閑話

『さ、小枝さん!か、海君が名前で呼んでくれました!』

「そう、良かったわね」


 私は佐伯 小枝(さえき さえ)。今は息子の彼女さん、菫ちゃんと電話している。先日始めてあった日に仲良くなり、連絡先も交換して、時折連絡を取り合ってる。


 最初は海にあんなにかわいい彼女さんが出来てビックリして、何か騙されているんじゃないかと思ったけど、どちらかといえば菫ちゃんの方が惚れているというのが見て分かった。


 それから少し海の事や最近の事を話してから電話は終わった。そしてソファーでくつろいでいる海に話しかける。


「あんた、ちゃんと名前呼んであげたのね」

「まあ最終的には呼びたいと思ってるし、まあ余裕だったし?」

「どうせ帰り際で呼んだんでしょ?」

「な、ナンノコトダロウナー」


 完全に目が泳いでいる。根性なしというか臆病者のところはお父さんそっくりになったわね。


「ていうかいつの間にそんなに仲良くなったんだ?俺はそっちの方がビックリなんだけど」

「この前始めてあった時にはもう連絡先交換したわよ」

「早っ!そんなに仲良くなるところあったっけかなー?」


 まあ、海は分からないでしょうね。あの日帰り際に、一気に仲良くなれたんだから。




____________________________________________

(三人称視点)




「菫ちゃん、ちょっと良い?」

「は、はい。大丈夫です」


 帰り際、海が菫を送ろうと玄関まで行くと、リビングの方から小枝が菫を呼ぶ声が聞こえた。


「帰り際に申し訳ないわね」

「だ、大丈夫です」

「そんなに緊張しないで。ちょっとお願いがあるだけだから」

「お願い、ですか?」


 そう、と一言告げ話し始める小枝。


「私はあなた達が付き合うのにはものすごく賛成しているわ」

「は、はい!ありがとうございます!」

「その上でお願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら?」

「は、はい」


 一つため息を吐き、話し始める小枝。


「あの子に愛想をつかさないでほしいの」

「愛想を、ですか?」

「ええ。あの子は昔から他人には無頓着で、自分から積極的に何かをしようとする子ではないわ」

「そうなんですか?」

「ええ。菫ちゃんも何か感じない?」

「ああー、確かに未だに名前で呼んでくれませんね」

「……それは今度言っておくとして、まあ菫ちゃんも気づいているところはあると思うわ」

「はい、そうですね」

「だけど決してあなたに興味がないとかではないのよ?確かにあなたの事は今日初めて聞いたけれど」

「小枝さん」

「え?」


 と、いきなり菫は小枝の両手をつかんだ。


「私が海君に愛想をつくことなんて、絶対にありません」

「そ、それは分からないじゃない」

「確かに最初付き合っていたときは、少し海君が遠慮して距離がありました」

「……そうなのね」

「はい。ですが最近は海君の笑顔を見ることも増えてきて、すごく幸せなんです!」

「……あの子が」

「それに海君は優しくて、困っている人を見過ごせない凄い人なんです。私はそんなところに惚れました」

「…」

「私の外見だけではなく、私の中身を見てくれた、初めての人なんです」


 そう言い、立ち上がる菫。


「多分小枝さんは海君みたいにものすごく優しい方なので、私と海君の事を心配してくれているのでしょう」

「……私は二人の事を応援している。だからこそ、傷ついてほしくない」

「大丈夫です!」


 元気にそう言い、振り返る菫。


「いつかその思いが杞憂になるくらい、相思相愛になってみせますから!」


 誰もが見惚れる笑顔をあてられ、顔が赤くなる小枝。


「……ますますあの子には勿体ないと思ってきたわね」

「え?」

「いえいえ、何でもない。あ、連絡先交換しない?」

「は、はい!是非!」


 そして二人は連絡先を交換し、小枝は玄関から菫を見送った。


「……頑張ってね、菫ちゃん」


 そう一言言い、小枝は夕御飯を作りに、リビングに戻ることにした。



 

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