第173話 ゲスモブ、後始末をする
三日間に渡る女王への復讐が終わったのは、三連休最終日の朝だった。
ドロドロ、ボロボロ状態の女王を城のリビングに放り出した後、相当な騒ぎになっただろうが確認していない。
これで復讐に関しては完了、もう俺は関わらないと思っていたら、井川がとんでもない事を尋ねてきやがった。
「ねぇ黒井、あの女王を凌辱していた男共、皆殺しに出来ないかな?」
「はぁぁ? なに言ってんだ? 女王を凌辱させる男を集めて欲しいって言ったのは、お前だろうが」
「うん、そうなんだけど、見てたらムカついてさ」
「ふざけんな! 殺したかったら自分の手で殺せ。他人の手を汚させようとしてんじゃねぇよ!」
「ごめん……忘れて」
「忘れる訳ねぇだろう、お前はそういう女だと記憶しとくからな」
井川はバツの悪そうな顔をしていたが、オタボッチは根に持つのを忘れるなよ。
その点、坂口は素直に礼を言ってきたのだが、俺としてはどうしても言っておきたい事があった。
「黒井君、ありがとうね。これで切り替えて前に進んでいけると思う」
「いや、マジでもう異世界の件は忘れろ。女王を嬲っている時のお前ら怖すぎだ。完全に目が逝ってたからな」
「だろうね、自分でも抑制が利かなくなってるのは分かってたし、そうなると思っていたから直接的に命を奪いそうなナイフとかは使わなかったんだ」
いやいや、肩で息するほど鞭を振るっていたし、金属バットなんかフルスイングだったじゃないか。
命は奪ってないけど、鋏で耳とか乳首を切り落とすとか尋常じゃねぇよ。
「とにかく、もう異世界には関わるな。てか、関わらせねぇからな」
井川と坂口をアイテムボックスから送り出し、俺は報告のために清夏の所へ向かった。
結局、清夏が関わったのは二日目の終わりに清浄魔法を掛けたところだけだ。
清浄魔法が精神に影響を及ぼしているのか、清夏のゲス度は下がり続けている気がする。
異世界に行った直後だったら、たぶんノリノリで参加していたと思うが、今の清夏では見学だけでも途中でギブアップするだろう。
「とにかく、女王への復讐はこれで終わりだから」
「お疲れ様。でもさ、放置してて大丈夫?」
「なにが? 女王?」
「うん、今は凹みきってるかもしれないけど、立ち直ったら討伐組が危なくなるんじゃない?」
「あぁ、確かに……」
俺としては、どんなに痛めつけても復元の魔法を掛けておけば良いと思っていたのだが、最終日が終了した時点では、絶対に復元しないでくれと井川と坂口に頼まれたのだ。
自分が誰とも分からない男の子供を宿しているかもしれないという恐怖を、何としても女王にも味わわせたいそうだ。
「しゃーねぇ、サイゾーに丸投げしよう」
「うわっ、悪いんだぁ」
「まぁ、女王が立ち直った頃に、釘刺しに行くよ。仲間に手を出したら殺すって」
「うん、でもさ、そこまでやっちゃったら、女王無敵の人になってない?」
「あぁ、可能性はあるな。でも、実際に討伐組に手を出したら処分するから大丈夫だよ」
「そうか、なら良いけど……」
「とりあえず、サイゾーの所に行ってくるわ」
「うん、戻ったら連絡して」
サイゾーを目印にしてアイテムボックスで移動すると、馬車の荷台に出た。
どうやら、何処かへ向かって移動中のようだ。
サイゾーの隣にはゴリ間が座り、その向かい側には木島と鹿島が並んで座っている。
ゴリ間がサイゾーのベッタリとくっ付いているのに対して、木島と鹿島の間には明確な隙間がある。
先日、邪竜を偵察していたメンバーだと思うのだが、あの場所から戻る途中なんだろうか。
色々と推測を重ねようかと思ったが、昨晩殆ど寝ていないので頭が働かない。
何とかサイゾーに用件だけでも伝えたいのだが……。
「そうか、その手が……いや待てよ、うん、大丈夫だろう」
俺はメモ用紙に、ちょっとサイゾーを借りると書いて、サイゾーをアイテムボックス内に収集し、代わりにメモ用紙を放出した。
「く、黒井……どうなってる?」
「おう、アイテムボックスで収集、放出したんだ」
「それで馬車から直接呼び込んだのか?」
「そういう事、あぁ、一応サイゾーを借りるってメモは残してあるぜ」
「いや、駄目だろう……」
メモを残せば大丈夫かと思ったが、ゴリ間がブチ切れて何か暴れていた。
まぁ、見なかったことにしよう。
「それよりさ、女王への復讐を前倒しして実行したから」
「ふぁっ? 復讐? 女王に? 待て、なんだこのセット」
サイゾーは今更ながらに鉄パイプで組んだ磔台とか、チェーンソーとか、アダルトグッズ色々に目を向けた。
「えーっと……女王拷問セット?」
「なんで疑問形なんだよ。つか、何やったんだよ」
「まぁ、順を追って説明するな」
サイゾーに坂口と井川に頼まれたところから、三日間に渡る復讐劇を語って聞かせた。
「お前なぁ……凌辱された女王をそのまま戻すとか、何を考えてるんだよ!」
「あのな、サイゾー、あのババアはそれだけの事をやらせてんだよ。井川や坂口が、どんだけ酷い状況に置かれていたのか、お前は見てねぇだろう」
食って掛かって来たサイゾーだったが、俺に反論されると少し気圧されたような表情を見せた。
「悪かった。でも、もうちょっとタイミングというか、事前に知らせておいて欲しかった」
「それは俺が悪かった。けど、お前らに手を危害を加えるようなら殺すって釘は刺すつもりだぞ」
「黒井なら簡単なんだろうが……てか、それなら処分してくれれば良かったのに」
「いや、それは駄目だ。生き恥を晒させるのも目的の一つだからな。戻った連中が、どれだけネットのオモチャにされたと思ってるんだ」
「そうか、それなら仕方ないか」
「という訳で、一応サイゾーの方も警戒はしておいてくれ」
「分かった。今いる駐屯地の司令官はチョロいから、上手くやっておくよ。あぁ、出来れば王弟バルダザーレに女王の件を伝えてくれないか?」
「それって、大丈夫なのか? 一応、姉弟なんだろう?」
「そうだけど、バルダザーレにとっては自分が王位に就くためには邪魔な存在だから、退位を迫るネタに使えとでも書き添えれば大丈夫だろう」
「なるほどな、バルダザーレには伝えておくよ」
王弟の存在なんて、すっかり頭から抜け落ちていた。
確かに、凌辱された女王なんて王には相応しくないな。
「ところで、サイゾーは何処に向かってるんだ?」
「あぁ、邪竜が狩りをする草原の偵察だよ」
「おぉ、やっぱり眠っている所を不意打ちするよりも、大草原でやりあった方が楽しそうだよな」
「さすが黒井、分かってるな、その通りだよ。不意打ちなんかでドラゴンスレイヤーになっても楽しくも何ともないからな」
「だよなぁ、ところでサイゾー、宮間と付き合ってるのか?」
「ぐぅ……それは、そうなんだが……突っ込まないでくれ」
「分かった。でも、どうせヤルなら楽しんでヤレよ」
「はぁ……そうだな」
溜息を洩らしたサイゾーを馬車へと戻し、ザックリと女王への復讐の内容を書いた紙をバルダザーレの下へと届けてから日本に戻った。
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