第175話 王弟、笑う
※今回は、王弟バルダザーレ目線の話になります。
突然、一枚の紙が降ってきた。
邪竜討伐部隊が移動したワイザール駐屯地の司令官からの報告書に目を通していたら、ヒラリと空中から降ってきたのだ。
突然の事態にドキリとさせられたが、その紙に書かれた内容を読んだ衝撃は比べ物にならないほど大きかった。
「な、なんだと!」
思わず椅子から立ち上がってしまったほど、書かれていた内容は衝撃的だった。
この国の女王である姉を拉致し、足かけ三日に渡って拷問したというのだ。
初日は執拗に痛みを与え、二日目は強制的な性的快楽と絶頂を与え続け、三日目には目隠しをした状態で台に縛り付け、何も知らない村人に凌辱させたらしい。
俄かには信じられない内容だが、この紙を届けた人物ならば可能なのだろう。
サイゾー・カツラギとの交渉の最中、護衛として同行していたユキ・ミヤマが口を滑らせたことで知った『クロイ』という男は空間魔法の使い手だ。
サイゾーが桁外れの攻撃魔法を行使するように、恐らくクロイも常識外れな空間魔法の使い手なのだろう。
行方を捜しただけで多くの兵士を失い、私自身も危うく命を落とすところだった。
神出鬼没、姿形も影すらも見せず、突然ナイフで抉られる恐怖は、味わった者でなければ理解できないだろう。
常識外れな空間魔法を使えば、王城にも自由に出入りできるし、姉を拉致することも可能なのだろう。
しかし、仲間が凌辱された復讐とは言え、一国の女王を凌辱して、男性の体液まみれの状態で城に戻すなんて、とんでもない事をしてくれたものだ。
姉の性格からしても、痴態を目撃した者は全員命を絶たれただろう。
姉は復讐されても仕方のない事をしでかしたのだし、どうなろうと知ったことではないが、王城の人材が無駄に消費されるのは好ましい話ではない。
平民には思いもよらない事だろうが、どうせやるなら一思いに殺してくれよと言いたくなるが……。
「ふふっ……ふっ……ふははははは! あの姉が、素性も知れぬ平民にぃぃぃ……うはははは! しかも、未だに生娘だっただとぉぉおほほほ! 死ぬ、死ぬ、私を笑い死にさせる気か! あはははは……」
あまりにも衝撃的な内容ゆえに気が動転したが、冷静になって想像してみると笑いを止められなくなった。
姉は驕慢という言葉が服を着て歩いているような人物で、平民など家畜か虫けらのようにしか考えていない。
昔から理想が高く、男嫌いかと思うほどの潔癖さは、自己賛辞の裏返しだった。
今回の異世界人召喚も、不老不死の力を得られると言われている竜の肝を手に入れるためだ。
己の体を美しいままで老いとは無縁の存在に高めようなどと考えていたのだろうが、その肉体を名も知らぬ平民の男共に寄ってたかって汚されたとは、滑稽にも程があるだろう。
「さて、どうしてくれようか……」
正直に言えば、今すぐ王城へ駆け付け、姉に気分はどうかと問うてみたい。
問うてみたいが、下手をすれば私の命が危うくなる。
姉は、この国の謀略を一手に司る暗部を掌握している。
何故あんな姉に従っているのかと言えば、姉の意志に背かなければ暗部もやりたい放題ができるからだ。
実際、私の行動も殆ど把握されているはずだ。
本音を洩らせる場所も、私の屋敷などに限られている。
「ありきたりだが、流言を撒くか……」
姉は国民から嫌われている。
重税を課し、民の暮らしを顧みないのだから当然だろう。
それでも国が保たれているのは、役人と兵士には金と地位を与えているからだ。
一般国民よりも良い生活をして、軽微な犯罪ならば罪に問われない特権を与えられた者達は、姉の手駒となって国民を抑え付けている。
それだけに 悪魔に魂を売ったとか、前王妃が蛇に孕まされて生まれた子だとか、姉に関するありもしない噂話が度々流れたりしている。
今回の件も街に流せば、たちどころに広まっていくだろう。
「そうだな……殺された城務めの者が、家族に宛てて書き残したとでもするか……」
女王が城から連れ出され、平民に凌辱された……では信憑性に欠けるから、自ら男を漁り歩く淫婦とでもしよう。
どうせ流言は伝わるうちに、尾鰭が付いて広まっていくものだ。
あとは、流言の出所が私であると、暗部の連中に悟られないようにせねばならない。
クロイが、どこの村で姉を凌辱させたのか分からないが、王都から余り離れておらず、それでいて大きくない村か集落だろう。
ならば、王都の外から流言を撒いて、尾鰭が付いて王都に伝わるようにしよう。
その過程で、実際に姉を凌辱した者達の耳に入れば、流言は信憑性に満ちたものとなるだろう。
「ふっふっふっ……流言が耳に届いた時、姉はどんな顔をするのやら……そうか、流言が王都に広まったのを見計らって、姉に真偽を問うてみるのも一興だな」
姉が吠え面をかく様子を想像するだけで、また笑いが込み上げてくる。
あとは、クロイの言うように、姉の恨みがサイゾー達に向かうのは少々心配だ。
清く美しい体を保つ必要が無くなれば、邪竜の討伐の意味も薄れそうだ。
少し間を置いて、邪竜への固執が薄れていないか確かめておくとしよう。
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