第181話 ゲスモブ、実験する
アイテムボックス、分解、復元、三つの魔法の組み合わせは、怖ろしくチートだ。
日本に戻って来てからも、様々な場面で魔法を使ってきたし、検証や訓練も続けているから精度や威力は更に上がっている。
先日、坂口と井川の要望を叶える形で、女王アルフェーリアへの復讐を前倒ししたのだが、やはりサイゾー達への影響が心配だ。
まぁ、女王自身もサイゾーのあの魔法の威力を目の当たりにしているから、迂闊に手は出さないとは思うが、それでも念押ししておいた方が良いと思ったのだ。
今回のターゲットは、坂口達を凌辱していた兵士達だ。
一部の人間は、俺がアイテムボックスの中から刺殺したが、それでも全員ではない。
まだあの兵舎には、坂口達を凌辱した兵士がのうのうと暮らしているのだ。
そいつらに鉄槌を下すと共に、女王に強烈な警告を与え、しかも俺自身の魔法の実験もする一石三鳥のイベントを開催する。
「ねぇねぇ、善人。それで、どうやって兵士達を痛めつけるの? あんまり無茶しちゃ駄目だよ」
「心配するな、今回は刃物は使わない。簡単な化学の実験をするだけだよ」
兵士たちに鉄槌を下すと言ったら、清夏も見たいと言い出した。
たぶん、俺が大量殺人を行って、精神的に病むのが心配なのだろう。
「化学の実験って、魔法を使うんじゃないの?」
「勿論、魔法を使うんだけど、最終的には普通の化学反応を使うんだ」
「化学反応? もしかして毒ガスとか?」
「そうか、毒ガスっていう手もあるか……いや、こっちの世界の建物は密閉度が低そうだからな……」
毒ガスで悶え苦しませて殺すというのも楽しそうではあるが、現実的には分解、復元の魔法で毒ガスを発生させる方法が思い浮かばないし、材料を手に入れるのも面倒そうだ。
「毒ガスじゃないとしたら……何をするつもり?」
「やっぱ爆発だろう」
「爆発って、まさか原子爆弾とか?」
「あぁ、そうか、分解の魔法をつかったら、核分裂とか起こせるのか?」
「ちょっと、止めてよね。危なすぎるよ」
清夏に言われて原子爆弾の可能性を思いついたが、下手に爆発に巻き込まれたらそれこそ助からないから止めておこう。
今回使う方法は、もっと簡単で、単純で、しかも効果が期待できる。
「じゃあ、城の風呂場に行くか」
「ちょっと、実験するんじゃなかったの? 善人のエッチ……」
「清夏が何を期待しているのか分からないけど、俺は実験の材料を手に入れに行くだけだからな」
「えっ……べ、別に私も期待なんかしてないもん」
「そうか、それは残念だ。実験の後には期待に応えようと思ってたのにな……」
「もう、善人のエッチ!」
くぅ、なんだこの可愛らしい生き物は、実験を終えたらメチャクチャするからな。
清夏にバシバシと叩かれ、ニヤニヤしながら城の風呂場へと移動する。
「善人、実験の材料って何なの?」
「お湯だよ」
「お湯?」
女王専用と思われるデカい風呂は、裏側の魔道具によって新しいお湯がジャンジャン作られ、源泉かけ流しのようになっている。
ここから分離させたアイテムボックスの内部に、使われずに流されているお湯をいただいていく。
「ねぇ、善人。私たちが浸かるだけなら、もう十分じゃない?」
「実験には、もっと多くのお湯が必要なんだよ」
「お湯……分解……って、まさか」
「そう、水素爆発を使う」
兵舎の地下牢は、坂口達の収容に使った後は放置されたままになっている。
そこへ大量の水を流し込み、分解の魔法で水素と酸素に分解してしまうのだ。
「ちょっと、私達も巻き込まれちゃうんじゃないの?」
「心配すんな。アイテムボックスの中からも分解の魔法を使えるのは検証済みだし、中にいれば外部の物理的な影響は受けないから大丈夫だ」
アイテムボックスに入ったままでも外に向かって魔法を使えるが、壁抜けが可能なように外部からの影響は受けない。
実に都合の良い設定だが、たぶん最初に魔法を手に入れた時に自然に俺が思い浮かべて実現した性能なのだろう。
あの混乱した状況で、とっさに設定を思い浮かべた当時の俺を誉めてやりたい。
「よーし、そろそろ良いかな」
「って、どのぐらい貯めたの?」
「んー……学校のプールぐらい?」
「えぇぇぇ……それを一度に分解したら、どれぐらいの水素が出来るのよ」
「単純計算だと三分の二が水素じゃね?」
「それ、爆発したらどうなるの?」
「それを実験するんじゃねぇか、さぁ行くぞ」
「えぇぇ……」
渋る清夏を無視して兵舎に移動する。
あの後、慰安用の奴隷は与えられていないのか、夜の兵舎は静かなものだった。
「善人、それは?」
「見ての通りの蝋燭だ。これを地下牢に続く階段の上に火を点けて置いておく。水を分解して発生した水素は軽いから上昇して……」
「そんなに上手くいくの?」
「まぁ、やってみるさ」
アイテムボックスに溜め込んでいたお湯を地下の空間に放出し、すかさず分解魔法で水素と酸素に分離した。
「あれ? 蝋燭の火が消えたの……うわぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
実験は失敗したかと思いきや、一瞬の間を置いた直後に凄まじい爆発が起こった。
外部の様子が見えるように窓を開けておいたが、音は伝わらないように設定しておいて正解だっただろう。
かっと閃光が走ったと思ったら、舞い散る土砂で窓の外の視界は塞がれてしまった。
「外に移動するぞ」
急いで兵舎の外へと移動したのだが、石造りの兵舎は崩壊していた。
「すっげぇぇぇ! 想像以上の威力だ」
「善人、これヤバすぎだって」
「水を分解したから、爆発に必要な酸素も確保されていて、この威力になったんだろうな」
「ねぇ、中にいた人って、どうなったんだろう」
「清夏、細かい事は気にしちゃ駄目だ」
「えぇぇぇ、細かい事って……」
「さぁ、風呂に行くぞ」
「ちょっと、善人、えぇぇぇ……」
この後、風呂場に移動して、清夏の期待に応えてメチャクチャした。
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