第130話 ゲスモブ、見物する(後編)
「いやぁぁぁぁぁ!」
清夏の悲鳴を聞いて、迷いを一瞬で消した。
殺された斉木の傍まで移動して、魔法を発動させる。
「収集……復元……」
更に、大急ぎで日本に戻った。
「放出!」
「えっ……善人、何をしたの?」
「アイテムボックスの機能を使って斉木の体を自動収集、召喚以前の状態に復元して高校の屋上に放り出した」
日本までの移動のために閉じていた窓を開くと、日曜日の高校の屋上で事情が飲み込めずに混乱している斉木の姿があった。
「えっ、なに? 屋上? なんで? なんだ、この服!」
混乱する斉木の姿を見ていたら、尻尾が元に戻った後の邪竜を思い出した。
あの時は、かなり馬鹿っぽいと思ったけど、人間も大差無いのかもしれないな。
今頃、サイゾーなど一部の者を除いた討伐組の連中も、斉木の死体が消え、さぞやパニくっているだろう。
そう言えば召喚された直後、女王は志半ばにして命を落とした勇者の遺体は元の世界へ送還されると説明していた。
金森も宇田も死体は攫われて行方知れずになっているので、クラスメイト達は本当に元の世界に戻るのかどうか確かめられていない。
那珂川に殺された羽田の死体は消えずに残り、王弟バルダザーレの指示で処理されたが、それを知る者は討伐組には居ない。
「まぁ、説明とか誤魔化しはサイゾーが上手くやるだろう」
「斉木は、異世界の記憶も魔法も失った状態で復活したのね?」
「あぁ、田沼と同じだな」
「良かった……」
「宇田や金森の時には助ける術が無かったからな。でも、助けられるようになったのに見殺しにするのは、クソ女王の思い通りになるみたいで気分が悪いしな」
「だよねぇ……」
色々理由をつけているが、斉木もまた実験材料に使わせてもらっただけだ。
まぁ、これで清夏の俺に対するイメージがアップするなら安いものだ。
「さて、あっちはどうなってるか戻ってみるか」
「ふふっ、きっと大混乱じゃない?」
「だろうな」
俺と清夏が予想した通り、オーガを討伐した場所でクラスメイトたちは混乱していたが、その混乱ぶりはいくつかのパターンに分かれているようだ。
まずは、宮間と梶原を除いた元リア充グループは、単純に斉木の死体が消えた事情が理解できずに混乱しているようだ。
話し合いの中心にいるのは、木島と佐久間だ。
「一体どうなってんだ!」
「落ち着いて、佐久間君。召喚された時に、女王が死んだ人は元の世界に帰るって言ってたよね」
「だが、金森と宇田の時は消えたりしなかったぞ」
「それは、まだ二人が生きていたってことなんじゃないかな?」
俺が目撃した状況では金森も宇田も即死状態に見えたが、今の状況を理解するには完全に死んでいなかったことにするしかないのだろう。
「そうか、頭を握りつぶされれば即死だもんな……じゃあ、斉木の遺体は日本に戻ったのか……」
「そう、じゃないかな……」
木島の意見に元リア充グループ達は納得したようだ。
そして彼らとは別に、ヤンキーグループの連中も混乱していた。
こちらは、今までイケイケで命の危険を感じることが無かったからだろう、実際に仲間の死を目撃してショックを受けているようだ。
当然、金森と宇田の話は聞いていただろうが、話に聞くだけと実際に目にするのは大違いだ。
下手をすれば自分も同じようになるのだと理解し、自分達が置かれている状況がどれほど危険か改めて思い知らされているのだろう。
そしてサイゾー、徳田、宮間、梶原の四人は、ある程度の事情を察して、それをどう説明するのか迷っているようだ。
徳田がサイゾーに歩み寄り、他の連中には聞こえないように囁いた。
「黒井の仕業か?」
「詳しくは分からないけど……たぶん」
「斉木はどうなったんだ?」
「それも黒井に聞かないと分からない」
「この後は、どうすんだ?」
「分からないで通す」
サイゾーは自分に言い聞かせるようにキッパリと言い切ると、全員に向かって声を掛けた。
「みんな聞いてほしい。正直、斉木君がどうなったのか分からない。召喚された直後、邪竜を倒す前に死んだら、遺体は日本に戻るって説明されたけど、遺体のまま戻るのか、それとも日本で生き返るのかも分からない。そんな曖昧な状況で、日本に戻れるかもしれないから試しに死んでみるなんて、僕は真っ平だ」
サイゾーの言葉に他の連中も一様に頷いている。
「だから、僕らは邪竜を討伐して日本に戻るために最善を尽くすしかない。でも今は、斉木君が日本で復活していると信じて祈ろう……黙祷」
サイゾーが目を閉じると、全員が黙祷を捧げた。
黙祷されてる斉木は、日本に戻って復活して、浦島太郎状態でピンピンしてるけどな。
俺が咄嗟にとった行動をサイゾーがどう誤魔化すか注目してみていたが、上手くまとめたようだ。
まだ、宮間になんて説明するのかとか問題山積だろうが、そこはヤンデレハーレム野郎に頑張ってもらおう。
斉木が死亡するというアクシデントもあり、サイゾー達はこれ以上先へは進まず、森の外へ戻ることにしたようだ。
帰り道は来た道とは別のルートを選択し、新たなゴブリンの群れと遭遇したが、元リア充グループのみで瞬殺してみせた。
ビビりちらかしていた村上も、同じ境遇にいた斉木が死亡したことで、ようやく腹が据わったようだ。
ゴブリンに対する攻撃にも容赦が無くなっていたし、完全に死んでいることを確認するまでは近付かないし、攻撃の手を休めなかった。
「なんか、新たな凶戦士が生まれた感じだけど、生き残るためには、あの位ぶっ飛んでないと駄目かもな」
「良いんじゃない、今日は善人が見守ってたけど、明日は授業を受けるんでしょ?」
「まぁ、上手くサボれる口実も無いし、授業中に家から抜け出すのも無理そうだからな」
「だったら、今日みたいな復活は望めないんだから、多少のトラウマを抱えることになっても戦えた方が良いでしょ」
「まぁ、そうだな……」
サイゾー達も撤収するようなので、俺達も日本に戻ることにした。
今夜は、ちょっと良いレストランで食事をした後、清夏と二人の時間を過ごす予定だ。
こっちはこっちで楽しむから、そっちはそっちで頑張れよ、サイゾー。
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