第95話 カースト女子、決意する
※今回は宮間由紀目線の話になります。
自分でも八つ当たりをしていると気付いている。
梶原琴音が誰とくっ付こうと、何をしようと、私には関係無いし文句を言う権利も無い。
そもそも、優が訓練中に命を落としたのは琴音の責任ではない。
優が魔物に食らった一撃は、誰の目から見ても致命傷だった。
頭が三日月のようにひしゃげ、首が曲がってはいけない角度に折れながら胴体が浮き上がり地面に落ちた。
魔物に連れ去られなかったとしても、あの場所で琴音が治療を行えたとしても、優の脳が元通りになったとは思えない。
誰かに責任があるとすれば、それは私だ。
もっと真面目に訓練に取り組んで、身体強化の魔法を十全に使えるようになっていたら、優に一撃が届く前に割って入れたかもしれない。
魔物の棍棒を弾き飛ばせたかもしれない。
優を失わずに済んだかもしれないのだ。
今になって分かったのだが、桂木才蔵のやり方は正しかった。
こちらの世界に召喚された頃、桂木の行動を見て、オタクなデブが魔法を手に入れて調子にのっているだけだと思っていた。
だけど、孤立無援、外部からの支援が期待できない状況では、自分達の力を誇示して相手に認めさせなければいけなかった。
そのために、自分達が手に入れた力に磨きをかけて、相手を黙らせるだけの実力を身に付けなければならなかったのだ。
こちらの人間の十倍以上の魔力を手にしても驕らず、ゲロを吐くような醜態を晒しながらも鍛え続ける理由は、実戦訓練に行って嫌というほど気付かされた。
こちらは優と金森の二人を失い、兵士に助けられてようやく抜け出した森を、桂木達は兵士達が舌を巻くほどの速さで踏破していた。
この先、私達が誰を頼り、何をすべきかは明らかだったが、桂木は私達の合流に難色を示したそうだ。
自分達が、何をすべきか行動で示していたのに、それを否定するように怠けていた私達は不要だと判断されるのも当然だろう。
意外にも、合流を認めてくれたのは不良のリーダーだった徳田秀紀だそうだ。
桂木が合流を認めたのは、その意向を考慮したからだそうで、こちらのグループ内で徳田の株が上がったが、私は逆に徳田の評価を下げた。
一見すると日本から来た仲間に手を差し伸べる優しさに思えるが、異世界に召喚されたという状況を考えるならば、考えの甘い実力も劣る者を背負いこむ行為だ。
むしろ、不要な者は切り捨てようとする桂木の考えが正しい。
それでも、受け入れると決めた以上、桂木も私達への指導を行うようになったが、あまり乗り気には見えなかった。
そんな中で、桂木が目を掛けたのが琴音だ。
兵士達に掛け合い、専用の訓練場を用意させ、厳しい訓練を課した。
琴音も、こちらのグループの女子たちも、桂木がやらせる訓練を当初は非道だと言っていたが、私には期待の表れだと分かっていた。
どんなに鍛えても、相手や状況によっては傷を負ったり、病に罹ったりする。
その時に重要なのは回復役であり、唯一治癒魔法を使える琴音なのだ。
だから桂木は琴音に専用の環境を与え、厳しい訓練を課したのだ。
その一方で、私にはアドバイスもくれなかった。
自分が出来るのは魔力を放出する系統の魔法だけで、肉体強化の魔法をどう高めれば良いのか分からないというのが理由だが、期待されていないのだ。
桂木の魔法を見れば、期待されないのも分かる。
大きな岩を豆腐のように切り裂き、地形が変わるほどの爆発を起こす魔法の前には、肉弾戦を挑む私など必要無いと思わされてしまう。
でも、だからと言って、引き下がるのは私のポリシーに反する。
クラスの誰もが、学年の誰もが、学校の誰もが憧れ、最初に選ばれる存在でなければならない。
認めないなら、認めさせるだけだ。
桂木が、こちらの世界の人間達に存在意義を認めさせたように、私も私の存在意義を認めさせる。
「そうか、嫉妬してたんだ……」
考えを整理して、ようやく琴音に対して苛ついていた理由が分かった。
琴音は正しい、この状況を乗り切って、この世界で生きていくならば、誰の隣にいるべきか、誰に選ばれるべきかは明らかだ。
琴音が桂木を選び、桂木のためならば全てを捧げるのは当然だ。
私が琴音に苛ついていたのは、性欲処理という淫らな行為をすると宣言したことじゃなく、琴音が桂木に選ばれて、私は桂木に選ばれないことへの嫉妬だ。
「なんだ、簡単じゃない……認めさせてやるわよ、体じゃなくて能力でね」
琴音と比べたら、私の方が胸も大きいしスタイルも良い。
牝としての魅力は私の方が勝っているけど、それで選ばれても意味が無いし、桂木の選考基準はそこじゃない。
桂木の力があれば、こちらの世界なら女は選び放題で、それこそセックスに特化した女を選べば良いだけだ。
だから、琴音の宣言は正しいけれど間違っている。
私がそれを証明して、桂木を私に釘付けにしてみせる。
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