第144話 ゲスモブ、制裁を加える 4

 昨晩、あれだけ脅した二條は謝罪する気配も無かったので、中林の行動は意外だった。


「ていうか、両親と兄がまともだっただけか」


 いずれにしても、夜が明ければ中林家は屋島に対して謝罪に動き出す。

 当然、学校も絡むだろうし、他の連中も呼び出されて謝罪という形になるのだろうが、今のままだと形だけの謝罪になりそうな気がする。


 というか、制裁のために準備した品物がまだ残っているので、使ってみたいというのが正直な気持ちだ。

 中林の家から移動した先は、池の水を頭から被った法堂菜月ほうどうなつきの家だ。


 法堂は五人の中で一番背が低く、幼児体型をしている。

 驚いたことに法堂家では、菜月はイジメの被害者のような扱いになっていた。


 そりゃあ、臭い池の水で頭からズブ濡れにされるのはイジメと言って良いが、屋島桃華に強要してきた事とは比べものにならないだろう。

 菜月は自室のベッドに横たわって、スマホでグループメッセージをやり取りしていた。


 グループのメンバーはイジメ加害者の五人だが、会話に参加しているのはリーダーの上宮、ゴリラ顔の嘉瀬、それに法堂の三人だけだ。

 会話を覗いてみると、服がどうとか、アイドルがどうとか、ユーチューバーがどうとか、イジメとは関係の無いものばかりだった。


 嘉瀬もファミレスに居た時には神妙な顔つきをしていたのに、イジメのイの字も文字にしない。

 意図的に触れたくないのだろうが、謝罪しようとか賠償しようという意志が見られないなら痛い目に遭ってもらうしかないだろう。


 法堂が俯せで寝ているベッドの上、天井近くから皺枯れた作り声で呼び掛ける。


「イジメは楽しいか?」

「えっ? 誰っ?」


 法堂がベッドから起き上がり、天井を見回したところで、今度は手に持ったスマホの影から呼び掛ける。


「償え……」

「ひぃ!」


 驚いて手放したスマホが床に転がる。

 法堂は、液晶が裏向きに落ちたスマホを恐る恐る裏返して、パッと離れた。


 液晶にはメッセージアプリの画面が表示されているだけで、当然ながら何の異常も無い。

 恐る恐るスマホに近付いていく法堂の耳元で囁く。


「償え……」

「ひっ……誰? どこに居るのよ!」


 俺が見ていない間に、メッセージアプリで幽霊云々のやり取りがあったのか、法堂は顔を蒼ざめさせて部屋のあちこちを見回している。


「菜月、どうかしたの?」

「何でもない、動画の音」

「それならいいけど、もう寝なさいよ。明日も学校なんだから……」

「は~い……」


 部屋の外から母親らしき人物が声を掛けてきたが、法堂は不審な声について話さず、むしろ隠すように答えた。

 つまり、親にはイジメについて知られたくないのだろう。


「ちっ……なんなのよ、マジうざい」


 法堂は床に落ちたスマホを拾い上げると、またベッドに俯せになってメッセージアプリを操作し始めたが、仲間にも不審な声について伝える様子は見られない。

 それじゃあ、始めるとしようか……。


 法堂が俯せで操作しているスマホの画面に、ボトリと血まみれの肉が落ちた。


「償え……」


 俺が耳元で声を掛けても、法堂は悲鳴を上げられない。

 スマホの画面に落ちてきたのは、分解の魔法で抉り取った法堂の喉の肉だからだ。


 ボタボタと血が溢れてくる喉元を押さえながら、法堂はベッドを降りようとしたが、バランスを崩して床に転がった。

 起き上がろうにも、法堂の両脚は付け根から切断されている。


 声にならない悲鳴を上げながら、法堂が部屋のドアに向かって伸ばした右腕が、肘の所で切断されて落ちる。

 続いて、左腕も同様に切断される。


「償え……償え……」


 耳元に囁いてやると、法堂は血まみれの床の上で、僅かに残った腕をバタつかせて藻掻いた。

 その動きが出血多量で鈍り始めた所で、一気に全身を復元させる。


「いやぁぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇぇ!」


 喉が裂けんばかりの絶叫を耳にして、法堂の両親が駆け付けてきた。


「もうしない、もうしない、謝るから、許して、殺さないで!」

「どうした、菜月!」

「パパ、助けて……殺される!」

「どうした、何があった! 誰か居るなら出て来い!」


 法堂の部屋には、僅かな血痕も残されていないし、体も衣服も完全に復元されている。

 それでも、記憶は復元していないから、刻み込まれた痛みと恐怖は残っているはずだ。


 法堂もまた、中林と同様に両親にイジメの経緯を打ち明けて、謝罪と賠償をする方向で話し合いを進め始めた。

 残りは二人、イジメの首謀者である上宮は最後にするとして、俺はゴリラ顔の嘉瀬の家へと移動した。


 こいつは昼休みに一度首を切り落としている。

 それでも謝罪しようと考えないのだから、図太いのか鈍いのか、どちらかなのだろう。


 嘉瀬は部屋着からパジャマに着替えるところだった。

 部屋着を脱ぎ、ブラを外すと、高一にしては大きな乳房が露わになった。


 まぁ、形も大きさも清夏の方が上だけどな。

 嘉瀬がパジャマに手を伸ばした瞬間、ボタボタボタっと湿った物が床に落ちた。


 視線を落とした嘉瀬が見たものは、分解の魔法で抉り取られた喉の肉と両方の乳房だった。

 腰を抜かしたように座り込んだ嘉瀬の股間に、失禁の水たまりが広がっていく。


「イジメは楽しいか……」


 ホラーマスクを被り、本棚の隙間から覗き込むようにして声を掛けると、嘉瀬は声なき悲鳴を上げながら、部屋のドアへと這っていこうとした。

 すかさず、両脚、両腕を分解の魔法で付け根から切り離す。


 胴体と頭だけになった嘉瀬の耳元に囁く。


「償え……いつも元通りになると思うなよ……」


 体を一気に復元させると、真夜中の部屋に嘉瀬の絶叫が響き渡った。

 後は驚いた家族が駆け付けて、以下同文の展開が繰り広げられた。


 それにしても、折角失禁も無かったことにしてやったのに改めて漏らすなんて、よほど恐ろしかったとみえる。

 これで残る標的は一人だけだ。

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