ウートニキ・ノヅソナミの伝説(2)

桃鉄。

それは騙し合い、奪い合い、なすりつけ合う死のゲーム。

街は破壊され、田畑は吹き飛び、海が荒れ狂い、貧乏神がおじゃまするのねん。


私は恐怖に震えました。


しかし、どうしても『ウートニキの秘宝』を手にしたかった私は、この勝負を受けることにしました。

この時点で、私はもはや『ウートニキの秘宝』に取り憑かれていたのかもしれません。


私は、およそ100年に渡る死闘の末、ついに勝利を得ました。



「やるな小僧…」


ふふ…あなたも老人にしては強かったですよ。


「言いおるわい。よかろう、貴様に秘宝のありかを教えよう」



老婆から、秘宝のありかが描かれた地図を渡された私は、期待に膨らんだ胸を抑えながらその場所へと向かいました。


私が辿り着いたその場所は、ウートニキ・ノヅソナミが静かに眠る、さびれた墓地でした。


墓地には、何ら手入れなされていない雑草のグラウンドに埋もれるように、彼女の名が刻まれた子供の背丈ほどの小さな墓標がぽつんと建っていました。

彼女ほどの英雄が眠る場所にしては、あまりに寂しい景色です。


私は一度手を合わせると、彼女の墓標に近づき、そっと手を添えました。

彼女が旅した大海原の荒波の音が聞こえてくるようでした。


それから私は、老婆に教えてもらった通り、彼女の墓標からちょうど真東に見える、大きな杉の木の下を掘りました。

1メートルほど掘り進んだところで、古ぼけた鍵のようなものが見つかりました。


私はその鍵を、墓標の真ん中にある窪みに入れ、思い切り回しました。

すると、墓標はぱかりと割れ、中から墓標が出てきました。



今度は、墓標から真西にある、やはり大きな杉の木の下を2メートル掘りました。

また古ぼけた鍵が出てきました。


私はその鍵を、墓標の真ん中にある窪みに入れ、思い切り回しました。

すると、墓標はぱかりと割れ、中から墓標が出てきました。


???


私は真南を掘りました。

ぱかり。

墓標。


私は真北を掘りました。

ぱかり。

墓標。


これマトリョーシカじゃねえか!!

ノルウェーじゃなくてロシアじゃねえか!!


ブチ切れた私は、手のひらサイズになった墓標を地面に叩きつけました。

なんと罰当たりな男でしょうか。あまりの怒りゆえ、我を忘れてしまいました。


ところが、なんと地面に叩きつけた墓標はあっさりと割れ、中から一枚の紙切れが出てきたのです。

もしや、これが本当の秘宝のありかを示した地図…?


私は、はやる気持ちを抑えながら、紙切れを手に取りました。

不自然に真新しいその紙には、一言だけ書かれていました。


『秘宝はここには無いのねん』


クソババァーッッ!!


私は100メートル14秒2の俊足を飛ばして老婆の元へと戻りました。



「おや、そんなに慌ててどうしたんだい?」


騙しやがったな!


「はて?なんのことじゃ?」


秘宝のありかを教えてくれる約束だっただろ!


「なんでお前さんに秘宝のありかを教えなきゃならんのだい」


桃鉄で勝負して、あんたが負けたんじゃないか!


---ぴかっ。


うっ…眩しい…なんだこの光は…。


「もう一度聞くよ。なんでお前さんに秘宝のありかを教えなきゃならんのだい」


あれ…?なんでだっけ…?確か桃鉄で…。


「あんたが負けたんだろ?」


そう…そうだった…。


「分かったらとっとと帰りな」


はい…お邪魔しました…。



こうして、私の秘宝探しの旅は終わりました。


結局、『ウートニキの秘宝』なんてものは存在しなかったのかもしれません。

よくよく考えれば、自分に都合の悪い事実を消し去るなど、眉唾も良いところです。


すっかり肩を落とした私は、帰国後すぐに、行きつけの居酒屋へ向かいました。

酒でも飲まなきゃやってられない、そんな気分だったのです。


からんからん…


「大将ー、大ジョッキといつもの……」


「あれ?水無月、お前インフルエンザで明日まで休みじゃ…」


「ぶ、部長!?」


やはり、もう一度秘宝探しの旅に出たいと思います。




おわり



※この物語はフィクションです。

 登場する人物、名称、邪眼は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る