第156話 元リア充、買いに行く(後編)


※今回は、元リア充グループの木島正明目線の話になります。


 佐久間君が女を買いに行こうと言い出した時には、何を言っているんだと思ったが、考えてみれば限界なのは明らかだった。

 僕らは肉体的には健康な十代男子で、正常な生殖能力を有している。


 しかも、目の前でクラスメイトたちが痴態を繰り広げるのを見せつけられる毎日を送っていれば、煩悩、欲望、衝動が限界を迎えるのは当然の成り行きだ。

 実際、村上君は行くと即答しているし、ここで僕が水を差すのは無粋というものだろう。


 というか、正直に言って僕も限界だ。

 ワイザールの駐屯地に来て以来、宮間さんは桂木君の部屋に入り浸りだ。


 消灯時間が過ぎても自分の部屋に戻った様子が無いと聞かされれば、そこで何が行われているかなど明らかだ。

 以前、宮間さんが宇田君と交際していたのは知っていた。


 交際しているのは知っていたが、こちらの世界に来て以来、二人が肉体的な関係を持つ機会は無かった。

 日本に居た頃に、既にそうした関係になっていたのかもしれないけど、それは僕の知るところではない。


 だが、ここでは宮間さんと桂木君が夜を共にしている。

 一説によれば、梶原さんを加えた三人で行為に及んでいるそうだが、勿論、誰にも止める権利も無いし止められない。


 はっきり言って、桂木君は怪物だ。

 桂木君が使う魔法が自分に向けられたら、間違いなく僕は命を落とすだろう。


 その桂木君に、宮間さんが自ら身を捧げているのだ。

 僕はそれを見ないように目を塞ぎ、聞こえないように耳を塞ぐことしか出来ない。


 佐久間君と一緒に女性を買いに行ったと知られたら、宮間さんを含めた女子全員から白い目で見られるようになるだろう。

 それでも、やっぱり僕は断るという選択は出来なかった。


 営業が始まる頃まで街をブラついて時間を潰し、向かった娼館では入り口にいた強面の男に鼻で笑われた。


「ここはガキの遊び場じゃねぇ、さっさと帰れ」


 こちらの世界の人々に比べて、僕ら日本人は童顔に見えるようで、彼から見れば幼いと見られたのだろう。

 これは引き下がるしかないかと思ったら、佐久間君はニンマリ笑って話し始めた。


「俺らがガキに見えるのは仕方ないけど、この前の飛竜を撃ち落としたのは俺達だぜ」

「はぁぁ? 寝言は寝てから言えよ」

「俺らは邪竜の討伐のため編成された特別な部隊だ。全員が普通の大人の十倍近い魔力が使える。飛竜の素材を売り払った金はまだ全額は入ってないが、この先も稼ぐぜ。満足のいくサービスをしてくれるなら、他の仲間も連れて来てやってもいいぜ」


 舐めた対応をされても余裕たっぷりに対応する佐久間君を見て、店の男は表情を改め、再度品定めをするように僕らを眺めた。


「飛竜が討伐された時、駐屯地から物凄い火柱が立ったって話だが、そいつはお前らがやったのか?」

「あの魔法は俺たちの中でも別格の奴が放ったものだ。物凄くおっかない女が付いてるから、ここに連れてくるのは難しいな」

「一番肝心な奴は来ないってか?」

「だが、他にも体力、魔力、精力を持て余してる奴はいるぜ。まぁ、興味が無いって言うなら他に行くだけだ」


 佐久間君は、強面の男に対しても平然と話をしている。

 こうしたコミュニケーション能力は、僕や村上君では真似のできない事だ。


 佐久間君は、その後も交渉を続けて僕らが娼館で楽しむ権利を手に入れた。


「よーし、お前ら良く聞けよ。娼婦を傷つけるような暴力は勿論禁止。基本的に俺たちは動かずにサービスを受ける。出そうになったら早めに申告する。申告した後で、どこに出すことになるかは相手次第だが、申告せずに中に出した場合は違約金を払うことになる。ちなみに、通常サービスの分だけで俺たちの持ち金は無くなるから、違約金を払うようになったら置いていくからな」


 佐久間君からの注意を村上君は真剣な表情で聞いているが、早くサービスが受けたくて仕方がないようだ。

 まるで飼い主をリードで引っ張っている散歩中の犬みたいだ。


 とは言え、僕も村上君の事は笑えないほど期待し、緊張している。

 何もかもが初めての経験なので、基本的に受け身でいれば良いのは助かる。


 打ち合わせを終えた後で、案内された部屋には三人の娼婦が待っていた。

 この後、どうすれば良いのか迷っていると、佐久間君が三人の中で一番若そうな娼婦を選んで奥の廊下へと入っていった。


 すぐに村上君が相手を選び、必然的に僕は残った女性に相手をしてもらうことになった。


「あの……こういう店は初めて……いえ、女性との行為も初めてなんで……」

「大丈夫……」


 リビエナと名乗った女性は赤みの強い癖っ毛で、二十代後半ぐらいだろうか、ぽっちゃりの枠から少々はみ出した体形をしている。

 にっこりと微笑むと、胸の谷間で僕の腕を挟むように腕を絡めて廊下の奥へと誘った。


 案内されたのは、お湯を張った盥の置かれた洗い場と寝台が置かれた部屋で、着ているものを全て脱がされ、全てを脱ぎ捨てた女性に、まずは洗い清められた。

 体を清め終えると、女性は香油を塗った全身を使って、僕を悦楽の世界へと連れ去った。


 女性の体は、こんなにも柔らかく温かいものだとは、現実は想像を遥かに上回っていた。

 始まる前から興奮しきっていた僕は、すぐに申告する羽目になってしまったが、リビエナは行為を中断せずに受け止めてくれた。


 結局、体感で二時間ほどの間に五回も射精させられ、終わった後は魔力切れのような倦怠感に襲われた。

 服装を整え、リビエラに付き添われてロビーに戻ると、佐久間君と村上君の姿は無く、何やら奥から揉めるような声が聞こえてきた。


「君は問題無いから先に帰っちゃいなさい」

「でも……」

「大丈夫、そんなに酷い事にはならないから。それよりも、また遊びに来てね」

「はい」


 リビエラに娼館の外まで見送られ、強面の男性の意味深な笑みにも見送られながら、駐屯地を目指して歩き始めた。

 異世界で娼婦を買うという貴重な体験が出来たが、どうやら佐久間君と村上君は顰蹙も買ってしまったらしい。

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