第90話 ゲスモブ、餌を撒く
俺と清夏は、王都の北に向かう捜索隊を探ることにした。
探るといってもアイテムボックスの中からなので何の苦労も無い。
こちらからは外の様子も見えるし、音も聞こえているが、向こう側からは俺たちの姿は全く見えないし、物音も聞こえていない。
城からパクってきたクッションに寄り掛かりながら、日本のコンビニでパクってきたスナック菓子を摘まみながら、まるで映画かドラマでも見るように眺めている。
「善人、あいつにしようよ」
「分かりやすいゲスだからな」
清夏が指差したのは、俺も目をつけていたヒゲ面の兵士だ。
周りの兵士に比べて年齢が上に見えるのは、単に顔が老けているからではなさそうだ。
「クソガキ共め、見つけたら首輪を嵌めて死ぬまでハメ倒してやる」
「デルムさん、油断してるとヤバいっすよ」
「あぁ? 手前は油断してなかったら空間魔法の攻撃を防げるって言うのか?」
「いや、そうじゃないですけど、俺らが兵士だってバレたら狙われるんじゃないですか?」
「けっ、どこに居るのかも分からない奴にビビってられっかよ」
「だとしても、見慣れない黒髪のガキを探すのが先っすよ」
「んなことは分かってるよ。女だろうが、男だろうが、泣き叫んで許しを乞うてきてもハメ倒してやる」
デルムの見た目の年齢は三十半ば過ぎに見えるが、頭の中はヤルことしか考えてねぇのかよ。
話し相手の若い兵士も、呆れたように苦笑いを浮かべている。
「ニルシャ、手前はあのガキ共と遊んでねぇのか?」
「はい、俺はバザーラの駐屯地に居ましたから」
「そいつは惜しいことをしたな。女も男も、実に良い具合だったぞ。特にヒロシとかいう男とヨシカとかいう女は、自分から尻振ってやがったからな」
「マジっすか? そんな好き者が居たんすか?」
ニルシャとかいう若い兵士は、ちょっとはマシかと思ったが、デルムが語る凌辱の状況を身を乗り出して聞いている。
あまりのゲスっぷりに、殺すのは止めて、殺すよりも悲惨な目に遭わせてやろうと決めた。
馬車に乗り合わせている他の兵士達もデルムの話を遮るでもなく、ゲスい笑みを浮かべて聞き入っている。
こいつらなら皆殺しにしても良心は痛まないだろう。
デルムとニルシャは、王都から馬車で半日ほどの距離にあるヌストフという街に降り立った。
ヌストフは周囲を畑に囲まれた街で、街道の宿場町として栄えているようだ。
デルムとニルシャの他に、二組四名がヌストフの街の捜索に加わった。
馬車から降りた六人は街の中心部に宿を確保して、明日からの捜索の打ち合わせを始めた
打ち合わせを仕切っているのはデルムだ。
「いいか、まず探すのは髪を編んでいない連中だ。ここヌストフは王都に近い土地柄、殆どの者が王都と同様に髪を編んでいる。脱走した連中は髪を編んでいなかったと聞いているから、集団で動けば必ず目立つ」
「デルムさん、やつら空間魔法で移動したんですよね? 街の者に姿を見せていなかったら目立たないんじゃ?」
「うっせぇな、それはこれから話すところだ、黙ってろ!」
「すんません……」
その後もデルムは色々な指示を五人に与えたが、部外者の俺が聞いても微妙にズレてる感じがする。
なるほどと思うことも無いわけではないが、殆どはデルムの思い込みって感じだ。
「善人、どうするの? 寝てる間にやっちゃう?」
「いや、少しからかってやろう」
打ち合わせを終えたデルムたちが、まだ明るいうちから酒盛りを始めたのを確認して、街に移動した。
古着屋らしい店から現地の人間に見えそうな服をパクって、清夏に清浄魔法を掛けてもらってから着替える。
人目に付かない場所から清夏と一緒に表に出て、姿を晒しながら市場へと向かった。
干し肉や干し魚、果物などを店のオッサンと交渉し、値切りながら買い込んでいく。
買った品物は鞄の中に突っ込んでいるが、鞄の中はアイテムボックスに繋がっているから重くない。
買い物や買い食いを続けながら、日用品の店の場所とか古着屋の場所などを訊ねて回る。
清夏と一緒に街を歩くのは、サイゾー達の実戦訓練に同行した時に経験済みだから、特に戸惑うことはない。
結構な量を買い込んだが、金は城から盗み出したものだから値切っていたのもポーズだけで、例えぼったくられていたとしても痛くも痒くもない。
買い物を終えた後、路地裏に入って人目を避けてアイテムボックスの中へと戻った。
「あー楽しかった。これで奴らが騙されてくれたら、もっと楽しいんだけどな」
「だな。でも、結構買い込んだし、いかにも街に来たばかりって感じを装っておいたから、聞かれたら話すんじゃねぇか」
「うん、だよね。髪を編んでる人ばかりで、ちょっと緊張したもん」
「あぁ、結構見られてたな」
捜索に来た連中を騙すための餌は撒いたから、後は食い付くのを待つだけだ。
不安があるとすれば、仕切っているデルムのポンコツぶりだが、他の五人は少しは真面目に捜索するだろうし、指示通りの場所を選んで姿を見せておいたから引っ掛かるはずだ。
「ねぇねぇ、善人、この後はどうするの?」
「この後は、アイテムボックスに入ったまま市場の一番賑やかな場所まで戻る」
「それで、それで?」
「たくさんの通行人が行き交う様子を見ながら……する」
「えっ?」
「そういうの好きなんだろう?」
「馬鹿……」
清夏は顔を真っ赤にしながらも、満更でもない様子だった。
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