第159話 ゲスモブ、反省する

 行為の後の気だるさが、俺に冷静さを取り戻させてくれた。


「善人、何かあったの? 今日は激しかったけど……」

「悪い、八つ当たりしちまった」


 珍走団を退治してみたものの、何とも言い難い後味の悪さを感じていた時にメッセージが送られて来て、俺は清夏の体に溺れた。

 一連の経緯を話すと、清夏はスマホを取り出した。


「もうニュースサイトに載ってるんじゃない? ちょっと見てみようよ」

「そうだな……あの感じだと死んでもおかしくないしな」


 ニュースサイトの地方ニュースのところに、珍走団のニュースが掲載されていた。

 このサイトでは、ニュースに対するコメントが書き込めるようになっているのだが、その殆どが『ざまぁ』か『迷惑かけるな』だった。


 スクロールしていっても、珍走団に同情する書き込みは見当たらない。

 というか、死んだと思った最初に転倒させた奴は、無事だった仲間のバイクの後ろに乗って現場から逃走したらしい。


 これもニュースサイトの書き込みだが、珍走団が乗っているバイクの多くは盗難車だったり、部品の寄せ集めだったりするそうだ。

 つまり、俺がクラッシュ炎上させたバイクは、誰かが盗まれたものだった可能性が高いようだ。


「死んでないし、盗難車みたいだし、むしろヌルかったんじゃない?」

「だな。でも、なんて言うか、わざわざ悪い奴を探して痛めつけに行くのは違う気がするんだよな」

「あー……なんか分かる。あたしもモラハラ爺ぃをクリーンして、廃人になったと思った時には、やらかしたって思ったもん」

「だよな、誰かを正すとか、処罰するって偉そうで、お前何様なんだよって思っちゃうんだよな」

「うん、あたしも無理に魔法を人の役に立てようとか、考えない方が良い気がする」


 珍走団を退治した時の後味の悪さは、一つには上から目線で偉そうだったからだろう。

 俺は神様でもないし、国を牛耳る独裁者でもない。


 魔法は使えるけど、本来誰かを処罰する権限なんて持っていないのだ。

 もう一つ、後味が悪いと感じた理由は、処罰が重すぎたからだろう。


 日本の法律では、騒音を撒き散らしながら珍走しても、道路交通法違反で反則キップを切られる程度だろう。

 酒を飲んだ状態で、被害者が死亡するような大きな事故を起こした場合でも、最高でも懲役二十年で、死刑になることはない。


 それを悪くすれば死ぬような攻撃を仕掛けたから、やり過ぎたと感じたのだろう。


「竿無しとか、玉無しにする程度なら、もっとスッキリしたのかもな」

「もう、珍走団退治はしないの?」

「そうだなぁ……もっとスカっとする方法を思いつくまでは中止だな」

「でも、スカっとする方法とか難しくない?」

「そうだな、全然思いつかないな」

「ねぇ、ガソリンを抜いちゃうとかは?」

「えっ、抜くって、どうやって?」

「アイテムボックスの収集じゃあ無理かな?」

「いや、いける! よし、今度珍走団を見掛けたら、タンクのガソリンを根こそぎ収集してやる」


 ガス欠にするだけなら死ぬ心配も無いし、スタンドまで運ぶ手間とか、金銭的なダメージも負わせられる。


「でも、急にガソリンが空になったら怪しまれない?」

「大丈夫だろう。そもそも、俺がやったなんて思われないさ」


 確かに、清夏の言うとおり、ガソリンコックをリザーブに切り替えていないのにタンクが空になれば変だと思うだろう。

 ただ、実際にはエンストしても、すぐに原因がガス欠とは分からないだろう。


 原因を探している間に現場から立ち去れるし、アイテムボックスの中からの収集ならば、更に俺の仕業とは気付かないはずだ。


「でもさぁ、もうちょっと痛い目に遭わせたくない?」

「だよなぁ、もう一工夫したいよな」

「スタンドを折れるようにするとか」

「いいね、止めた途端、ボキって折れてバイク倒れたらムカつくよな」

「後は、地味だけどパンクもムカつくんじゃない」

「だな。バーストさせたらヤバいけど、パンクなら転倒しないだろうし、一晩経ったら空気抜けてたとかはムカつきそうだな」


 一人だと良いアイデアが出てこなかったが、清夏と一緒だと色々アイデアが湧いてくる。

 てか、こいつも結構いい性格してるよな。


「ガス欠、スタンド破壊、パンク……珍走団を見掛けたら、すぐに仕掛けられるように練習しておくかな」

「パンクとか、上手くできそう?」

「感覚としては、一ミリ程度の穴を空ければ良いなら、古タイヤとかで練習すれば出来るようになるだろう。ただ、空気の入ったタイヤで試すのは難しそうだな」

「じゃあさ、迷惑駐車の車で練習するとかは?」

「清夏、お前天才だな」

「でしょう」

「世の中の迷惑な奴に、チマチマと嫌がらせするのは面白そうだな」

「うん、嫌な奴撃退法とか考えようよ」


 命を奪うとか、体を痛め付けなくても、腹の立つ輩の鼻を明かすことは出来る。

 というか、そっちの方が魔法の使い方を考えるのは楽しそうだ。


「やっぱさ、魔法は楽しく使わないと面白くないよね」

「だな、でも魔法以外も楽しもうぜ」

「いいけど、今度は優しくしてね」

「善処する」


 魔法も人生も楽しんだ方が勝ちに決まってる。

 それならが、スカっとする方法を最優先に考えるべきだろう。


 そうだ、今はこっちでスカっとしよう。

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