第151話 元黒ギャル、気付く……(後編)
※今回も白川清夏目線の話です。
「大丈夫だ、どんな状況だろうと俺が復元してやるから落ち着け」
急いで家に戻った後、善人に連絡すると、すぐ会いに来てくれた。
善人の顔を見た途端、感情を抑えられなくなって涙がボロボロと溢れてしまった。
招き入れられたアイテムボックスの中で経緯を話すと、善人は私を抱きしめて何度も大丈夫だと繰り返した。
善人の温もりを感じているうちに体の震えも収まって、少しだけ落ち着いて話ができるようになった。
「落ち着いたか?」
「うん……ごめん」
「気にすんな、それで確認なんだけど、その爺さんってのはモラハラ、カスハラの糞爺ぃだったんだよな?」
「そう、下校途中の小学生を杖を振り回しながら追い掛けて、脅して、泣かせたことも一度や二度じゃないし、今日だってコンビニの店員さんを怒鳴りつけてたの」
「それで、爺さんの腐った性根を全部綺麗にしようと魔法を掛けたんだな?」
「うん、いつも善人が魔法はイメージだって言ってたから、ドロドロした感情が綺麗さっぱり無くなるようにイメージしながら魔法を発動させてみた」
「そしたら、魔力をゴッソリ抜かれる感じがして、爺さんがボケ爺ぃになったと……」
「ていうか、感情が消えて、廃人になっちゃったみたいで……」
焦点の狂った目で、涎を垂らしながら歩く爺ぃの姿を思い出したら、また体が震えてきたが、善人が背中を優しく摩ってくれたから取り乱さずに済んだ。
「よし、ちょっと見に行くか。爺さんの家は分かってるんだよな?」
「うん、すぐそこの一軒家」
「案内してくれ」
善人と一緒に、アイテムボックスに入ったまま爺ぃの家へと移動した。
アイテムボックスを使えば、壁抜けも空中の移動も善人の思いのままだ。
「その先の、ブロック塀の家」
「ここか?」
「うん……」
「じゃあ、中の様子を覗いてみよう」
「待って、ちょっと待って……」
アイテムボックスの能力を使えば、鍵のかかった家にも入れるし、中に人が居ても気付かれることはないが、私の心構えが出来ていない。
善人は復元の魔法を使えば元に戻せると言ってくれたが、それでも一人の人間を廃人同然に追い込んでしまった罪悪感が拭えない。
二度、三度と深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着けてから善人に向かって頷いた。
アイテムボックスがゆっくりと前進を始め、玄関の扉をすり抜けて家の中へと入った。
昼間なのに薄暗いのは、南側の大きなマンションに日を遮られてしまっているからだろう。
「あっちがリビングかな……」
玄関を上がって廊下を進んだ左側のドアを抜けると、六畳ほどの和室と隣り合ったダイニングキッチンで、テーブルを挟んで老齢の男女が椅子に座っていた。
「本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ、何ともない」
驚いたことに、こちらに顔を向けている老齢の女性の問いに、爺ぃはハッキリとした口調で答えていた。
「嘘っ……」
「何だよ、大丈夫そうじゃね?」
「善人、向こう側に移動して」
「おぅ」
「嘘っ、どうなってるの……?」
善人がアイテムボックスを移動させ、見えてきた爺ぃの顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「本当に、どうしちゃったんですか。いつもはプリプリ怒っていたのに」
「そうだったか? まぁ、いいじゃないか」
「ずっと、この調子でいてくれると助かりますね」
「あぁ、そうだな」
ぼんやりとした笑みを浮かべる爺ぃに、奥さんと思われる女性は戸惑いつつも変化を歓迎しているように見える。
「全然大丈夫そうじゃん」
「でも、さっきはマジでヤバい感じだったの。口半開きで、涎が垂れちゃってて……」
「そんじゃあ、家に戻ってから何かあったんじゃね?」
「そう、なのかなぁ……」
「古い家だから、色んな思い出とか詰まってそうだし、案外この婆さんへの愛情が爺さんを正気に戻したのかもよ」
確かに、爺ぃが奥さんに向ける瞳は慈愛に満ちているように見える。
こんな穏やかな爺ぃを見たのは初めてで、ぶっちゃけちょっとキモい、ていうかムカつく。
「これは、綺麗なジャ〇アン的な爺さんだな」
「うん、そうなんだと思うけど、最後に残っていたのは奥さんへの愛でした……みたいな感じで、話が出来すぎな気がする」
「まぁ、確かにそう思うけど、周りに迷惑が掛かっている訳でもないし、むしろ喜んでいる人ばかりだろうから、これはこれで良いんじゃね?」
「まぁ、元のハラスメント爺ぃに比べたら、こっちの方が全然良いと思うけどね」
「じゃあ、復元は無しでいいな」
「うん、ごめんね、大騒ぎして」
私が謝ると、善人は意外なことを口にした。
「気にすんな。俺も本当は復元出来るか、あんまり自信無かったんだ」
「えっ、マジ?」
「まぁ、最初から復元する気も無かったんだけどな」
「えぇぇぇぇ、どうして?」
「そりゃ、ウザい爺さんなんて居ない方が良いだろう。それに……」
「それに?」
「復元できるけど、復元しないって言っておけば、爺さんを廃人にした責任を俺も背負えると思ってさ」
「善人……」
「帰るか」
「待って、このまま公園に行かない?」
「いいけど……」
善人を誘って光ヶ丘公園のケヤキ広場に移動すると、スケボーを楽しんだり、区立体育館や図書館を利用する学生や親子連れなどで賑わっていた。
「どこに行くんだ?」
「ここ」
「えっ、ここ?」
「うん、人の多いところでするの好きでしょ? それとも、しない?」
「いや、するけどさ……」
シャツごとブラを捲りあげて胸の膨らみを露わにすると、善人は荒々しく揉みしだき、むしゃぶりついてきた。
不特定多数の人たちに見られているようなアイテムボックスの中で、私と善人は激しく互いを求めあった。
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