第103話 ゲスモブ、日常への一歩を踏み出す
帰宅した翌日、清夏が両親と一緒に訪ねてきた。
打ち合わせに無い行動なので驚いたが、むこうで俺に散々世話になったと話したらしく、それならばお礼に行かなくては駄目だということになったらしい。
日本の私服に着替えて、バッチリとメイクしている清夏を見て、ちょっとニヤけてしまった。
「なに笑ってるのよ……」
「いや、スッピンを見慣れてたからさ」
「善人は、メイクする子は嫌いなの?」
「いいや、別に嫌いじゃないし、可愛いと思うぞ」
「そ、そう……ありがと……」
アイテムボックスの中にいる時の調子で話していると、清夏の父親がわざとらしい咳払いをしてみせた。
「う、うん……善人君には感謝しているが、清夏とは節度あるお付き合いをお願いしたい」
まぁ、父親という立場からすれば、そう考えるのは当然だろうが、残念ながら手遅れだ。
向こうの世界に居た頃には、妊娠を恐れて一線を超えないようにはしていたが、それでも節度ある付き合いなんて言えるような性活ではなかった。
「勿論です。僕らはまだ学生ですし、異世界召喚なんて異常な事態に巻き込まれたせいで勉強も遅れています。とりあえず大学受験に向けて、遅れを取り戻すことに専念するつもりです」
「そ、そうだね。うちの娘は……あまり勉強は得意ではないから、よろしく頼むよ」
「はい」
てか、清夏が俯いて肩を震わせているのは、涙じゃなくて笑いを堪えているだけだろう。
別に、将来義理の父親になるかもしれないから、点数稼ぎをしておこうなんて考えている訳じゃないぞ。
清香への監視が強まって、やりたい時にやれなくなると面倒だからだ。
まぁ、いくら監視が強まったところで、アイテムボックスを使えば清夏を連れ出すなんて簡単だけどな。
清香が来たので、ついでに高校に行って帰国の報告を行った。
授業は諸般の事情を考慮して、今年度中はオンラインで行うそうだ。
確かに、七人だけの教室を作れば、悪目立ちするのは確実だろう。
来年度については、今後の帰国者の状況を見て考えるそうだ。
まぁ、その帰国者がどれだけ増えるかは俺次第なんだが、当然ながら話すつもりはない。
担任の話によれば、既に五人はオンラインでの授業を受けているらしい。
コロナの頃は、オンライン授業なんて不安と不満でしかなかったが、こうした状況では有難い。
学校に通わなければ、下らないトラブルに巻き込まれる心配も減る。
召喚される前の俺は、目立たないモブオタだった。
死んだ宇田みたいに目立つ存在ではなく、徳田たちヤンキーからも絡まれず、ひっそりと学生生活を続けてきた。
だが、異世界帰りだと知られたら、これまで殆ど付き合いが無かった連中が、珍しがって絡んでくる可能性は十分に考えられる。
召喚前の俺ならば、卑屈な作り笑いを浮かべながら、波風立てないように振舞っていただろうが、今の俺はそれで済ませる自信が無い。
アイテムボックスに加えて、皇竜から分解、復元の魔法まで貰ってしまった。
ウザ絡みされたら、魔法を使って報復してしまいそうだ。
学校から自宅に帰ると、光が丘警察の署員が訪ねてきた。
一応、捜索願が出されていた関係で、事情を聞かせて欲しいということなので、警察署まで同行した。
任意の事情聴取なら断ってもいいんですよね……なんて反発して、目を付けられる方が面倒なので、大人しく従っておく。
実際、俺も異世界召喚に巻き込まれた被害者だし、俺自身を含めて七人を帰国させた功労者でもある。
ただし、魔法が使えると知られれば、この先の自由が奪われる可能性がある。
魔法を使った日本と異世界の二拠点生活を満喫するためにも、くれぐれも目立つ行動は慎まなければならない。
警察の事情聴取では、清夏と打ち合わせた通りの話を続けた。
どんな嘘であろうとも、警察が裏付けを取ることは不可能だし、清夏と話の食い違いがなければ大丈夫だと思っていても緊張した。
それでも、警察側も俺達は被害者であるという認識だったので、特に問題もなく事情聴取は終了した。
警察署を出て自宅に戻ってスマホを確認すると、ショートメールが届いていた。
送り主は清夏で、新しいスマホを購入したらしい。
清香には日本に戻る前に、スマホの番号とメールアドレスを伝えておいたのだ。
「もう新しいスマホ買ったんだ?」
「うん、学校の帰りにショップに寄ってきた」
「警察の事情聴取は?」
「明日行く。善人は?」
「おう、今さっき終わったところだ」
「何を聞かれた?」
「主に城を抜け出した後の話だけど、想定の範囲内だった」
「じゃあ、打ち合わせた通りで大丈夫かな」
「たぶんな。でも、打ち合わせたとか言うなよ」
「分かってるよ。そんなミスはしないって」
事情聴取について少し話した後で通話を切った。
なにせ、会って話したければ、いつでも、どこにでも移動できるのだ。
明日は清夏が事情聴取を受けている間、俺は分解と復元の魔法の練習を重ねるつもりでいる。
皇竜には余計な力は必要ないと言ったが、貰ってしまった以上は活用しない手はない。
どちらも目茶苦茶チートな魔法だけに、使いこなせるようになれば面白いことが出来そうだ。
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