第131話 オタデブ、瞬殺する
※今回は桂木才蔵目線の話です。
二度目の実戦訓練の初日を終えた後、黒井との接触を試みたが上手くいかなかった。
オーガに殺された斉木の死体が消えたのは、黒井の仕業だと思ったのだが、確認出来ないと、もしかして本当に死ぬと死体は日本に戻るのかと考えてしまう。
実際には、最初の実戦訓練で死んだ宇田や金森の死体は日本に戻っていないようだし、そもそもクソ女王の言うことなど信じられる訳がない。
そう考えれば、斉木は田沼と同様に黒井の手で生き返らされて、日本に戻ったと考えるべきだろう。
そして、黒井が接触してこなかったのは、日本での黒井の事情を上回るだけの面白さを僕らが提供できなかったことを意味している。
僕がグリーンウルフを撫で斬りにしたことも、ゴブリンやオーガの討伐の様子も、黒井にとっては日本でのしがらみや娯楽を超えるほど面白くなかったのだろう。
そして、一夜が明けて訓練二日目。
今日は、黒井の援護は無いと考えるべきだろう。
つまり、死んだら死にっぱなし、残機ゼロの戦いだ。
これが当り前の状況なのだが、昨日殺された斉木はラッキーだったと思ってしまう。
同時に、今日は死者を出す訳にはいかないとも思ってしまう。
なぜなら、僕の異世界無双の物語には、これ以上の鬱展開など必要ないからだ。
出発前に、全員を集めて訓示を行った。
「今日こそはスパイクボアを討伐するよ。みんなには、日頃の訓練の成果を発揮してもらう。相手は巨大な野生動物だから、例え致命傷を与えても、直ぐに動きを止めるとは限らない。斉木君が、身を持って教えてくれたよね」
斉木の名前を出すと、みんなの表情が一層引き締まった。
「狙うのは頭。尻まで貫通させるつもりで、思い切り威力を高めた魔法を撃ち込んでやろう。それでも止まらなかった場合には、ヒデキの指示に従って回避しよう。まぁ、今日は僕も全力を出すつもりだから止まると思ってるけどね」
僕が全力を出すと言うと、ヤンキーたちからは期待する声があがった。
実際、訓練場では空に向かって放つ以外は、魔法の威力をセーブしている。
でないと射撃場が壊れてしまいそうだからだ。
威力をセーブするから、魔力を使い果たすまでには人の何倍もの魔法を撃つ必要がある。
だが、スパイクボアは仮想邪竜のターゲットだ。
こちらの兵士の話では、邪竜はスパイクボアよりも何倍も強力だそうだ。
それならば、僕の能力を誇示するためにも、スパイクボア程度で苦労する訳にはいかない。
昨日は元リア充グループ達を先頭にしていたので行軍速度が上がらなかったが、今日はヒデキを先頭に立てて進む。
ヒデキの後に続くメンバーは、雑魚を蹴散らす度に交代させる。
オークと思われる豚面の魔物が十数頭で近付いてきたが、鎧袖一触というのが相応しい、圧倒的な火力で殲滅した。
ヤンキーグループは、個人個人が課題を持って臨んでいるので、スパイクボア以外の魔物には切断系の魔法の使用も許可している。
そのためオークの死体は、蜂の巣にされたもの、手足や首を切り飛ばされたもの、体を真っ二つにされたものと、バラエティーに富んだ殺され方をしていた。
死体は勿論放置して、ペースを上げて森の奥へと進み、とうとうスパイクボアと思われる魔物と遭遇した。
森の奥の少し開けた草原で、そいつは呑気に昼寝を楽しんでいた。
遠くから見ると、普通のイノシシにしか見えないが、遠近感がバグりそうな大きさだ。
この森では、食物連鎖の頂点に位置するらしく、僕らが近付いても横たわったままで目を覚ます気配すらない。
胸が規則正しく上下しているから、生きているのは間違いない。
「水属性と氷属性以外の全員で一度に攻撃出来るように横に広がろう」
木々が密集している場所から、スパイクボアまでは約二十メートル程の距離があるが、僕らにしてみれば狙いを外しようがない近距離でしかない。
僕らの位置からは、体の左側を下にして横たわるスパイクボアを正面から眺める格好だ。
全員が配置についたのを確認して号令を出す。
「狙いは眉間、貫通重視で威力は最大、構え……撃てぇ!」
膨大な魔力を極限まで圧縮した火球を撃ち出す。
音速どころか光速に近い速度で飛んだ火球は、スパイクボアの眉間に小さな穴を開けた直後、首の付け根が吹っ飛んで炎が噴き上がった。
その直後、クラスメイト達の魔法が着弾し、スパイクボアの頭は原型を留めないほど破壊された。
悪くない、僕の魔法の威力も、クラスメイト達の魔法も威力は十分だ。
「よし、討伐完了。帰還しよう!」
討伐の成果に満足して帰ろうとしたら、兵士から魔石だけでも取り出してくれと言われたが、待っててやるからさっさと取り出せと言って兵士に押し付けた。
小型のバス程の大きさがあるスパイクボアの体内から魔石を取り出すともなれば、作業する人間は血塗れになる覚悟が必要だ。
兵士達が血塗れになりながらも取り出した魔石は、屈強な兵士が二人がかりでないと持てない大きさと重さがあった。
琥珀色の魔石には膨大な魔力が宿っていて、売れば四人家族の平民なら数年間暮らせるほどの値段が付くらしい。
邪竜を討伐しても日本には戻れないと知っている身としては、少々勿体ないと思ったが、日本への帰還が嘘だと明白になった時には、相応の財産を王家に請求するだけの話だ。
それよりも今は、邪竜討伐を具体的にどう進めるか、それと王弟バルダザーレとの接触が上手くいくかの方が気になっている。
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