第99話 ゲスモブ、ドラゴンに会いに行く(後編)
日本や地球の話の中で、皇竜が食いついたのは移動手段と情報伝達手段だった。
「音よりも速く飛び、星の裏側に居る者とも話ができるとは驚きじゃな」
「俺達も普段は意識していないけど、様々な恩恵を受けてましたね」
外国から安く大量に仕入れらる資源や食品などを抜きにしては、日本の生活は成り立っていかない。
「それだけ移動が楽になり、様々な国との関わりが増えても、まだ宗教や人種絡みで戦争をしているのも面白い」
「なにが楽しくて戦争なんてやるんだか、俺には理解できませんけどね」
「戦争なんてものは、一部の下らない連中が始めて、周りの者は巻き込まれて迷惑を被るものと決まっておるが、これほどまで文明が発展しても人という生き物は変わらぬのだな」
直接年齢は聞いていないが、おそらく遥かに長い時間を生きている皇竜から見れば、人間という生き物はさぞや愚かに見えるのだろう。
「さて、ヨシヒトよ。行くとするか」
「えっ……行くって、飛びトカゲのところですか?」
「何を言っておる、あんなものを見たところで面白くも何ともないだろう」
「えっ、まさか地球に行くんですか?」
「当然じゃろう、タブレットの画像だけで満足できると思うのか?」
「いや、まぁ……今時は銀髪でも騒ぎにはならないと思うけど、流石に服は着ないとマズいっすよ」
「まぁ、そうじゃろうが、見るだけならば問題ないぞ、ほれ……」
「えっ……えぇぇぇぇぇ!」
突然、目の前にいた皇竜が蜃気楼のように搔き消えてしまった。
「他者からの認識を阻害する魔法じゃ」
「いや、声が聞こえて、居ると分かっていても姿は見えないですよ」
「当たり前じゃ、誰が魔法を使っていると思うとる」
よくラノベや漫画に出てくる認識阻害の魔法は、相手に存在を気付かれてしまうと解けてしまうというのが定番だが、術者が強力だと簡単には破れないらしい。
「うわぁ、声はすれども姿は見えず……脳が混乱してるよ」
「ふふっ、そのまま前に手を出してみよ」
「こう……うわっ!」
言われるままに手を伸ばすと、何もない空間にムニュっという手触りがあった。
柔らかさも、温もりも感じるのに姿は認識できず、完全に脳がバグっている感じだ。
「触った感覚があるのに姿は見えないってマジか……」
「どうじゃ、これなら服など要らぬだろう」
「まぁ、そうですけど、現地を堪能するなら、適当な服を手に入れた方が良いですよ。日本は世界中の料理をアレンジして、自分達の生活に取り込むのが上手い国ですから」
「なるほど、美味いものがあるのじゃな。我は食事を必要とはせぬが、味を楽しむことは出来るぞ」
「それならば、日本を見物してもらって、気に入った服を……あっ、忘れてた」
「どうした?」
「地球で魔法が使えるかどうか、まだ検証中なんですよ」
日本に戻った後も魔法が使えるか、那珂川に検証を頼んでいるが、まだ結果を聞いていない。
もし魔法が使えなかったら、日本に滞在中に認識阻害の魔法が解け、人化の魔法が解け、大パニックになってしまうだろう。
「なぁに、心配など要らぬ。魔法が使える環境か否かは、我が判断してやろう」
皇竜の話によれば、行って空気に触れれば、その場で判断が出来るらしい。
これは俺達にとっても有難い話だ。
「向こうに連れて行ってくれるだけで良いぞ、一度行けば後は勝手に行き来するから心配無用じゃ」
「そう、だと良いんですけど……気に入らない奴がいても日本を亡ぼしたりしないで下さいよね」
「アホめが、新しいオモチャを手に入れた初日に壊したりするものか」
「うわっ、めっちゃ不安になってきた。ホント、お願いしますよ」
「分かった、分かった、亡ぼしたりしないから心配するな。さぁ、早く連れてゆけ」
「分かりました、ではアイテムボックスの中にどうぞ」
皇竜をアイテムボックスの中に招き入れ、渋谷のスクランブル交差点へ移動した。
「ほぉ、凄い数の人じゃな。うむ、これは楽しめそうだ」
「窓を開けてみましたけど、魔法は使えそうですか?」
「ふむ、問題無いじゃろう。いや、これだけの魔素があるのに魔法を使える者が居ないというのも変じゃな。まぁ、その辺りも見て回れば分かるじゃろう」
「本当に案内しなくても大丈夫ですか?」
「心配は要らぬ。ヨシヒトもやる事があるのじゃろう?」
「飛びトカゲの偵察は、そんなに急ぎでもないんですけどね」
「まぁ良い。ヨシヒト達が向こうの世界を楽しんだように、我にも探検を楽しませてくれ」
「分かりました。では、存分に日本をお楽しみください」
「うむ、世話になったな。これは、ほんの気持ちじゃ」
すっと突き出された皇竜の人差し指が俺の額に触れた瞬間、脳に魔法の情報が書き込まれた。
「これは……」
「ヨシヒトは要らぬと言うておったが、何も礼をせぬのも気が引けるからな。せいぜい力に飲み込まれぬように……いや、ヨシヒトならば我の思いつかぬような面白い使い道を見つけるかもしれぬな」
そう言い残すと、皇竜は渋谷の空気に溶け込むように姿を消した。
東京にドラゴンを放流しちゃったけど、駄目だなんて言えないし、なるようになるっしょ。
「てか、余計なものを置いていきやがって……」
「善人、何の魔法をもらったの?」
「んー……分解と復元……かな」
「かなって……ハッキリしないの?」
「ていうか、俺のアイテムボックスもそうだけど、魔法って結構アバウトなところがあるじゃんか」
「言われてみれば、あたしの清掃魔法も定義は曖昧だよね」
清夏の清掃魔法は物を綺麗にする魔法だが、精神への影響とか、汚れはどこに消えるのかとか、曖昧な部分が残されている。
皇竜が置いていった魔法も同じだ。
「そう、そんな感じ。分解は、冒険者が魔物を倒して素材を取り出す時なんかに便利な魔法で、例えば、肉と毛皮とか、肉と骨みたいに魔法で分解出来るらしい」
「へぇ、便利じゃん。でも、善人は魔物の討伐とか興味無さそうだよね」
「まぁな。ただ、分解は突き詰めていくと細胞レベル、分子レベルまで分解が出来そうな気がする」
「うわっ、それってチートじゃん。それで復元は?」
「壊れた物を復元する……って感じだけど、これも使い方次第じゃヤバそうだな」
復元するということは、言い換えると時間を戻すようなものだ。
俺達と同い年の高校生を十五年前に復元したら、幼児に戻ってしまうだろうし、二十年前に復元したら、跡形も無く消えてしまいそうだ。
「何が善人ならば面白い使い道を見つけるだ。使い方を間違えたら、サイゾーを超える魔王になっちまうぞ」
「でも、使い方次第で女王への復讐に活用できるんじゃない?」
「そうだな、それに回復役としても動けそうだな」
貰ってしまった以上は使わせてもらうが、このチートセットを手に入れた件は、しばらくサイゾーには黙っていることにした。
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