第126話 ゲスモブ、我が振り直す
前回の手紙のやり取り以後、王弟バルダザーレから何か接触は無かったか確認しに訓練場へと向かうと、サイゾー達は遠征の準備を進めていた。
どうやら、邪竜を討伐する前に大型の魔物を討伐しに行くようだ。
サイゾーが一人になる瞬間を狙って声を掛けようとしたのだが、宮間がベッタリと張り付いていて、なかなかチャンスが見つけられない。
それでも、トイレに入ったタイミングで声を掛けて、遠征に関する話を聞かせてもらうことにした。
「サイゾーが田沼にやられた影響なんだろうけど、宮間の奴ベッタリじゃねぇか」
「そうなんだよ、今だって一人になるの大変だったんだぜ」
「まさか、寝る時も一緒とか?」
「はぁ……」
軽い冗談のつもりだったのだが、サイゾーから返ってきたのは深い溜息だった。
「マジか!」
「ていうかね、梶原さんもなんだよ」
「でたよ、ハーレム野郎」
「黒井、それは間違いだよ」
「何でだよ、両手に花なんだろう?」
「そうじゃないよ、両手にヤンデレなんだよ……」
「おぅ……そいつは、御愁傷様」
サイゾーは、梶原の治癒魔法を飛躍的に上達させるために、飴と鞭方式の訓練を施したらしい。
その結果、梶原はサイゾーに惚れ込んだらしい。
宮間は、扱いに困って冷遇していたら、カーストトップのプライドを傷つけたらしく、意地でも振り向かせてみせる的な惚れられ方をしたらしい。
そして、その二人の感情が、田沼の一件で一気に悪化したそうだ。
サイゾーは私が守る、サイゾーは私が癒す……二人が張り合う形になっているらしい。
「それじゃあ、どっちにも手出しできない状態なのか」
「黒井、僕は聖人なんかじゃないんだよ。同い年の薄着の女子と密着した状態で、何日も耐えられる訳ないだろう! 柔らかいんだよ、小さいと思ってた琴音の胸だって、極上の柔らかさなんだよ。耐えられるか!」
「うはははは! いいじゃん、いいじゃん、異世界の魔王サイゾーらしくて」
「まぁね、女性関係で崩壊するような計画ならば、それまでだったって事だよ」
田沼に一度殺されたからか、サイゾーは開き直ったようだ。
それが良い結果となるのか、災いとなるのかは分からないが、異世界を楽しむならば二人といわず、三人、四人、五人と増やせば良いのだ。
ただ、現状がヤンデレ二人では、これ以上増やすのは難しいかもしれない。
「それで、スパイクボアはどこにいるんだ?」
「北の森らしい。ここからは馬車で五日ぐらい掛かるそうだ」
馬車で五日、森に分け入って三日以上掛かる奥地が、スパイクボアのテリトリーらしい。
「同じ森にはオーガも多数生息していて、前回の実戦訓練に使った森よりも危険度が高いそうだ」
「オーガって、宇田を殺したやつか?」
「そうそう、黒井は実物というか現場を目撃したんだよね?」
「あぁ、その後、宇田を食ってたから、心臓を一突きして殺したんだが……奴らにとっては生きるための狩りなんだから、殺したのはやり過ぎだったかもな」
「宇田が殺されたとは聞いてたけど、オーガは黒井が殺したのか」
宇田と金森が死んだ状況は説明したが、オーガを殺した件は話していなかった。
「あぁ、こっちの兵士を殺した時よりも後味悪かったな」
「なんというか、黒井らしいな」
「まぁ、オーガごときじゃサイゾーの敵にはならないだろうが、油断するなよ」
「分かってる。それで、黒井は見に来るのか? 前回の実戦訓練みたいに同行出来ないよな?」
「ん-……タイミングが合えば……だな」
「でも、どうやって僕らの居場所を探すんだ?」
「まぁ、それについては方法はある。問題は、上手く日本から抜け出せるかだな」
実は、以前清夏から貰ったアイデアを素にして、アイテムボックスの移動方法を強化してある。
これまでは、場所を指定しての移動だったが、人物をターゲットにしての移動が出来るようになった。
最初は清夏、次にうちの家族、そして今回の移動ではサイゾーをターゲットにした。
なので、遠征先でもサイゾーは見つけられるから、後はタイミング次第なのだ。
「なんていうか、黒井の進化は目茶苦茶だな」
「なに言ってんだよ、サイゾー。魔法だぜ、魔法! これは出来ない、こんなのは無理だって枷を嵌める方が間違ってるだろう」
「あぁ、そうだ、そうだった。どうも駄目だな、初心に戻って、もっとはっちゃけないとだな」
「そうだぜ、異世界を遊び尽くすんだろう?」
「あぁ、黒井は現代日本も遊び尽くすんだろう?」
「そうだな、俺ももっと日本ではっちゃけねぇとな」
サイゾーが異世界でつまずいているように、俺も日本では停滞気味だ。
魔法の強化、実験は進めているが、魔法を使って楽しめているのかと聞かれれば、とても十分ではない。
人の振り見て我が振り直せではないが、俺もやり方を改める必要がありそうだ。
手本は皇竜……は、流石にやり過ぎか。
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