第129話 ゲスモブ、見物する(中編)
「みんな、何を恐れているのか理解できないよ」
ゴブリンの討伐が終わった後、サイゾーは元リア充グループ達に声を掛けた。
「よく見て、圧倒的じゃないか。的確なタイミングで魔法を当てれば、魔物なんて怖くないよ。よく思い出して、ゴブリン逃げたよね? こいつらだって生き物だから死ぬことに恐怖を感じるんだ。こっちがビビれば、相手はナメて掛かって来るよ」
サイゾーの言う通り、元リア充グループ達も魔法の威力に関しては何の問題も無いように見える。
問題があるとすれば、それを使う側の心の持ちようだろう。
木島と藤井の二人は、現状でも問題なく戦えている。
ただ、他の連中は恐怖心を払拭できない限りは難しいだろう。
「隊列はこのまま、引き続き討伐の経験を積んでもらう。それとヒデキ、奇襲以外のケースでは、もっとハッキリ指示を出して」
「分かった、さっきは俺の失敗だ」
意外にも、徳田はサイゾーの指摘に対して素直に自分の非を認めた。
「へぇ、ただのイキり馬鹿って訳でもないのか……」
「徳田でも桂木には逆らえないんじゃない?」
「だろうな、カーストトップだった宮間に加えて梶原も独り占めしても文句言われてないみたいだしな」
「善人も別の女の子が気になってるんじゃないの?」
「他の女に手を出す気なら、帰国を餌にしてモノにしてるよ。俺は清夏だけだ」
「善人……」
今はな……と心の中で付け加えつつも、表情には出さないように気をつけた。
人の気持ちは不変とは限らないし、体型とかは頑張っても衰えてくるものだからな。
おっさんになったら、若い女に現をぬかす可能性は否定できない。
それを手に入れるための能力は持っているのだから。
ゴブリンの討伐を終えたサイゾー達は、先へと進もうとしたのだが、ここで兵士から待ったが掛かった。
倒したゴブリンから魔石を取り出せと言うのだが、サイゾーは拒否した。
「僕らの目的は邪竜を討伐することだ。魔石の取り出しなんかする気はないよ」
「だが、それでは将来金が稼げなくなるぞ」
「何を言ってるんだ。僕らは邪竜を討伐したら元の世界に戻れるんだろう? なんで将来の心配なんてしなきゃいけないんだ」
「それは……」
「さぁ、先に進もう」
サイゾーは、邪竜を討伐しても日本に戻れないと知っているが、同時に俺の力を使えば日本に戻れることも分かっている。
こちらの世界に残って好き勝手やるつもりならば、魔石の取り出しとかも覚えておいた方が良いと思うが、そうした雑事はやらないとサイゾーは割り切ったのだろう。
森の奥を目指して進んだサイゾー達が、次に遭遇したのはグリーンウルフだった。
最初の実戦訓練で金森を攫っていったグリーンウルフを見て、元リア充グループの面々は顔を引き攣らせた。
「ヤバイ、グリーンウルフだ! 固まれ!」
散開して取り囲もうとするグリーンウルフに対して、すっとサイゾーが隊列の最前線に出て、まるで虫でも追い払うように軽く右手を振ってみせた。
サイゾーの指先から伸びた一筋の青白い線が通り抜けた直後、グリーンウルフや森の木々が炎を吹き上げて燃え上がった。
「なんじゃ、あれっ!」
「なになに、どうなってるの?」
「プラズマで作った剣なのか? ビームサーベル?」
「魔王だよ、もう桂木、完全に魔王様だよ」
サイゾーは、水属性の魔法が使える者に火を消してくれと頼み、消火活動を見守りながら何事も無かったように言い放った。
「もう一度言っておくよ。僕らの魔法に掛かれば、こんな連中ただの的なんだよ。落ち着いて対処すれば、恐れることなんて何も無いんだよ」
元リア充グループ達は無言で頷いているが、内心では、いやいやそんなのお前だけだよって思い切りツッコミを入れているだろう。
ていうか、サイゾー自身が自分の魔法を見せびらかしたいと思っているのは、低い鼻がヒクヒクしているのを見ても明らかだ。
そして、消火作業を終えて一行が先へと進もうとした時、今度はオーガの群れが現れた。
全部で五頭の群れは、一際大きな角を持つオス一頭と乳房が大きいメス四頭で構成されている。
「あたしがやる!」
「僕の護衛を放り出して?」
突っ込んで行こうとする宮間をサイゾーが止めた。
このオーガは、宇田を殺した個体ではないし、そもそも宇田を殺したオーガは俺が殺した。
「ヒデキ、指示を出して!」
「分かった。野郎共、準備しろ! 群れのボスは木島と佐久間で倒せ、他の奴らはメスを倒せ、いくぞ!」
「はい!」
群れを率いているボスオーガは、宇田を血祭りにしたオーガよりも更に大きく、身長は三メートル近くあるように見える。
メス四頭の身長も軽く二メートルを超えていて、奴らからすればクラスメイトたちは少し大きいゴブリン程度に見えているのだろう。
ジリジリと距離を詰めるクラスメイト達を見ても、まるで恐れている様子はない。
対する元リア充グループ達は、ゴブリンの時に比べても緊張の色を隠せていない。
「ゴブは楽勝だと思えるけど、あの大きさはビビっても仕方ないかもな」
「うん、プロレスラーどころか巨人だものね」
オーガどもは、ボスを中央にして五頭が横並びになり、手にした棍棒を振って威嚇している。
元リア充グループ達も腰に短剣は吊っているが、全員抜く素振りも見せず魔法に集中しているようだ。
そして、あと十メートルほどの距離に迫ったところで、徳田が号令を下した。
「撃てぇ!」
結論から言えば、元リア充グループ達の圧勝だった。
ボスオーガは、木島の魔法で足を氷漬けにされた状態で、藤井の水の矢で上半身をズタズタにされて息絶えた。
他のメス四頭も、元リア充グループ達の魔法を食らって、何も出来ずにバッタリと倒れ伏した。
「やった……やったぞぉ!」
「ざまぁみろ、思い知ったか!」
元リア充グループの中で、真っ先に喜びを爆発させたのは村上と斉木だった。
両手を突き上げ、叫び、勝利の味に酔っていた。
まぁ、これまでの経緯を考えれば、自分よりも遥かに大きな相手を圧倒したのだから、意識が百八十度変わったとしてもおかしくないだろう。
二度、三度とハイタッチを交わした後、村上と斉木は自分達が仕留めたオーガへと歩み寄り、足蹴にし始めた。
「うら、クソ魔物め、お前らなんか俺らの敵じゃねぇんだよ」
「なんで、こんなのにビビってたのか分からねぇ……なぁ?」
顔面を蹴りつけた斉木の足が、突然動きだしたメスオーガのゴツい手で掴まれた。
「うわっ、離せ……ぐぼぁ」
引き寄せられた斉木は、丸太のようなメスオーガの腕で締め上げられ、辺りに骨が砕けて肉が潰れる音が響いた。
「助け出せ!」
慌てて叫びながら徳田が駆け寄るが、それよりも早くメスオーガは斉木の頭を握りつぶしてから息絶えた。
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