第174話 女王、復讐を誓う
※今回は女王アルフェーリア目線の話です。
「殺してやる、早く殺してくれと何度も懇願させてから、惨たらしく殺してやる……」
王族として生まれ、何一つ不自由のない人生を歩んで来て、これほどの屈辱を味わったことも、これほどの殺意を抱いたことも無かった。
周りの景色は何一つ見えず、身動きどころか口を閉じることも出来ず、誰とも知らぬ男どもに延々と犯され汚される。
一国の女王の身に起こって良い出来事ではない。
他国と戦争して、国が滅ぼされた訳でもなく、つい数日前までは女王として普通の日々を過ごしていただけなのに、なぜこんなに痛めつけられ貶められなければならないのだ。
一糸まとわぬ裸体は男達の生臭く不快な粘液に塗れ、拘束を解かれて転がった床で土埃に塗れ、肉体的にも、精神的にも身動きどろこか声を上げる気力すら残っていなかった。
「いやぁぁぁぁぁ!」
だが、そんな惨めな状態で城のリビングに放り出され、警護の兵士たちの目に晒されたと知った時、自分でも驚くほどの悲鳴を上げていた。
「じょ、女王様……?」
「これは一体……」
兵士たちの視線が体に突き刺さってくる。
驚愕、疑念、そして好奇の視線が突き刺さり、肉を抉られているような気がする。
「み、見るな……見るな……服を持って来い!」
私は床に敷かれた絨毯の上で、惨めに体を丸めて震えることしか出来なかった。
兵士たちは私から距離を置き、一応視線を逸らしているようだが、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。
「どうなってるんだ?」
「あの臭いって、精……」
「馬鹿、止めろ」
「だが、一人や二人の量じゃないぞ」
ローブを抱えた侍女が駆けつけて来たが、私の惨状を目にして卒倒しかけた。
頭からローブを被り、侍女に支えられながら湯殿に向かう。
自分の足で歩き、一人で体を洗い清めたかったが、長時間に渡って拘束されたことで、腕も足も思うように動かせなかった。
結局、髪も体も侍女に洗ってもらうしかなかった。
「構わぬ、指を入れて中まで洗え……」
そう指示すれば、己の体が奥まで汚されていると侍女たちに知らせることになるが、それよりも汚濁を注ぎ込まれたままでいる方が耐えがたい。
体を清めたことで、ほんの少しだが気力が回復した。
服を身に付け、私室に戻り、暗部の長を呼び出した。
王家にまつわる諜報、暗殺などの後ろ暗い仕事を一手に引き受ける暗部の長は、普段は私の執事として働いている。
「お呼びでしょうか?」
「我の醜態を目にした者を一人残らず始末せよ」
「畏まりました……」
一国の女王が目の前で失踪し、血眼になって行方を捜していたら、惨憺たる有様で突然現れたのだから、当然多くの兵士が集まり目撃していた。
その人数は、ざっと数えただけでも三十人以上だったはずだ。
リビングに駆け付け、入浴の補助をした侍女も総勢で十人以上はいたはずだ。
その人数を暗部の長が把握していないはずがないが、始末しろという命令に眉ひとつ動かさずに一礼すると、何事も無かったように退室していった。
これで、遅くとも一両日中に四十数人の命が失われ、世間から姿を消す。
遺体も無く、何の痕跡も残さずに失踪した形で姿を消せば、周囲の者は何が起こったのか嫌でも気付くだろう。
だが、それについて私が説明をすることは無い。
数日もすれば、私が晒した醜態など無かったことになるはずだ。
問題は、私を貶めた者達に、いかにして鉄槌を下すかだ。
標的は女二人、男多数なのだが、一人として身元が分からない。
恐らく、邪竜討伐のために召喚した者たちの一部だろうが、私に歯向かうなど無礼千万だ。
平民が王族のために働くのは当然で、王族の意思に異を唱えるなどあってはならない。
奴らの行動は万死に値するが、どうやって探し出せば良いのかも分からない。
ただ一つ手がかりがあるとすれば、拷問に用いられた器具の多くは、見たことも聞いたことも無い代物だった。
そこから導き出される答えは、奴らは元の世界と行き来する方法を手に入れたのだろう。
「どうすれば……どうすれば奴らを捕らえられる」
弟の屋敷から奴らが姿を消した時に、軍の人員も割いて行方を追ったが、探し出すどころか返り討ちにされた。
その上、弟まで脅されて、捜索は打ち切らざるを得なかった。
当時は王都以外の街か村にでも潜伏しているのだろうと考えていたが、あの時既に元の世界に戻っていたのだとすれば、我々には探しようが無い。
「いっそ残っている連中を……いや、それでは邪竜討伐に支障をきたすかもしれない……」
それならば、邪竜の討伐を終えた後でジックリ……いや、討伐直後に気を抜いた瞬間を狙った方が良いだろう。
その方が隙を突きやすくなるはずだが……。
「それで捕らえられるのは、奴らの仲間であって奴らではない……どうすれば……」
空間魔法の使い手をいかにして捕らえるか……私は答えの出ない思考を延々と繰り返した。
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