第143話 ゲスモブ、制裁を加える 3
痕跡も殆ど残さなかったから大丈夫だろうと思っていたのだが、誰かが消防と警察に通報したらしく、予想に反して大騒ぎになったようだ。
俺達はオンラインで授業を受けているので、どの程度の騒ぎになったのか分からないが、救急車は来なかったが、パトカーが来て居合わせた五人は職員室に呼び出されたらしい。
放課後、イジメグループの女どもは、昨日と同じファミレスに集まっていたが、人数は三人に減っている。
昨晩脅した二条と池の水を頭から被った見張りの女が居ない。
「どうなってんだよ、
「私だって分かんないよ。急に視界が傾いたと思ったら、落っこちて、天井が見えたんだから」
イジメグループの中で、一番長身で貧乳なのがリーダーの
「えっ、首が切れてた時の記憶あんの?」
「たぶん……で、みんなが居なくなって、これヤバいかもって思ったら元に戻ってた」
「元に戻るって?」
「うーん……手足を動かそうとしても全然反応が無かったのが、急に反応が戻って起き上がれるようになった」
「じゃあ、マジで首は切断されてたんだ」
「たぶん……」
三人は学校でコッテリと絞られて、何が起こったのか擦り合わせる時間が無かったようだ。
「マジで、何なんだよ。落書きも、菜月がかぶった水も無くなってたんだろう?」
中林が言う菜月とは、見張りをやっていて俺に池の水をぶっ掛けられた
「人間の仕業とは思えないよ」
「じゃあ、誰の仕業だって言うんだよ、円香」
「分かんないけど、幽霊? てか、小絵は誰の仕業だと思ってるのよ」
「イジメで死んだ奴の霊……かな?」
リーダーである上宮が霊の仕業と口にすると、中林と嘉瀬は顔を歪めてみせた。
「ねぇ、あたしら取り憑かれちゃった?」
「やめてよ、杏里」
「でも、栞奈から連絡来ないのって、家まで来られて……」
「やめて! 聞きたくない!」
中林の言葉に嘉瀬は両手で耳を塞いでみせた。
「でもさ、今日は誤魔化せたけど、この先も同じ様な騒ぎになったら、屋島をイジメてたのがバレるんじゃない?」
「可能性はあるよね」
中林の話に嘉瀬が同意して、二人は視線を上宮に向けた。
「なによ、イジメを止めろって言うの?」
「それもだけど、画像とか動画を持ってるとマズいんじゃない?」
「消せって言いたいの?」
「別に消しちゃっても、屋島は持ってると思い込んでるじゃん」
「あぁ、なるほど……持ってるって思わせとけば良いのか」
「そうそう」
この中林という女は意外に頭が回るようで、調べられた場合に逆に証拠となってしまう画像や動画は処分しようと考えたようだ。
「うん、そうだね、消しちゃおう。てか、いつでも撮れるし」
上宮がスマホを操作して画像や動画を削除し始めると、中林と嘉瀬もスマホを操作し始めた。
こいつらが削除しなかったら、俺がパスワードとかを盗み見て、画像や動画は処分するつもりだったので、手間が省けて助かった。
中林はメッセージアプリを使って、この場に居ない法堂と二條にも画像と動画を削除するように連絡を入れていた。
ただし、こいつらはイジメていた屋島に謝罪したり、金を返す気は毛頭無いらしい。
謝罪と弁済がされないならば、当然制裁は続行だ。
その晩のターゲットに選んだのは、中林杏里だ。
中林の家は練馬区高野台の都営アパートで、両親と兄の四人家族で暮らしている。
間取りは3DKだが、昔の団地なので最近のマンションに比べると狭い。
それでも、四畳半ながら自分の部屋を与えられているので、住環境に関して杏里はあまり不満は抱いていないようだ。
杏里の肥満の原因は、ずばり家庭での食生活だろう。
母親も兄も平均的な体重の五割増し以上で、狭い家が余計に狭く感じられる。
「杏里、風呂空いたぞ」
「は~い……」
大学生の兄に声を掛けられ、杏里は風呂に入る支度を始めた。
「デカいサイズだと可愛い下着が無いって話は本当みたいだな……」
本人の趣味もあるのかもしれないが、杏里の下着のデザインは何となくオバサンっぽく見える。
杏里は着ていた下着を洗濯機に放り込み、風呂場に足を踏み入れた。
風呂場も狭いが、リフォームしたらしく浴槽などは比較的新しく見える。
杏里は掛け湯をすると、浴槽へと体を沈めた。
俺が杏里の入浴を覗いているのは、別に性的な欲求を満たすためではない。
確かに杏里の胸は巨乳と呼べる部類だが、同じぐらいに腹が出ているとそそられない。
まぁ、こうした体形が好きな男もいるそうだから、あまり悲観することはないのだろう。
杏里が浴槽の縁に頭を乗せて目を閉じたところで行動を開始する。
アイテムボックスの窓を開けて、革手袋をした左手で杏里の口を背後から塞いだ。
「ふぐぅ……」
「イジメは楽しいか? 償え……今度はお前の番だ……」
分解の魔法を使って杏里の両足を付け根から切り離し、肩を押して頭を浴槽に沈めた。
支えとなっていた足が無くなったせいで、杏里は簡単に浴槽に沈んだ。
鮮血に染まったお湯の中で目を見開き、両腕を猛烈にバタつかせて杏里は藻掻いている。
杏里がやっとの思いで浴槽の縁に腕を掛けて、お湯の中から頭を持ち上げたところで復元の魔法を掛けた。
「ごほっ……おぇぇ……いやあぁぁぁぁぁ!」
二度三度とえずき、飲み込んだお湯を吐き出した後で杏里は悲鳴を上げた。
血相変えた兄が駆け付けてきて、ちょっと躊躇した後で浴室のドアを開けた。
「どうした、杏里」
「誰か居る、誰か……」
杏里はビショ濡れのまま浴室を這いずって、ブルブル震えながら兄に縋り付いた。
「誰か居るって……誰も居ないぞ」
狭い風呂場は、ドアを開ければ隅から隅まで一瞥できてしまうし、入口の扉いがいには人が入り込める場所は無い。
「だって、後ろから口を塞がれて、グイって押されて沈められたもん!」
「お前、ホラー映画の見過ぎじゃねぇのか?」
「ホントだって! ホントに居たの! 両足が切断されて、お湯が真っ赤で……」
「いやいや、足付いてるじゃん」
「ヤバい……取り憑かれた……」
「はぁ?」
「どうしよう、幽霊に取り憑かれちゃった……どうしよう!」
「落ち着け! どうしたんだよ、幽霊とからしくねぇな」
「だって、昼間もあったの、学校でも幽霊出たの!」
「分かったから、とりあえず風呂入っちまえ……」
「やだっ! 無理! 絶対に出る……」
「だったら、体拭いて服着ろ」
「お兄ちゃん、行かないで……ここに居て……」
ブルブルと震えながら服を着終えた杏里は、居間で母親と兄にイジメの経緯を全て話して、こっぴどく説教を食らうことになった。
更に、帰宅した父親も加わって、屋島桃華に対する謝罪と賠償について話し合いが行われた。
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