第100話 ゲスモブ、邪竜を偵察する

 飛びトカゲなどと称されてしまった邪竜は、皇竜の住処よりもずっと下、峰と峰の谷間にに居た。

 というか、邪竜なんて御大層な呼び方をされる生き物ならば、山の天辺に居るものだと思っていたから、一番高い山に登ってしまったのが間違いだったようだ。


 自分の手足で登るのと違って、アイテムボックスを使った移動ならば崖でも楽に登って行ける。

 改めて皇竜の住処から出て下を眺めてみたら、とんでもない断崖絶壁の上だし、雲海が眼下に広がっている状態だった。


 それで肝心の邪竜だが、山奥の滝壺近くを根城にしているが、皇竜のような神々しさは全く感じられない。

 皇竜は俺達よりも高次な存在に感じられたが、邪竜はデカい獣にしか見えない。


「確かに皇竜を見た後だと、飛びトカゲと呼ばれるのも分かるな」

「うん、なんて言うか知性の欠片も感じないよね」


 邪竜の名誉のために言うならば、体の大きさや迫力ならば、特撮映画に出てくるドラゴンそのものだ。

 頭から尾の付け根まで七、八メートル、尾の長さも加えると十二、三メートルはあるだろう。


 黒に近い緑色の鱗は硬そうだし、爪や牙は杭のように太い。

 邪竜を先に見ていれば、その迫力に圧倒されていただろうが、俺達は先に皇竜と出会ってしまった。


 あの神々しい姿を見た後だと、明らかに見劣りしてしまう。

 A5等級のシャトーブリアンのステーキと、レトルトのハンバーグを見比べているぐらいの差を感じる。


 魔力においても、知性においても、存在の次元においても、全てが違い過ぎるのだ。


「なんかさ、これならサイゾーが一撃で倒しそうな気がするんだけど」

「あたしも、そう思う。でも、こっちの人間だと何十人、何百人態勢で戦うんじゃないの?」

「そう聞いてるけど、そんなに強そうに見えないけどな」

「じゃあ、試してみれば?」

「試す? どうやって?」

「新しい魔法の実験台」

「あぁ、なるほど。分解と復元の練習台に邪竜を使うのか」

「そうそう、魔法は使うほどレベルが上がるんでしょ?」

「そうだな、ちょっとやってみるか」


 アイテムボックスを使いっぱなしにしても、全く魔力切れとか感じないし、大きさも今なら体育館以上の大きさだって作れそうだ。

 俺は魔力量という面では、間違いなく一級品のはずだ。


 ただし、分解も復元も、どちらも初めて使う魔法だから上手く使えるか分からない。


「アイテムボックスも勘で体得したんだから、習うより慣れろだな」

「そうそう、やってみなよ」

「よし、尻尾の鱗をちょっと剥がすぐらいからやってみっか」


 眠っている邪竜の尻尾の近くへと移動して、鱗を二、三枚剥がしてみる。


「いくぞ、分解!」

「ギャウッゥゥゥゥゥ!」


 俺が分解の魔法を発動した直後、邪竜が絶叫した。


「はぁぁ?」

「善人、やりすぎ! 尻尾、無くなっちゃってるよ」


 鱗をニ、三枚剥がすつもりが、邪竜の尻尾が鱗、皮、肉、筋、骨に分解されてしまった。

 いい気持ちで寝ていたのに、いきなり尻尾をバラバラにされれば、そりゃあ叫びもするだろう。


 痛みに驚いてのたうち回り、滝壺に転落してドッタンバッタン慌てふためいている。


「いや、なんか悪いことしちまった感が凄いんだけど……」

「善人、復元、復元!」

「あぁ、そうか、復元!」


 急いで復元の魔法を発動させると、邪竜の尻尾は元の形に復元された。

 ただし、邪竜本体からは切り離されたままで、尻尾単体がビタンビタンと動いている。


「うわぁ、飛びトカゲの尻尾切りになっちまった」

「グロっ、キモっ……どうすんの? 善人」

「えーっと……尻尾単体じゃなくて、邪竜全体を復元すればいいのか? 復元!」


 範囲を全体に変更して再度復元魔法を発動させても、邪竜は暫く暴れ続けていた。

 振り回された手足の爪は岩を砕き、吐き出されたブレスは崖を大きく抉った。


 滝壺の周囲の地形が変わるほど暴れ続けていた邪竜だったが、不意に動きを止めて自分の尻尾を確かめ始めた。


「善人、こいつアホだよ」

「だな、尻尾が治ったのに気付かずないで暴れ続けてたもんな」


 今も邪竜は自分の尻尾があるのを不思議そうに眺め、キョロキョロと周囲を見回したりしている。

 まぁ、俺達の存在には気付いていないみたいだし、何が起きたのか理解できていないのだろう。


 それにしても、自分の尻尾を確かめたり、辺りを確かめたりする姿が物凄くアホっぽいのだ。


「こいつ、サイゾー達が討伐に来たら、舐めくさった態度で向かってきて、あっさりやられる雑魚キャラだな」

「うん、私もそう思う。てかさ、クソ女王が邪竜の肝を食べれば不老不死の力を得られる……みたいな事を言ってたけど、あれって皇竜の肝じゃないの?」

「あぁ、確かに皇竜の肝なら、そのぐらいのパワーありそうだけど、サイゾーでも皇竜には勝てないだろう」

「うん、次元違い過ぎるよね」


 とりあえず、尻尾を復元した後の暴れっぷりは録画したので、これをサイゾーに見せてやろう。

 皇竜の話は……どうすっかなぁ。

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