこたま頭をぶつける。
「っつー……!」
すると、げらげらと下品な笑い声が聞こえて、僕は部屋の中に、僕以外のもう一人がいることに気付いた。
「おまえ、それ、何回ヤんだよ、え、何回?ウケる」
あー……完全に苦手なタイプだ……。
紫色にメッシュを入れたウルフスタイルの長髪に、左右合わせて十個以上はあろうかという耳ピアス、そしてしらす干しくらいしかない眉毛……。
「あ、あの……君は……?」
「は?ヤバくね?何そのキャラ。え、てかマジで言ってる?昨日トびすぎたんじゃね?」
「と、とび……?」
「だって、やってたべ、昨日も。俺、昨日はマジでヤベーんじゃねって思ったもん。『うわ、
あれ……?本当に、本物の仏飛丸さん、死んだんじゃありません?
そして、その器に僕の魂が入ったんじゃありません?
ともかく……右も左も分から無すぎて、このままじゃやばい!
「あー、あのさ……」
「あン?」
「あっ!あのっさあ!ぼく、あ、俺っサァ!チョッと記憶トンじゃってっみてーでっサァ!なんかぁ!だりいわマジでぇー!」
「マジで!だりいな!」
「っからサァ!色々教えてくんねぇっつー話!マジで!」
「良いっしょ!任せろっつー話っしょ!」
話し方は、とりあえずこんな感じで正しいっぽい。
よし、出来るだけこいつから仏飛丸の情報を集めるんだ!
「ところでサァ!お前名前なんだっけ、マジで!?」
「
喋り方こそ気に食わないが、何故かその名を聞いた時、何か色々丁寧に教えてくれそうな奴だな、と思った。
どうやらこのヤニ臭い部屋で、一緒に住んでるっぽいし。大切にしよう。
ナビから一通り、ホストのルールや僕の立ち位置などを教えてもらった所で、出勤時間になった。
どうやら仏飛丸は、この店のNo. 1らしい。ホストというのは超のつく縦社会、かつ実力主義の世界であり、店のNo. 1といえば、時には店長やオーナーよりも強い権力を持つ。
この店、〈Another World〉のホストたちは、No. 1の
そして仏飛丸の入店以来、影に日向に支えてきた仏教徒の筆頭が、ナビというわけだ。
No. 1ホストがなぜ同居を?と疑問に思ったが、どうやら仏飛丸は別宅を持っており、ナビの家にはクスリをやりに来ているようだ。
クスリは全部ナビの家に置いてあるから、何かあってもナビを売れば、自分の罪は軽くなる。……最低だ。まあ、ナビもナビでヤク中には変わらないから、捕まっても自業自得なんだけど。でも、ここまで良くしてもらっていることもあって、僕は少しナビに対して同情的な気分になった。
〈Another World〉に着いた僕は、飛び出しそうな心臓を押さえながら、店の扉を開けた。
―――キンッ!!
一瞬、世界が青白く反転した。
めまいでもしたのかと慌てたが、意識ははっきりしているし、僕はまっすぐ地面に立っていた。
だが異変は僕ではなく、外にいるナビに起きていた。ナビは、その場に氷漬けにされたかのように、瞬きひとつせず、完全に停止していたのだ。
『仏飛丸よ』
ナビに駆け寄ろうとした僕の背中に、聞き覚えのある声がかかる。
振り返ると、僕をこの地獄に叩き落とした、あの女神がいた。
「め、女神様……」
『大事なことを伝えるのを忘れていました』
「大事なこと?」
『一週間後に、全てのホストの頂点を決める、水商売界最大のホストバトル――≪ナイト・キング≫が開催されます』
ナイト・キング……。なんてださいんだ……。まるで中学生が考えた、ノートの端っこに出来心で書いた漫画の設定に出てくる敵キャラの名前みたいだ……。日本語に訳すと夜お……いや、やめとこう……もし本当にそんな作品があったら怒られそうだ……。
『その≪ナイト・キング≫で、もしあなたが一位になることが出来たなら……あなたを元の体に戻してあげましょう』
「えっ!?ま、マジっすか!?」
『しかも今なら、な、なんと!私の記念すべき1st写真集〈神界一のカメラマンとかいう奴がプロすぎて、気付いたら真っ裸にされていた件〉が漏れなく付いてきますっ!!』
び、微妙に気になるっ!けど今はネットですぐに何でも見れる時代だから、現代の高校生にとって写真集はそこまでお宝感無いんだ!
