第102話 ゲスモブ、帰宅する

「さて、そろそろ俺達も帰るか」

「そうだね」


 最初に那珂川を帰国させ、しばらく様子を見たあとで女子四人を帰国させたが、大きな騒ぎにはなっていない。

 帰国させた女子四人は、警察からの事情聴取も受けたようだし、病院で中絶措置も受けたらしいが、そうした話はネット上で広まっていない。


 というか、四人が帰国した話すらネット上で見掛けていない。

 考えられる理由の一つとしては、那珂川の父親と顧問弁護士が、異世界で性的暴行を受けた件が世間に広まったのは、守秘義務に違反すると警察及び病院を訴えたからだろう。


 もう一つは政治と芸能の大きなスキャンダルが世間を賑わせているからだろう。

 警察や病院関係者に厳しい箝口令が敷かれ、マスコミ関係はスキャンダル重視でリスクのある未成年者に関する報道を控えているからだろう。


 という訳で、俺達もその流れに乗って一旦帰宅することにした。

 人目に付かない時間を選び、防犯カメラの死角になりそうな公園の広場から外に出た。


「おぉぉ、久々の日本……って感じは、あんまりしないか?」

「うん、ちょいちょい帰ってきてたからね」

「そんじゃあ、打ち合わせ通りに」

「うん、落ち着いたらね……」

「おぅ」


 清夏とはアイテムボックスの中で生活を共にしてきたので、もう気心も知れているし、肉体関係も結んでいる。

 帰国する前には入念な打ち合わせや準備をしてあるから、特段心配することも無い。


 まずは帰宅して家族を安心させ、日本での生活基盤を再構築してから、異世界に行って遊ぼうという魂胆だ。

 夜中を選んで戻って来たので、清夏を自宅のマンションまで送った後、俺も自宅のあるマンションまで戻った。


 俺は清夏たちとは違って服や持ち物も取られなかったので、持っていた鍵で自宅の玄関を開けた。

 もう寝静まっているかと思ったのだが、リビングには明かりが灯されていた。


「ただいま……」

「善人?」

「あぁ、なんか知らんけど帰ってきた」

「善人ぉぉぉぉぉ!」


 幽霊でも見たような表情を浮かべていた母親が、次の瞬間ボロ泣きしながら抱き付いてきた。


「お前、今まで連絡もせずに、何処に行ってたんだ!」

「どこって……異世界? いきなり教室から知らない世界に飛ばされて、いきなり戻ってきて……俺も何がなんだか分かんねぇんだよ。連絡しようにも、スマホの電波は入らねぇし、充電切れちまうしさ」


 お袋がボロ泣きしたのは意外だったが、親父が文句を言ってきたのは予想通りだ。


「それじゃあ、那珂川君みたいに、違う世界で酷い目に……」

「那珂川がどうかしたのか? 俺は城に着いた直後に逃げ出したんで、他の連中のことは分からないんだけど」

「そうなのか、那珂川君は酷い暴行を加えられたそうだぞ」

「あぁ、やっぱりか、なんか城の連中は怪しかったからな」


 自分は城に着いた直後に逃げ出して、現地の人の服を盗んで着替え、その後も城の金とかを奪って、途中で合流した清夏と逃亡生活を続けていたと話した。


「その白川さんはどうしたんだ?」

「あぁ、さっき一緒に戻って来たらから、自宅のマンションまで送ってきた」

「そうか、ちゃんと守ったんだな?」

「守ったっていうか……色々必死だったから、助け合って切り抜けてきた感じだな」


 時には盗みを働いたり、現地の人間に騙されたり騙したりしながらも、どうにか食い繋いで来たと、それらしい作り話で親父とお袋を納得させた。

 家にあったカップ麺に舌鼓を打ち、風呂や水洗トイレのある生活に感動してみせる。


 帰宅を決めた後、俺と清夏はワザと着ている服を汚しておいた。

 清夏の魔法を使えば、全身丸ごと服まで綺麗にできてしまうが、それも止めて数日すごしてから帰宅したので、風呂はマジでさっぱりしたと感じた。


 とにかく眠いからと両親に断って自室に籠り、ドアにカギを掛けたら、アイテムボックスに入って移動する。

 那珂川を帰国させると決めた頃、アイテムボックスを使った移動の改良作業を行った。


 これまでは、俺が行ったことのある場所を目指して移動していたのだが、新たに人間を目標にする方法を編み出した。

 編み出したなんて言うと大げさだが、今なら清夏の居る場所、サイゾーの居る場所などには意識するだけで飛べる。


 詳しい原理とかは分からないけど、出来るのだから文句を言うつもりはない。

 清夏の顔を脳裏に描いて移動して、アイテムボックスの窓を開けて外の様子を窺うと、清夏はベッドの中にいた。


 早速、寝込みを襲ってやろうかと思ったのだが、清夏の横には別の少女が眠っている。

 生意気な妹がいると聞いていたが、さすがに姉が行方不明になれば心配したのだろう。


 絶対に離さないとばかりに清夏の腕を抱え込んでいるし、妹を起こさずに話をするのは難しそうだ。

 とりあえず携帯の番号を渡してあるので、清夏が新しいスマホを手に入れたら連絡が来ることになっている。


 明日は丸一日休息に当てて、明後日以降は学校への復帰を考えている。

 日本で一般的な生活を送りながら、裏で魔法を使って暗躍したり、異世界での生活を楽しむのが今後の俺の目標だ。


 正直、勉強はあまり好きではないが、理想の生活の基盤を作るためには最低限の知識や学歴は必要だ。

 金は非合法な組織からパクってくれば良いけれど、あまり派手な生活をすれば周囲から疑われる。


 まずは目立たず、波風立てず、地味な一般人となるべく再スタートを切るとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る