第106話 ゲスモブ、社会科見学に行く

「明日からオンラインで授業だから早く寝るよ、おやすみ」


 両親には、そう断って部屋に戻ったが、早く寝るつもりなど全く無い。

 これから、夜の社会科見学に出掛けるつもりだ。


 時間は夜の九時前、アイテムボックスを使って向かった先は新宿だ。

 服装はパジャマ代わりのジャージ姿だが、外からは見えないから補導される心配は無い。


「さてと……行ってみようかね」


 高校生であっても、堂々と風俗店に出入りする強者もいるらしいが、オタボッチだった俺はネットなどで知識として知っているだけで、実際に行ったことはない。

 最初に向かった先はストリップ劇場だ。


 ネットで情報を調べると、昔は多くのストリップ劇場があったらしいが、現在新宿で営業を続けているのは一ヶ所だけらしい。

 当然、未成年の俺は本来入場できない。


 区役所通りから脇道に入り、地下の劇場へと向かう。

 アイテムボックスに入っていれば見つからないのに、もう心臓がバクバクいっている。


 意を決して劇場内部へと入ると、想像していたものとは違っていた。

 ストリップというと、女性の裸目当ての中年のオッサン連中が目を血走らせているものだと思っていたのだが、客席には女性の姿もあった。


 舞台の上のダンサーは衣装を脱いで裸身を晒すのだが、裸を見せるのがメインではなく、ダンスの演出として肌を見せているという感じがする。

 エロいことはエロいのだが、何というか嫌らしい感じのエロさではないのだ。


「おぉぉ、何か認識変わるな……次は清夏も連れてくるか? いやいや、止めておいた方がいいか……」


 早めに自室に戻って寝るフリをしたのは、実はストリップを見るためだ。

 夜遅くまで営業しているイメージがあったのだが、実際には夜の十時過ぎには公演は終了してしまう。


 ということで、最後のダンサーまでじっくりと鑑賞した後、次の目的地へと向かうことにした。

 ちなみに、ストリップ劇場に学割があるとは知らなかった。


 次に向かったのは、セクキャバとか、おっぱいパブと呼ばれる店だ。

 こちらも未成年者の入店は出来ない。


 料金システムとか色々あるみたいだが、今日の目的は見学なので、スルーして店内へと潜入する。

 こちらは、ある意味イメージ通りだった。


 衝立で仕切られたボックス席で、いい歳のオッサンが膝の上に乗った女性の乳房を夢中になって揉みしだいている。

 何て言うか、オッサン必死やなぁ……。


 俺も清夏とイチャついている時には、あんな風に必死な形相をしているのかと想像したら、妙に冷めてしまった。

 そもそも、他人が楽しんでいるのを眺めていても面白くないので、次の場所へと移動することにした。


 次の目的地は、掲示板サイトで曰く付きのホストクラブだ。

 一部伏字で書き込まれているが、チェックしていけば店の名前は分かる。


 曰く、未成年の女性も入店させている。

 曰く、ツケ払いをさせて後々高額の請求をする。


 曰く、払いきれない場合には消費者金融から金を借りさせる。

 曰く、それでも払えない客には売春を強要している。


 本当にそんな店が存在するのか、眉唾物じゃないのかと思ったのだが、店にいる客の何人かはどう見ても高校生にしか見えなかった。


「こいつ、金払えるのか?」


 俺と同じか年下に見える女は、アイドル崩れみたいなホストの求めに応じて、ホイホイ酒や料理を注文している。

 ホストの男は優し気な表情で女の話に耳を傾け、いかにも親身に話を聞いているようだが、何とも言えない気持ち悪さを感じる。


 勿論、ホストクラブに入ったのは初めてだし、おっぱいパブの女性と客のオッサンの関係も似たような感じだと思うのだが、こちらの方が悪意を感じるのは先入観によるものだろうか。

 接客が行われている店内を眺めた後で、スタッフが出入りしている店の裏側へと回ってみた。


 そこに居たのは、接客しているホスト達が二十年ぐらい歳をとった感じのオッサンだった。


「ショウのテーブルは、もっと絞り取れるだろう。誰かヘルプ入って盛り上げて来い」

「はい!」

「それから、セイヤも売上足りないんだから、もっと貢がせるように言って来い!」

「はい!」


 ソファーにドッカリと腰を下ろしたオッサンが眺めているテーブルの上には、ホストごとの伝票が並べられている。


「なんだこれ……」


 伝票に書かれているのは、簡単な品名と最低数千円の金額だった。

 店のテーブルに並んでいたのは、フルーツとかチョコ菓子とか料理とも言えないような品とドリンクだけで、なんでこんな値段になるのか理解できない。


「一ヶ月分……じゃないんだよな」


 ざっくり計算しただけでも、五十万を超えているものもある。

 どう考えても、ぼったくりだろう。


 噂に違わぬ悪どさに驚きつつも、目的を果たすことにした。

 このホストクラブを訪れた目的は、悪どく儲けた金をいただくため……だったのだが、当てが外れてしまった。


 ぼったくりなホストクラブなら、現金が唸っているだろうと考えたのだが、予想に反して驚くほどの札束などは存在していなかった。

 どうやら、金の無い客にはツケで清算させ、金のある客にはカードで決済、現金で支払いをする客もいるが少数派らしい。


 夜の社会科見学の〆は、ゲスホストからの売上強奪といきたかったのだが、残念ながら今回は空振りに終わった。

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