第178話 オタデブ、再び偵察に行く(後編)

※引き続きサイゾー目線の話です。


 邪竜を観察するために隠れていた木立を出て、牧草地を突っ切って村へと向かう。

 途中、弓を構えた奴が居たから、弾速重視の砲撃で吹っ飛ばしてやった。


 村に近づいていくと、そちらにも弓を構えた連中と、槍や剣で武装した連中の姿があった。

 道路には樽を置いて、バリケードのようなものを築いているが、そんな物は何の役にも立たないと思い知らせてやろう。


「サイゾー、右手のあの建物が良いんじゃない?」

「そうだね」


 宮間さんが、村人たちが集まっている手前の建物から少し離れた右手の建物を指差した。

 その建物目掛けて、見た目にも派手な巨大な火球を撃ち込む。


 ズドーン……っと轟音を響かせて二階建ての家は粉々に吹き飛んで炎上した。


「十数える間に、武器を捨てて投降するか、それとも皆殺しにされるか選びなさい!」


 宮間さんが身体強化の能力を使って、大音声で村人たちに呼びかける。


「十、九、八、七、六、五、四……」

「待ってくれ! 降参だ! 投降する!」


 樽を積んだバリケードの中から、クジロ村長が両手を振りながら出て来た。


「村人全員、武器を捨てて、百数えるまでに牧草地に集まりなさい! その後で村に残っている者は一人残らず処刑するわ!」


 村人に要求を突きつける宮間さんは、実に堂に入っている。

 文化祭で悪役令嬢ものの劇を上演するならば、間違いなく宮間さんを抜擢するね。


 襲撃を受けた後、一旦は村人を皆殺しにしようと思ったのだが、木島の強い要望で投降を促すことになった。

 ド派手な攻撃で村人の心を折り、考える時間を与えずに投降を促す作戦だが、ここまでは上手くいっている感じだ。


 牧草地に集まり始めた村人と僕らまでの距離は百五十メートルぐらいあるだろうか。


「これで全員だ! 一人も残っていない!」

「じゃあ、これから武器を持っていないか調べるから、全員そこで裸になって移動しなさい! 靴も下着も全部脱ぎなさい!」

「ふざけるな! お前らに何の権利があって……えっ?」


 前に出て喚き散らしたオッサンの腹に、圧縮した小さな火球を撃ち込む。


「ブレイク!」

「うがぁぁぁ……腹、ぐぁぁぁぁ……」


 オッサンは腹の中から噴き出した炎に包まれて、みるみるうちに黒く焼け焦げていく。


「逆らうなら殺す! 私たちは女王陛下の命を受けて調査に赴いたのに、それを邪魔し、あまつさえ殺そうとした自分らの罪を自覚なさい!」


 オッサンの死に様を見せつけられた村人たちは、大慌てで着ている物を脱ぎ始めた。

 今は陽気の良い時期だけど、宮間さんなら雪の季節であろうと容赦なく同じ事を命じていただろうね。


 素っ裸になった村人を移動させ、一塊にして跪かせ、村長をこちらに呼びつけた。

 村長は体格に見合った立派な物をぶら下げているが、今は恐怖で縮こまっている。


 ここからは、宮間さんに代わって僕が交渉する。


「さて、弁明を聞こうか、クジロ村長」

「申し訳ございませんでした! 全ては私の指示でございます。どうか、どうか、私の命でお許し下さい!」


 村長は文字通り地に額を擦り付けて懇願したが、簡単に許せる訳がない。


「何を言ってるんだ、村長。貴方たちは国に対して反乱を起こしたのだよ。村長の首一つで許されるはずが無いだろう。僕らが女王陛下に報告を入れれば、この村は跡形もなく無くなってしまうだろうね」

「お許しを! どうか、どうか、お許しを! 竜様を討伐されたら、ワシらの暮らしは立ち行かなくなります!」

「だから、調査隊を皆殺しにして、村に来なかったことにしようと考えたのか? 第二、第三の調査隊が来たらどうするつもりだったんだ? そいつらも殺すつもりだったのか?」

「お許しを……どうか……どうか……」


 村長はブルブルと震えながら、唯々許しを請うばかりだ。


「村長、何度も言わせないでくれ、貴方の首一つじゃ収まらない事態なんだよ」

「で、では、どうすれば……」

「まず、英雄の墓を建ててくれ」

「はっ? 英雄……?」

「貴方たちが殺した兵士は、山賊と戦い、村を守った英雄にするんだ」

「そんな事が……」

「勿論、バレた時点で村は終わりだ。一人でも裏切者がいたら、今度こそ全員が処刑される。例え赤子や幼児であっても許されないだろう。その覚悟はあるか? まぁ、他に助かる方法は無いけどな」


 土に汚れた顔を上げた村長は、ゴクリと生唾を飲み込んだ後で、大きく頷いてみせた。


「やります。村のみんなが助かるなら……」

「よろしい、それでは仕事を始めようか。くどいようだが、一つだけ忠告しておく。今後、僕らに逆らう者がいたら、それは村としての統率が取れていないとみなし、その時点で皆殺しにする。さぁ、村のみんなに伝えてきたまえ。我々には絶対服従し、決して裏切らない事を徹底したまえ」

「分かりました」


 村長は、素っ裸のまま交渉の行方を見守っていた村民の所へ戻り、事情の説明を始めた。


「木島、これでいいのか?」

「うん、ありがとう、桂木君」

「こちらの世界での僕らの拠点作りのテストか、あまり参考になるとは思えないけど」

「一度は敵対した者達を制圧し、懐柔するテストにはなるんじゃない? 女王と敵対したからといって、この国の人間を根絶やしにするまで戦い続けられないでしょ」

「まぁね」


 確かに敵対した者を全て根絶やしになど出来るはずがないので、飴と鞭で飼いならす必要はある。


「木島、どれでも一人、好きな女を選んでいいぞ」

「えっ?」

「娼館に行くほど溜まってるんだろう? 遠慮しなくていいぞ」


 むしろ僕が選びたいぐらいだが、宮間さんが居る限り不可能だ。


「選びなさいよ」

「そうそう、もう童貞じゃないんだろう」


 宮間さんと鹿島さんからも促された木島は、村娘を一人選んで奴隷として侍らせる事になった。

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