『ふふ……あまりの特典に声を失っているようね。でも茫然としている場合じゃないわよ!さあ、耳の穴かっぽじってよく聞きなさいっ!』
「はいっ!」
『≪ナイト・キング≫には、あなたを含めて総勢五名のホストが出場するわ。出場ホストは、大阪はミナミ、北海道はススキノ、ダークホースの福岡……。それから、あなたの他にもう1人、歌舞伎町から参戦することになってる。どのホストも、その店どころか地域一帯を代表する、強豪ぞろいよ』
「そ、そんなすごい大会で、一位……。というか、もしかして仏飛丸って、結構すごいホストだったんですか?」
『まあ、一応歌舞伎町の中でも有名店と言える、〈Another World〉のNo.1ですからね。でも、本来ならば彼には、まだそこまでの実力は無かった……。なのに、どうしても≪ナイト・キング≫に出場したかった彼は、裏の力に頼ってしまったのよ……』
「う、裏の力とは……?」
『平たく言えば、ヤクザね』
とんでもないことになってきた……。
『仏飛丸は、表の顔はホストだけど、裏はヤクの売人として、ヤクザの手先になるって契約を結んだの。だからもしあなたが≪ナイト・キング≫で優勝出来なければ、あなたはそのうち逮捕されるまで、ずっとヤクザの手先として生きていくことになる』
重い重い!手違いで許されるレベルじゃねえ!!
「でも、ヤクザが大会運営側に顔が利くなら、八百長で優勝も出来るんじゃ……」
『いいえ、ヤクザが影響力を持っているのは、あくまで「六本木の代表を決める」ことに対してよ。≪ナイト・キング≫そのものの運営は、全国の組がそれぞれ、ケツモチとして牽制しあってるから、完全に中立なの。もしどこかの組が、特定の出場者に肩入れして大会に手を出そうとしたら、全国の組が一斉に手を組んで、おイタをした組を潰しにかかるでしょうね』
何なんだ、その無駄に入り組んだ設定は……!コメディにそんな設定いらねえだろ!!
『恨むなら、深夜テンションで変なアイデア思いついて、プロット無しで衝動的に書き始めてから、どんどん設定を後付けしたくなるゴミみたいな作者を恨みなさい』
毎回後悔するんだから、いい加減その癖直せクソ野郎ッ!!
『さあ、あなたに残された道は、≪ナイト・キング≫で優勝するしかないってことが理解できたわね?詳しいルールは、そこのナビって男から聞きなさい。それじゃ、幸運を祈るわよっ!!』
「ま、待って……うわあっ!」
女神の姿が眩く光り、視界がホワイトアウトした。
視界が回復してきた時には、既に女神の姿は無く、僕は床に膝をついていた。
「仏飛丸、大丈夫かよ、オイ?」
心配そうな表情で、ナビが僕の肩をゆさぶる。僕はナビの手を借りると、ゆっくりと立ち上がった。
正直、自信は無い。全然無い。だって、昨日までただの平凡な、存在感の薄いモブ高校生だった僕が、一週間で全国一位のホストになれって?
でも、やるしかない。
「ありがとう、ナビ。とりあえず……≪ナイト・キング≫ってやつのルールを、僕に教えてくれないか?」
≪ナイト・キング≫の名を出した僕の顔を、ナビは驚いたように見つめてから言った。
「あれ?なんか話し方違くね?」
「うん、もう面倒くさいから、この話し方でいくわ」
ナビは特に疑問を抱かず、「ふーん」とだけ相槌を打ってから、僕に≪ナイト・キング≫のルールを説明し始めた……。
つづく
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