第160話 ゲスモブ、転落モブを処す
オンライン授業の後、斉木からグループチャットの申請が届いた。
何やら話したい事があるらしい。
斉木は異世界での実戦訓練の最中に、死にかけていたメスオーガに頭を握り潰されて即死したが、俺が魔法を使って復元し、日本に送り返した。
体を復元する際に、異世界に召喚される直前の状態に戻したので、斉木は魔法も使えないし、異世界の記憶も失っている。
どうせ異世界の話を聞かせてくれとか、下らない要求をしてくるのだろうと思ったが、チャットルームには那珂川も参加していて、斉木は意外な話を切り出してきた。
「田沼の奴、なんとかした方が良いぞ」
「何とかって?」
「野球部の連中とかに、ある事ない事、嘘八百を並べ立てているらしい」
斉木同様に記憶を消した田沼は、授業はオンラインだが野球部の練習には参加しているらしい。
野球部には、斉木の中学時代の友人がいるそうで、そいつから情報が伝わって来たそうだ。
斉木はメッセージアプリのスクリーンショットや、音声ファイルを送信してきた。
内容は女子五人をヤ〇マン、俺と那珂川は尻穴王子呼ばわりする、誹謗中傷のオンパレードだった。
「これは……」
「ゴメンね黒井君、僕のせいで君まで巻き込んで」
「別に那珂川のせいじゃねぇだろう。大体、田沼の奴は異世界の記憶を失ってんだから、こんなの全部嘘じゃねぇか」
「あっ、黒井君は虐待されてないんだ」
田沼と同じく記憶を失っている斉木は、俺も那珂川と同様な性的虐待を受けていると思い込んでいたらしい。
「まぁな、俺は要領良く立ち回ったから……って、それより田沼をどうするかだ」
「データをダウンロードさせてもらったから、父さんを通じて弁護士に相談してみるよ」
「これで訴えられそう? もっと必要ならデータ集めるよ」
「どの程度データが必要か分からないから、集められるなら集めてもらえるかな」
「分かった、友達に頼んでみるよ」
「俺は法律とか分からないから、那珂川に任せていいか?」
「うん、黒井君には世話になってるからね。こっちの話は僕に任せて」
田沼の件を那珂川に任せると決めた後も、斉木は異世界について聞いてこなかった。
斉木も向こうに居る時には使えない奴だと思っていたが、意外にもまともだと分かったのは収穫だ。
グループチャットを終えた後、俺は独自で田沼に制裁を加えるために動くことにした。
とはいえ、田沼の顔すら良く覚えていないし、自宅の住所も知らないので、まずは捕捉するところから始める必要がある。
色々考えたが、田沼が野球部の練習に復帰しているのを思い出したので、アイテムボックスを使って高校へ移動する。
校庭では陸上部が練習を行っていて、野球部の姿は見えない。
今日は練習は休みなのかと思ったが、渡り廊下で筋トレをしている一団の中に田沼の姿を見つけた。
女癖も頭も悪いクソ野郎だが、練習には真面目に取り組んでいるらしい。
「さて、どうしてやろうかね。実害を被っているから珍走団より容赦なくやるとして、田沼の不祥事みたいな形になると、他の野球部員に迷惑が掛かるからな……」
まず頭に浮かんだのは、肘の腱や膝の靭帯の分解だ。
二度と野球が出来ない体にしてやろうかと思ったが、悲劇のヒーローぶられると鬱陶しいので止めておこう。
次に考えたのは、ネットからの遮断だ。
練習終了後、着替えを終えた田沼は、すぐさまスマホをいじり始めた。
自宅までチャリで移動する間も片手運転でスマホを眺めている。
ここまで来ると依存症レベルだろう。
「そうだ、あれをやってみるか……」
信号待ちで止まった田沼は、さっそくスマホを操作して、何やらメッセージを打ち込んでいる。
そこにアイテムボックスに入ったまま近付き、境界を移動させてスマホの内部を覗き見る。
「ここだ、分解……」
魔法を使って分解したのは、リチウムイオン電池の内部セパレーターで、効果は劇的だった。
「熱ぅ! 何だよ、これっ!」
内部ショートを起こしたバッテリーは煙を上げ、田沼が放り出した直後にスマホは炎上した。
「うひゃゃゃ……ザマァ! 燃えちまえばデータも全部消えただろう」
田沼のスマホは、その後も激しく燃え続けて、焼け焦げた金属と樹脂の塊に姿を変えた。
これでネットへの接続方法を一つ潰してやったが、生き返らせてやった恩人に仇なすバカ野郎は、この程度では許すつもりは無い。
呆然としている田沼の背後にドラッグストアの看板を見つけた俺は、ある品物を仕入れに向かった。
目的の品物をパクって戻って来ると、ちょうど自転車に乗った警察官が来たところだった。
警官は、まだ燻っているスマホを指差しながら集まっている野次馬に持ち主は誰かと呼び掛け、田沼が名乗り出ると事情聴取を始めたので、その間に俺も細工を進める。
「一応、名前と住所が分かる身分証明書は持ってる?」
「いや、別に俺は何も悪い事やってねぇよ」
「でも、これは君のスマホなんだよね? こうしたケースでも報告書を上げなきゃいけないんだよ」
警官が何やら用紙を取り出すと、田沼は露骨に嫌そうな顔をしてみせた。
別に何も悪い事をしていないなら、名前や住所を知られたところで問題無いだろう……てか、普段から行いが悪いから拒否反応が出るんじゃねぇの。
警官と押し問答をしている間に、俺は田沼への細工を終わらせた。
ドラッグストアからパクってきたイ〇ジク浣腸十個から中身を取り出し、田沼のS字結腸にぶち込んでやった。
更に、上行結腸には冷たい水を五百ミリリットルぶち込む。
細工を終えてから三十秒ほど経つと、田沼は顔を強張らせ、前かがみになって腹を抱えた。
「おうぅ……何でだ、ヤバ……」
「どうしたの? 生徒手帳とか持ってない?」
「いや、そんなん……うおぉ……」
真っ青になって額に脂汗を滲ませた田沼は、辺りを見回して交差点の斜め向かいにあるコンビニに目を止めた。
野次馬を掻き分けて、信号が青になるのを待って、交差点を渡り、コンビニまで……果たして間に合うのかね?
「君、何かヤバい薬とかやってる? オーバードーズ?」
「そんなんじゃねぇ……」
「ちょっと、ちょっと、どこ行くつもり? まだ話は終わってないよ」
田沼が切羽詰まった表情で駆け出し……いや、必死に尻穴を引き締めながらの小走りでコンビニを目指そうとしたが、警官が腕を掴んで待ったを掛ける。
「放せよ!」
「どこに行くつもりだ!」
「どこって、おぉぉおぉぉぉぉ……」
連続する湿った破裂音が聞こえた直後、田沼はその場で石化したように動きを止めた。
集まっていた野次馬達が、臭いを感じ取って一歩後退りする。
野次馬の中には、スマホを構えたうちの高校の生徒の姿も見える。
撮ってやって、その切なそうな田沼の表情を余すことなく撮ってやって。
「いや、すまなかった……書類は後で交番か警察署に出向いてくれれば良いから……」
「はい……」
ふざけるなとキレ散らかすかと思ったが、そもそも警官の制止が無くても間に合わなかったと田沼も感じたのだろう。
田沼は燃え尽きたスマホをカゴに放り込むと、自転車を押してトボトボと家路についた。
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