第89話 ゲスモブ、捜索隊を探る

 女王の命令を受けて、王都近郊の街や村に捜索隊が派遣されることになった。

 俺と清夏は、編成された捜索隊の様子を探りに、軍の施設へと入り込んだ。


 捜索は住民に対する聞き込みから行われるようで、二人一組の兵士が百組、二百人集められて説明が行われた。


「いいか、良く聞け! 相手は空間魔法の使い手と思われるが、連れ出した仲間が一緒にいる。必ずどこかで痕跡を残しているはずだ。見つけ出せ、命懸けで見つけ出せ!」


 部隊を率いる隊長が訓示を行っても、兵士たちは今一つ緊張感に欠ける表情を浮かべている。


「部隊長、質問よろしいでしょうか」

「なんだ?」

「逃亡した連中なんて放っておけば良いんじゃないですか?」

「貴様、死にたいらしいな」

「えっ、そんなに危険な状況なんですか?」

「馬鹿め、よく考えてみろ。友人や知人が理由も無く連れ去られて、見ず知らずの男どもに凌辱されたら、貴様ならどう思う? 殺してやろうとは考えないか?」


 どうやら、この部隊長なる人物は的確に危機を感じているようだ。


「ですが、以前に襲撃してきましたが、それ以降は襲って来なかったじゃないですか」

「当たり前だ。まだ戦えない仲間を我々が押さえていたからな。その仲間がバルダザーレ殿下の屋敷から連れ出された。もう奴が攻撃を控える理由が無くなったんだぞ! もう、いつ襲ってきたっておかしくない状況だ」

「ですが、私はトロリスの駐屯地から戻ったばかりで、凌辱行為には加担していません」

「ならば仲間が殺されるのを黙って見ているのか? 大体、相手が我々の中の誰が行為に関わったのか正確に把握していると思うか? 全員が坊主頭の制服姿で見分けがつくと思うのか? 見分けが付かなかったら、狙われるのは誰だか考えてみろ!」


 この部隊長なる人物は、なかなか有能らしい。

 実際、俺は誰が坂口たちを凌辱していたのか把握していないし、特に把握するつもりも無い。


 状況によっては、この国の兵士というだけでも殺してしまうつもりだ。

 間抜け面して部隊長に質問していたこの兵士とかに恨みは無いが、俺達を勝手に召喚して使い捨てにしようと考えているクソ女王の国に生まれたのが運の付きだったと諦めてくれ。


「空間魔法の使い手が誰なのか分からんが、連れ出した者達は自分の力でしか移動は出来ないはずだ。これまで空間魔法の使い手が鳴りを潜めていたのは、恐らく連れ出した仲間を匿う拠点を手に入れるためだ。そして仲間を連れだしたのは、拠点の準備が整ったからだろう」


 考え方としては間違っていないのだろうが、既に五人は日本に送ってしまったから、こちらの世界には痕跡は残っていない。

 つまり、ここに集められた兵士たちは、存在するはずもない拠点を探しに行かされる訳だ。


「空間魔法の使い手に、我々が探していると悟られれば、最悪その場で殺されるかもしれない。なので、捜索は全員私服で行うこと。必要以外の場面では、軍人であることも伏せておけ」


 部隊長の命令で、全員が私服に着替えて聞き込みを行うこととなったが、坊主頭のゴツい男の二人組なんて、兵士以外に存在しないんじゃないのか。

 私服に着替えさせられ、改めて集合させられた兵士を見て清夏も同じことを思ったようだ。


「善人、あれってバレバレじゃない?」

「だよな。街中にも体格の良いオッサンはいたけど、レベチだろう」


 そもそも、普段の食事や訓練が違うだろうし、服が変わったところで兵士にしか見えない。

 それは、着替えさせられた兵士自身も感じたようだ。


「部隊長、質問よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「服を変えても兵士の集まりにしか見えません」

「そんなことは見れば分かる。だが、二百人の集まりでなく二人組で、しかも遠目からみたらどうだ? 少なくとも一目で兵士と分かる制服姿よりはマシだろう」

「なるほど……了解しました」


 いや、了解しちゃうのかよ。

 聞き込みだけなら、別に兵士が行かなくても良いんじゃねぇの。


 まぁ、様子を見る予定の俺達からすれば分かり易くて良いんだけどな。

 兵士たちは四台の馬車に分乗して、王都から東西南北に延びる街道を進み、途中にある街や村で何組かが降りて聞き込みを行うようだ。


「いいか、奴らだって人間だ、食い物が無ければ生きてゆけぬ。食い物を買いに来た見知らぬ者が居ないか、畑の作物や売り物が盗まれたりしていないか聞いて回れ。それと、編み込みをしていない黒髪の女を見ていないか、見たら知らせるように街の顔役や村長に話を通しておけ!」

「はっ!」


 いよいよ兵士たちが出発するようだが、まずはどの方向に向かうかだ。


「どの方向に行くの? 訓練場は南だったよね?」

「だな、サイゾーの方が疑われるのは面倒だから北にするか」

「ねぇ、兵士を殺すの? さっき関わっていないって言ってた人も居たけど……」

「状況次第だな、女王や王弟を脅すには二、三人殺しておいた方が良さそうだけどな」

「殺すよりも、半殺しにした方が狙われたって伝わりやすくない?」

「おぅ、確かに……追って来られないように足とか傷付けた後で、わざと姿を見せて逃げるか」


 俺と清夏は北に向かう兵士を乗せた馬車にアイテムボックスごと乗り込んで、ターゲットにする兵士を選び始めた。

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