21話 エルミナの決意


 初めて師匠に修業をする。




(どんなことをするんだろう...)




 宿で修行のことを考えていると師匠が宿にテレポートで転移してきた。




「やあクリスくん。今日から修業がするけど大丈夫?」




「はい。よろしくお願いします」




「じゃあ場所を変えるよ」




 師匠がテレポートを使い、一瞬で宿から草原に飛ばされた。




(すごい。本当にすごい。俺も今後こんな魔法が使えるようになるかな)




「じゃあまず君の弱点は何だと思う?」




「そうですね...。前にもおっしゃられていた通り自分の実力をわかっていないところですか?」




「まあそうだね。でもそれは私の意見。クリスくんの意見を聞かせてほしいな」




「...」




 俺の弱点...。そんなのいっぱいある。まず剣術の基礎がまだできていないこと。そして魔法を使いこなせていないところ。戦闘中に周りを見切れていないところ。山ほど弱点なんて出てくる。その中で俺のもっとも弱点と思える点は...。




「魔法を使いこなせていないところですか?」




「50点ってところかな? 魔導士として魔法を使いこなすことは誰しもが課題だね。でもクリスくんはまだそのレベルではない。クリスくんはまず自分の魔法を安定して使えるようになってもらうことが今の課題だね」




「はい」




 魔法を安定して使うこと...。もうできていると思っていた。魔法を使っているってことは安定して使えているって思っていた。




「だから今日から出す課題をできるまでやってもらうよ。頑張ってね」




「はい」




「まあそう身構えないで。簡単なことだから」




「え?」




 簡単なこと? 簡単な訓練で魔法が安定して使えるようになるのか? 




「やってもらうのは一つ。火玉ファイヤーボールを起動しないで維持してもらうこと。それだけだよ」




「わかりました」




 そんな簡単なことでいいのか? そんなことは誰にだってできる。それで本当に魔法が安定して使えるようになるのか? いや、師匠を疑っているわけじゃないぞ? でも普通はそう思う。




「それで維持してもらう時間だけど最初は1時間ね。その次は2時間。最後は3時間。そしていま出した課題が終わったら火玉ファイヤーボールと他の魔法を使って維持してみて。これを続けていけば魔法を安定して使えるよ」




 1時間...。そんな長くできるか? まあやってみるしかないよな...。




「じゃあ始めて」




「はい」




 火玉ファイヤーボールを起動して維持してみる。最初の3分は楽でよかったが、5分経ったところらへんから少しずつつらくなっていき、10分経った頃には火玉ファイヤーボールが消えてしまった。




(10分程度でここまでつらいなんて...)




 立っていることすらつらくて草むらに座ってしまう。すると師匠が俺のところに来る。




「まあ頑張った方じゃない?」




「そ、そうなのですか?」




「普通の魔導士なら10分持つか持たないかレベルだからね。だから最初にしてみれば頑張った方だと思うよ」




「はい...」




 普通の魔導士が10分持つか持たないかレベルって聞いて少しホッとしてしまった。でもすぐその気持ちになったことが嫌になった。普通の魔導士じゃダメなんだ。俺は普通の魔導士を目指しているわけじゃないだろ。パーティ---フューチャーヴューのメンバーを守れるぐらいの魔導士と剣士になるのが目標だろ。




「この練習は地道に頑張るしかないから頑張って」




「はい」




「後、どこでもできるから暇な時間にやってね。1週間たつごとに進捗を聞きに来るからね」




「ありがとうございます」




 3時間ほど師匠と練習の話などをしてエミルークの関所前に届けてもらった。まずはみんなと今後の予定を決めて、そこから練習できる時間を決めよう...。




 そう思いながらエミルークに入ると何やら騒がしかった。近くにいる人に聞いてみると




「なんかエルフの人たちがギルドの人を襲ったらしいよ」




「ほ、本当か?」




「えぇ」




 それを聞いて急いでみんなを探しに行く。十分程度探してやっと見つけた。




「みんな大丈夫か?」




「大丈夫...」




「うん...」




「はい...」




「あぁ」




 本当にみんな無事でよかった...。でも俺の目論見が甘かった。多分第二王子派閥の人たちだろう...。こんなに早く見つかるとは思っていなかった。




「それにしてもなんで私たち狙われたんだろう...。エルミナさんわかる?」




「...」




「別に言いたくなければ言わなくていい。そんなことより今後もこんなことあると仮定して対策しなくちゃだな」




「そうですね」




 でもこんなパーティでよかったと思った。人が踏み込んでほしくないところは踏み込まない。そんな奴だから仲間に選んだんだろうなって実感した。




 翌日、ルビアとアメリアが俺の部屋に来た。




「ちょっとクリス!」




「クリスさん!」




「どうした?」




 それにしてもなんでエルミナはいない? もしかして...。




「エルミナがいなくなっちゃったの!」




 やっぱりこうなったか...。多分エルミナは俺たちのことを考えて...。




「まずエルミナを探そう」




「はい」




「わかったわ」




「俺はノアを呼んでくるから二人は先に探していてくれ。1時間後にここに集合ってことで」




「「了解」」




 まだ出て間もないかもしれない。まだ間に合う可能性はある...。

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