第141話 ゲスモブ、制裁を加える 1

 オンライン授業が終わった後、清夏から連絡が来た。


「善人、あいつら、どうするの?」

「ちょっと考えてみるよ。〆るのは決定だけどね」

「思いっきりやっちゃいなよ。でも、善人がヤルのは駄目だからね」

「当然、あんなクソ女とヤルなんて御免だよ」


 なんて言ってるけど、トラウマになるぐらい目茶苦茶に犯してやろうかという考えは、ちょっとだけ頭によぎった。

 考えはしたが、これじゃあ田沼と同類だと思い、レイプという選択肢は除外した。


 これから俺が、やるべき事は二つ。

 一つは、目隠れ女子へのイジメを止める。


 もう一つは、実行犯五人を反省させるための制裁だ。

 アイテムボックス、分解、復元の魔法が使えるが、世間から見れば俺はただの高校生にすぎない。


 何の権力も持たない自分が制裁だなんて、思い上がりだと言われても仕方が無いだろう。

 それでも俺が動かなかったら、制裁を受けるどころか罪の意識すら持たないかもしれない。


 それに、異世界でもニホンでも好き勝手にやる事こそが俺の目標だから、ここは思い切りやらせてもらう。

 放課後、イジメが行われているなら止めようと思ったのだが、実行犯五人の姿はファミレスにあった。


 六人掛けのボックス席を占拠して、ダラダラと下らない話を続けている。

 断片的に出て来るイジメの話を繋ぎ合わせていくと、目隠れ女子こと屋島桃華は、こいつらに局部を晒した画像や自慰動画を撮影され、それをネタに脅されているようだ。


 動画は、スマホ本体だけでなく、クラウドにも保存しているという悪質さだ。

 てか、これって児童ポルノ禁止法にも抵触してるよな。


 金銭を脅し取っている恐喝も加わって、軽く退学案件だよな。

 でも、俺は優しいから反省を促して、罪を償い、更生する道を残してやろう。


 とりあえず、今日はもうイジメは行われないようなので、制裁に必要な品物を仕入れに行くことにした。

 色々とアイデアは浮かぶが、どれが効果的なのか分からない。


「とりあえず、手探りでやってみるか……」


 最初の標的に選んだのは、見張りをしながら廊下からイジメの様子を眺めて笑っていたクソ女だ。

 二條栞奈にじょうかんな、清夏が言う通り一学年下の十六歳。


 目立った特徴が無い、モブ顔をしている。

 自宅は成増駅から坂を下った川沿いのマンションで、両親との三人暮らし。


 しっかし、このアイテムボックスの移動先を人物で指定出来るようになったのは、目茶苦茶チートだ。

 尾行もしないで自宅を特定できてしまうのだから、芸能人のプライベートとかも覗き放題だな。


 でも、下手にアイドルの裏の顔とか見てしまうと、幻滅しそうだから止めておこう。

 夕食後、二條の様子を窺っていると、ベッドに寝転んでメッセージアプリを使い、例のグループで会話を続けていた。


 学校でも、ファミレスでも一緒だったのに、よく話のネタが尽きないものだ。

 俺も他人の事は言えた義理ではないが、全く勉強する気配が無い。


 母親に言われて風呂に入り、パジャマに着替えた後は動画サイトやSNSを見て回り、殆どスマホを持ったままだ。

 二條が部屋の電気を消して布団に入ったのは、深夜一時を回ってからだった。


 既に二條の両親も、リビングを挟んだ寝室で眠っている。

 更に三十分ほど待って、制裁を始めることにした。


 用意しておいたホラー映画のキャラクターのゴムマスクを被り、革手袋をして大振りのサバイバルナイフを握り、アイテムボックスから部屋へと踏み込む。

 部屋の明かりを点けたら掛け布団を剥ぎ取り、二條に馬乗りになって左手で口を塞いだ。


「ふぐぅ……」

「動くな……」


 皺枯れた作り声で警告しながら、逆手で持ったナイフを二條に見せつける。


「ひぃ……」

「イジメは楽しいか?」

「むぐぅ……」

「償え……今度はお前の番だ……」


 左手で二條の口許を押さえたまま、ナイフの切っ先を襟元から差し入れてパジャマを切り裂いてゆく。

 二條はバイブレーションのスイッチでも入ったのかと思うほど、ガタガタと体を震わせ始めた。


 パジャマが切り裂かれ、胸の膨らみ露わになり、電灯の光に晒される。

 右の乳首をナイフの切っ先で突くと、二條は恐怖のあまり失禁した。


「償え!」


 作り声で怒鳴りながら、二條の右の乳房にサバイバルナイフを深々と突き刺した。


「いやぁああぁぁぁぁ!」


 素早くナイフを引き抜き、引きはがした掛け布団を二條の頭から被せ、視界を奪っている間にアイテムボックスへと逃げ込んだ。


「いやぁぁぁぁぁ……助けてぇ! 殺されるぅ!」


 二條の絶叫を聞いて、血相を変えた両親が部屋に踏み込んで来た。


「どうしたの、栞奈!」

「お化けが……殺される……ナイフで……」

「誰かいるのか! 出て来い!」


 二條の父親が怒鳴り散らしても、アイテムボックスに戻った俺の姿は見つけられない。

 カーテンの影、クローゼットの中などを確かめると、父親は部屋を出て家中を見て回り始めた。


「ナイフで刺されて……あれっ?」

「栞奈……?」


 アイテムボックスに戻る前に、パジャマも胸の傷も復元済みだ。


「そんな……だって、ナイフで胸を刺されて……」

「大丈夫、何ともなっていないわ」

「嘘っ……なんで?」

「玄関も窓の鍵も閉まってる。誰も居ないし、誰かが入り込んだ様子も無いぞ」

「きっと怖い夢を見たのね」

「夢ぇ? 夢……だったのかなぁ?」

「大丈夫、落ち着いたらシャワーを浴びてらっしゃい」

「えっ、やだ……嘘っ……」


 切り裂いたパジャマと胸の傷は復元したが、お漏らしはそのままにしてある。

 自分の身に何が起こったのか理解できず混乱している二條を見ていると、尻尾を分解復元された邪竜を思い出した。


 もう一度家の中を見て回った後で父親はベッドに戻り、母親は娘を落ち着かせて風呂場に連れて行った後、汚れた布団を客用のものと交換し始めた。

 そして二條は、汚れたパジャマと下着を脱いで、ビクビクと周囲を見回しながら風呂場へ入った。


「夢なのかな……でも、刺された気がしたのに……やだなぁ……」


 グズグズと鼻をすすりながら、二條はボディーソープを手に取って股間を洗い始めた。


「なんで、あたしが……ムカつく……」


 少しは反省したかと思いきや、もう他人のせいにしているようだ。


「はぁぁ……」


 ボディーソープの泡を流し、大きな溜息をついた二條の耳元へ、アイテムボックスの中から囁く。


「償え……」

「いやぁぁぁぁぁ!」


 再び二條が絶叫したのを見届けて、俺は自分の部屋へと戻った。

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