媼憑(2) ※ガチホラー注意
私は父に、母が流産をするのはもやのせいである、ということを話した。
父ははじめ、まともに取り合ってくれなかったが、あまりにも私がしつこいので、こんなことを言ってきた。
「もう少し先やと思っとったけど、お前にお祓いを教えるわ」
それから私は、父に教えてもらったお祓いを実践することにした。
まず、鬼門となる場所に、清めの塩を置いた。それから、
すると、気のせいか、もやが日に日に小さくなっていくような気がした。私は嬉しくなって、朝晩だけでなく、自由時間のほとんどを祝詞を唱えることに費やすようになっていった。
そんな私の姿を見て、両親は心配したが、私は気に留めなかった。なぜなら、もう少しでこのもやも消えるのだから。もやさえ消えれば、私は元の生活に戻れるのだから。
私が小学校を卒業する頃、もやはもはや握りこぶし程の大きさになっていた。
もう少しで、もやが消える。そう思った。そんなある日。
父が、家族旅行に行こうと言い出した。
私が中学生になれば、部活だなんだと忙しくなるだろうから、卒業記念を兼ねて温泉にでも行こうと言うのだ。
私は最初渋ったが、母からも頼まれたため、
(まあ、一日くらい良いか……)
と思い直し、首を縦に振った。
そうして私たちは、群馬県の草津まで足を運んだ。
小学生の私には、草津の湯の素晴らしさは分からなかった。
たまに家で使う入浴剤の方が、よほど良い匂いがする。
だが、夕食には舌を巻いた。特に、信じられないほど柔らかい牛肉のすき焼きは、それまでの人生で食べたものの中で、間違いなく一番美味かった。
すぐに食べてしまうのが勿体無くて、私は薄い牛肉を何枚にも千切り、少しずつ口に運んだ。
そんな私の様子を笑いながら見つめ、両親は一枚ずつ、私に牛肉を分けてくれた。
それだけではなく、上機嫌の父は、なんとまだ中学生にもなっていない私にお猪口を渡し、熱燗の瓶口を向けた。
「ちょっとお父さん。
「良いが、一口くらい。俺もこんくらいの頃から、たまに親父に
私は、何だか父に、一人前の男だと認めてもらったような気がして、咎めるような母の視線に気づかないふりをし、お猪口を傾けた。
とくっ……とくっ……。
お猪口に半分まで注がれた酒に、私は恐る恐る口をつけた。
酒は苦い、と聞いていたが、舌先に触れた酒は甘く感じた。そのため一気に飲み干してみると、口、喉、腹と、順に焼けるような熱さを感じ、私は目を丸くした。次いで、咳き込む。
慌てた母が、私の背中をさすってくれた。だが、父に情けないと思われるのが嫌で、私は母を手で制し、涙目になった顔を上げてにかっと笑った。
「酒って、美味いじ」
それを聞いて、父は豪快に笑った。
そんな、楽しいひと時とアルコールのせいで。
私は、日課である祈祷を、忘れてしまったのだ。
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