第127話 ゲスモブ、使い道を考える
異世界に居た頃は、日本に戻ったら好き勝手にやるつもりだったが、現状はあまり上手くいってない。
まず問題なのが、親の干渉だ。
帰国した直後に比べればマシにはなったが、ノイローゼ気味だった母親が、また俺が失踪しないか不安で仕方ないらしい。
実際、俺は自力で日本に戻って来たんだし、他の連中が帰国できたのも俺の魔法のおかげだ。
ただ、魔法が使えると知られたくないので、それを説明して安心させる訳にもいかないのだ。
今時、高校生なのに門限十九時なんて、どこのお嬢様だよ。
十九時までに帰宅できない時には連絡を入れるという条件で、門限は延長してもらっているが、どこに行ったのか、何をしてきたのかと、色々聞かれるのが鬱陶しい。
本気で好き勝手やるには、実家を出て一人暮らしする必要が有りそうだが、未成年のうちは厳しいだろう。
一人暮らしをするなら、当然資金が必要だ。
ぶっちゃけ、金なんていくらでも盗んでこれるが、銀行から盗めば、銀行の職員に迷惑が及ぶだろう。
反社会組織から盗めば良いのかもしれないが、肝心の反社会組織のアジトが分からない。
仮に、後ろ暗い金をゴッソリ盗み出したとして、正規に稼いだ金として偽装する手立てが無い。
これまで一度もバイトの経験が無いオタボッチが、大金を稼ぐ方法なんて思いつかない。
結局、周囲にバレずに魔法を使って好き勝手するには、地道に働いて金を稼がなければならないという矛盾に突き当たってしまうのだ。
もう一つ、俺の行動を邪魔するのが、防犯カメラの存在だ。
例えば、俺が魔法を使う様子を防犯カメラが捉えたとして、その映像を人間が見る確率はどの程度だろうか。
そう考えると、別に気にしなくても良いのかもしれないが、データとして記録されるのは厄介だ。
かと言って、先日絡んできた小向のように、防犯カメラが無い場所を覚えて悪さする……なんてのも面倒だ。
本当に、日本という国は制約の多い国だと思ってしまう。
こうした外的な制約の他に、俺自身の心の問題もある。
正直、今の俺が魔法をフル活用すれば、どんな女だって抱き放題だ。
アイテムボックスの自動収集をつかえば簡単に拉致できるし、レイプした後で復元魔法を使えば痕跡も記憶さえも消去できる。
例えば、人気絶頂のアイドルを尾行して、眠ったところで拉致してレイプ、事後に元の部屋に戻して記憶を含めて復元すれば、罪に問われる心配も無い。
絶対に捕まらない自信があるが、そもそも暴力で屈服させて女を抱こうという気になれないのだ。
正直、異世界に行く前だったら、レイプしてみたい願望はゼロではなかった。
実行に移さないのは、それは犯罪であり、捕まれば社会的に終わってしまうからだ。
メリットとデメリットを考えれば、デメリットの方が大きすぎるから実行しなかっただけだが、今は絶対に捕まらなくても実行する気は無い。
異世界で、坂口たちが凌辱される様を見てしまったからだ。
泣いて助けを求める坂口を抑え込み、貫いている男や、それを眺めている男どものゲスい笑い顔を思い出すだけで吐き気がする。
自分から、あいつらの同類に落ちぶれるなんて、死んでも御免だ。
「金も駄目、女も駄目、だったら、漫画やゲーム、フィギュアなんかを大人買い……てのも違うよなぁ」
好き勝手するチートな能力はあっても、何をやったら良いのか思いつかないなんて、仕事一筋だったオッサンの定年後かよ。
一人だと考えが行き詰まってしまうので、清夏に何かやりたい事はないか聞いてみた。
「露天風呂に入りたい」
「露天風呂?」
「ドーンと海を一望したり、山の上から見下ろしたり、混浴でも善人の能力を使えば見られる心配ないじゃん」
「おぉ、なるほど」
清夏と一緒に入って、雄大な景色の中でいたすのも良さそうだ。
「善人は皇竜と博多に行ったんでしょ? あたしも行きたい!」
「そうだな、アイテムボックスの能力使えば、日帰りでも行って来られるな」
「それと、ライブに行きたい! 善人の能力を使えば、ステージの上からだって見られるんじゃない?」
「なるほどぉ! ライブだけでなく、舞台とか映画も見放題じゃん」
一人では考えが行き詰まっていたが、清夏と一緒だと次々アイデアが湧いて来る。
この辺りが、オタボッチとギャルの違いなのだろう。
「あたし、あれも見たい、超歌舞伎!」
「おっ、いいな。あれって、チケット取れないんだろ?」
「そうそう、良い席だとチケットめちゃ高いし」
「アイテムボックスを使えば、舞台の裏まで覗けるぞ」
「そうだよ、舞台の稽古とか、映画の撮影所とかも見てみたい」
「いいな、よし、計画立てようぜ」
早速、スマホを使ってエンタメ関連のサイトを巡り、今週末に公演されるコンサートや舞台の情報を確認した。
チケット売り切れでも俺達には関係ない。
どこでも入っていけるし、俺達が一番見たいものを選ぶだけだ。
「週末が楽しみだね」
「おぅ、清夏のおかげだ」
「そういえば、むこうはどうなってるの?」
「仮想邪竜の大きな魔物の討伐に行くってよ」
「あー……そっちも見たいなぁ」
「あっちはタイミング次第だし、まずはこっちの予定を立てようぜ」
「そうだね」
悪いなサイゾー、俺はこっちの楽しみを優先させてもらうぜ。
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