第149話 元黒ギャル、気付く……(前編)
※今回は、白川清夏目線の話になります。
日本に戻って来て、文化的な生活を取り戻せたけれど、異世界での生活を懐かしく感じることがある。
それは、善人と過ごす時間が減ってしまったからだ。
向こうに居た頃は、ほぼ一日中善人と一緒に過ごす奇妙な同棲生活をしていた。
住む場所や食料などの生活の基本は善人に頼りきりだったが、私も衛生環境を維持するという役割を担っていた。
自分で言うのも何だが、異世界召喚される以前の私は、かなりワガママな性格をしていた。
召喚された直後、女王をオバサン呼ばわりして話をぶった切ったりしたのは、今から考えてみるとヤバかった。
あの場は桂木が居たから大丈夫だったが、そうでなければ性奴隷一直線だったはずだ。
実際、邪竜の討伐に参加しないと決めたクラスメイトは、善人に助けられた私を除いて男子まで凌辱されたのだ。
幸いと言って良いのか分からないが、皇竜から新しい魔法をもらった善人が、女子四人の体は元通りにしたようだが、心の傷までは治せない。
いや、倉田芳香と道上奈々は記憶までリセットしてしまったようだから、心の傷も回復しているのかな。
何にせよ、あれだけ自己チューだった私が、悲惨な目に遭わずに済んだのは運に恵まれていたのと、善人に救ってもらったからだ。
凌辱される寸前に善人に救い出してもらってから、私は自分でも変わったと思っている。
誰かと四六時中同じ場所に居るなんて、以前の私だったら息が詰まってイライラして、間違いなく喧嘩になっていたと思う。
でも、不思議と善人と一緒に居るのは苦にならなかった。
それこそ、惚れた弱みを差し引いても、善人と一緒に居るのは楽しかった。
善人は、歯が浮くような愛の言葉を囁いてくるようなタイプではなく、どちらかと言えば不愛想な方だ。
エッチの時を除けばベタベタしてこない所が、私の性格に合っているのだろう。
でも、ベタベタしてこなくても、異世界に居た時には、いつでも手の届くところに善人が居てくれた。
今だって、メッセージアプリや携帯で連絡は取れるし、会いたいと言えば善人はアイテムボックスの能力を使ってすぐに来てくれるだろう。
でも、すぐ来てくれるのと、いつでも近くに居てくれるのは、やっぱり違うのだ。
すぐ近くに、体温や息遣いを感じられないのが寂しい。
なのに善人は、少しも寂しそうな素振りを見せないのがちょっと悔しい。
善人は、異世界に居た頃に宣言していた通り、日本に戻ってから魔法を使って楽しんでいる。
私達の通う高校で発生していたイジメ事案に介入して、学校の怪談風にイジメグループに制裁を加えたそうだ。
イジメの内容は吐き気がするほど陰湿で、加害者は異世界の森に捨てて来てしまえば良いと思ったほどだ。
それなのに善人は、制裁を加えた後で綺麗に復元してやって、しかも謝罪、賠償するように促している。
本人は何の権利も持たない自分が誰かを罰するのは身勝手で、悪党のやる事だ……なんて言っているけど、私からすれば名前通りの善人にしか見えない。
今現在、善人が使える魔法は『アイテムボックス』『分解』『復元』の三つだが、普通の人とは違った発想で使いこなそうとしている。
例えば『アイテムボックス』は、普通の人なら物を収納しておく魔法だと考えるが、善人は自分が隠れる場所として使い始めた。
更には、どこからでも開けるならば、どこにでも移動できるはずだと考え、遂には異世界から日本への移動すら可能にしてしまった。
『分解』や『復元』の魔法も、何やら工夫を凝らして精度や効果に磨きをかけているようだ。
一方、私が使えるのは『清掃』の魔法だけだ。
召喚された直後は何の役にも立たないと思っていたが、善人は『清掃』魔法が目当てで私を助けたらしい。
その後、善人にアドバイスをもらいながら、水の浄化や服の洗浄なども行ってきたので、かなり魔法の使い方にも慣れてきた。
日本に戻ってからも、家族にバレないように気をつけながら、魔法を使い続けている。
例えば、ニキビができてしまった時などは、原因菌を死滅させるイメージで清掃魔法を掛けると、翌日には綺麗に治せるようになった。
家の中も家族の目を盗んで清掃しまくっているし、外出した時もバレないようにして魔法を使いまくって街を清掃している。
たぶん、私が移動した経路は、めちゃくちゃ綺麗になっているはずだ。
そうして魔法を使い続けていたら、ふと疑問に思った事があった。
魔法を使って物や場所が綺麗になるのは、そういうものだから……としか言いようがないのだが、清掃魔法を使って綺麗になる時に消えてしまった汚れはどこに行くのだろう。
よく考えてみれば、異世界で善人と同棲していた時、排泄物は全て清掃魔法で消し去っていた。
排泄物とはいえ、物体が跡形もなく消えてしまうのは、どう考えても異常だろう。
なので、ちょっと実験してみることにした。
ノートに鉛筆で落書きをして、その半分を消しゴムで消してみた。
当然、ノートの上には黒くなった消しゴムのカスが残っている。
試しに、消しゴムのカスを対象として清掃魔法を発動させると、黒い消しゴムのカスは綺麗に消えてなくなった。
続いて、ノートに鉛筆で書いた落書きを対象にして清掃魔法を発動させると、ノートは真っ白に戻ったけれど、筆圧で凹んだ跡は残されていた。
同じ条件で善人が復元の魔法を発動させた場合、ノートは真っ白な状態に復元され、筆圧の跡も綺麗に消えてしまうはずだ。
「今の状態だと、復元の魔法の方が高性能だけど……物が消えちゃうのはヤバいよね」
そう言えば、善人が私の魔法は精神にも影響を及ぼす可能性があるって言っていた。
もし心を浄化できるとしたら、カスハラ、モラハラ、パワハラなどをするような、ゲスな野郎を聖人みたいに変えられたりできるのだろうか。
善人が一人で魔法で遊んでいるならば、私も魔法で色々試してみるべきだろう。
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