第155話 元リア充、買いに行く(中編)

※今回は元リア充グループのモブ村上清目線の話です。


 佐久間君に一緒に街に行かないかと誘われた時、正直ほっとした。

 今の僕の立ち位置は、みんなの中で最底辺だという自覚がある。


 ちょっと前までは斉木翔太という同じポジションの仲間がいたのだが、倒したと思ったメスオーガに頭を握り潰されて死んでしまった。

 最初の実戦訓練で金森と宇田が死ぬ場面を見たが、二人の時は自分の所からは離れていたし、一瞬の出来事で実感が湧かなかったのだが、斉木の時はショックだった。


 何よりも、訓練や普段の生活で、見下される仲間が居なくなってしまったのだ。

 異世界に来てから、魔法を使うのは楽しかったけれど、桂木たちのように真剣に訓練はしてこなかった。


 その結果、魔法の威力でも、身体能力でも男子の中で一番下になってしまったのだ。

 今の状態でヤンキー共と一緒に出掛けたら、間違いなくパシリとして使われるだろう。


 かと言って、一人で知らない街へ出掛ける勇気も無く、どうやって休日を過ごそうかと思っていたのだ。

 しかも佐久間君は、女を買いに行こうと言い出し、僕は迷わず賛成した。


 もう、見せつけられながら、笑われながら自分で処理するのは限界だった。


「それで、どうするの、佐久間君」

「まぁ待て、村上。まずは情報収集からだ」


 佐久間君は付いて来いと言って、市場を見て歩き始めた。

 ワイザールの市場は雑然としていて、日本では見かけない物もたくさん売られていて、見て歩くだけでも楽しいが、僕らの欲望を満たしてくれるような物は売っていなかった。


 この様子では、情報なんて仕入れられないのではないかと不安になり始めた頃、佐久間君は一軒の屋台の前で足を止めた。


「おっちゃん、これは何だい?」

「兄ちゃん、ドゥーマを知らないのか?」

「俺らは遠くから来たんで、ここらの事は良く知らないんだよ。そのドゥーマってのは、この辺りの名物なのかい?」

「名物っていうか、屋台でよく売られている物だな」


 ドゥーマというのは、地球でいうところのケバブのようなもので、豆の粉を水で溶いたものを薄く焼き、それで具材を包んで食べるそうだ。

 肉は羊肉で、数種類の刻んだ野菜にチーズ、それにスパイシーなソースを掛ける。


「この最後にかけるソースが秘伝の味なのさ」

「へぇ、じゃあ、そいつを三つくれ」

「あいよ、ちょっと待ってな」

「おっちゃんは、ずっとここで屋台を出してるのかい?」

「あぁ、もう十年以上だな」

「それじゃあ、ワイザールにも詳しいのかい?」

「おぅよ、この辺は庭みたいなもんだ」

「そんじゃあ、安く遊べるところを知ってたら教えてよ」

「遊ぶって、こんな昼間っから女か?」

「もうずっと働き通しで、やっと休みが貰えたんだよ」

「ほぅ、若いのに苦労してんだな。そうだな、安く済ませるなら……」


 ただの買い食いかと思ったら、佐久間君は屋台のおっさんから情報を仕入れ始めた。

 場所だけでなく、予算やシステム的なことまで巧みに聞き出していく。


 この辺のコミュニケーション能力は、僕には真似のできない芸当だ。

 結局、佐久間君はドゥーマを三つ買っただけで、必要な情報を仕入れてしまった。


「まぁ、予想はしてたけど、夕方になってからだな」

「凄いよ、佐久間君、どうしてあの屋台を選んだの?」

「そりゃあ、屋台のオッサンがスケベそうな顔してたからだよ」


 どの辺りがスケベそうなのか良く分からないが、佐久間君の人を見る目は正しかったようだ。


「それで、どうする? 西か、南か?」


 佐久間君の仕入れた情報によれば、僕らの予算でも何とかなりそうなのは、歓楽街の西にある店か、南にある店かのどちらからしい。


「西の店は若い女が多いがサービスは今いち、南の店は年齢高めだけどサービスが良い」

「年齢高めって、いくつぐらいなんだろう?」

「入れ替わりもあるから、ハッキリとは言えないってよ。てか、村上も木島も童貞なんだろ? サービス良い方が安心じゃね?」

「でも、ババアは嫌だな……ねぇ、木島君」 

「まぁ、そうだね」


 木島君は、初めての実戦訓練で宇田君を失った後、俄然リーダーシップを発揮して頼もしく感じたが、桂木たちと合流してからは、また影が薄くなってしまった。

 今日も、佐久間君が女を買いに行こうと言い出してからは、殆ど喋らなくなってしまった。


「ねぇ、佐久間君、どうせ旅の恥は搔き捨てなんだしさ、若い子が居る方にしようよ」

「おぅ、そうだった。どうせ俺ら、これ以上下には落ちないしな」

「そうそう、もう女子に冷たい目で見られるのも慣れたよ」

「だな」


 僕や佐久間君が、ヤンキーグループの男女の行為を見物している件は、そうそうに元のグループの女子にも知られてしまい、それ以来冷たい視線を向けられている。

 この上、お金で性欲を解消しようとして失敗したところで、これ以上軽蔑されることもないだろう。


 それよりも、上手くいけば溜まりに溜まった欲望を処理できるのだから、チャレンジしない手は無いだろう。


「可愛い子、いるかなぁ?」

「いやいや村上、やっぱ乳のデカい子だろう」

「それは大前提としてだよ」

「まぁ、あんまり期待しすぎると、ハズレだった時にショック大きいから、期待しない方がいいぞ」

「うん、でも失敗するなら、思いっきり失敗した方が笑えるかもよ」

「あぁ、確かに……そんじゃあ、思いっきり期待しとくか?」

「うん、そうしよう!」


 店も決まって覚悟も決まると期待が膨らむ一方で、気を抜くと股間も膨らんでしまいそうだ。

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