第82話 ゲスモブ、目茶苦茶した

 那珂川を帰国させた後、バルダザーレの屋敷は驚くほど平静だった。

 羽田を殺害したことや、『探さないで下さい』と走り書きが残されていたとしても、余りにも関心が薄いと感じてしまう。


 ここに居る連中は、バルダザーレにとってはサイゾー達と交渉するための道具ではあるが、扱いを間違えば火種になってしまう危険物でもある。

 那珂川はバルダザーレからも物わかりの良い者だと思われていたようだが、羽田の一件以降は印象が変わったのかもしれない。


 いずれにしても、変に探りをいれられて俺の存在が露見する心配は減ったのだから、結果オーライとすべきなのだろう。

 その一方で、日本の状況は俺達が考えていた以上に騒々しく、欲にまみれていた。


 一体どこからリークしたのか、那珂川を帰国させた翌朝には、行方不明の高校生が発見されたという一方が報じられていた。

 しかも、SNSなどの不確定な情報としてではなく、大手の新聞社やニュースサイトがこぞって取り上げていたのだ。


「ねぇ、善人。これって警察の人間が洩らしたんだよね?」

「たぶんな。でも、もしかすると那珂川の親戚筋ってことも考えられるけどな」

「そっか、那珂川が戻ってきたって親が確認してたから、親戚とかには連絡するかもね」

「んで、目立ちたい連中がSNSとかで流してバズれば、ニュースサイトとか新聞社が食い付いて……って可能性もあるけど、早すぎんだろう」

「だよねぇ……」


 更に、その日の昼ぐらいには那珂川の名前が特定されていたし、夜には異世界に召喚されていたとか、凌辱されたとか、同級生を殺害したとか……次々に情報がリークされていった。

 そこからの過熱ぶりは、俺も清夏も呆れて言葉を失うほどだった。


 他に大きなニュースが無かったせいでもあるのだろうが、ニュース、ワイドショー、新聞、SNS、全てが那珂川の話題一色だった。

 まず、本当に異世界に召喚されて、その異世界から戻って来たのか論戦が交わされた。


 俺らから言わせれば、高校から三十人もの人間が忽然と消えれば、それは間違いなく超常現象だろう。

 高校には不審者対策として防犯カメラが取り付けられているし、それ以外にも近隣の住宅などにもカメラは設置されている。


 それら全てから姿を隠して失踪するなんて不可能だ。

 だが、異世界の存在なんて信じないという人間も一定数いるようで、検証するテレビ番組が作られ放送されていた。


 次に話題になったのが、羽田の殺害の件だ。

 俺たちは殺害の瞬間を目撃しているから、那珂川が正当防衛ではなく羽田を殺害したと知っている。


 だが、日本にいる人間にしてみれば、那珂川の自供しかないから検証のしようが無いのだ。

 そのため、本当に殺害が行われたのか、その殺害は正当防衛だったのか、そして、死体が存在せず自供のみの場合に罪に問えるのか等を、元検事や警察官などのコメンテーターが討論していた。


 そしてインターネット上では、凌辱の一件がもっとも話題にされていた。

 中学校の卒業アルバムの写真と思われる那珂川の顔写真が出回り、『尻穴王子』とか『尻穴確定』なんて不名誉な言葉が飛び交っている。


 まぁ、現物の那珂川は、世間が考えるよりもぶっ飛んでいるから、その程度ではダメージを受けないだろう。

 そしてBL界隈では、眼鏡ショタが異世界で凌辱される同人誌が早速作られているらしい。


 攻めは現地の兵士、山賊、ゴブリン、オーク……様々なバリエーションが作られているようだ。

 まったく、職人共は仕事が早すぎていけない。


 凌辱に関しては、当然のように女子にも飛び火している。

 今やネット上では、行方不明になった女子は全員、現地の野郎共の性奴隷になったものとされている。


「これじゃあ、清夏も帰ると色々エロエロ言われそうだな」

「別に言われたって平気だよ。善人は真実を知ってるし、その……私の初めてを奪ったんだし……」

「ま、まぁ……それは俺が保証するよ」

「保証するだけ? 責任……とってくれないの?」

「俺みたいなゲスでいいのか?」

「善人は自分をゲスって言うけど、坂口が泣いても凌辱を止めなかった兵士とか、厚化粧女王とか、ネット上で誹謗中傷を繰り返してる奴らなんかよりも全然まともだよ」

「んなことはねぇだろう。自分の都合で清夏以外を見殺しにして、木島たちのグループが実戦訓練で死にそうになっても助けなかったし」


 何なら、奴ら全員をアイテムボックスの中に避難させることも可能だった。

 それでも、自分がアイテムボックスの魔法が使えることを秘密にするために、奴らの窮状を見て見ぬふりをした。


 俺だって十分にゲスだろう。


「それでもいいよ、私にとって善人は白馬ならぬアイテムボックスに引き籠った王子様だから」

「なんだそれ、引き籠りの王子って……むぐぅ」


 俺の自嘲気味の笑いは、清夏の唇に塞がれた。


「んぁ……この気持ちに嘘は無いから」

「ばっ、何してんだ」


 唇を離した清夏は、シャツのボタンを外して脱ぎ始める。

 俺たちはアイテムボックスの中にいるけど、ここはフリーWiFiが入りやすい駅のコンコースだ。


 外からは見えないけど、俺たちからは行き交う通行人が見えている。


「男の子って、こういうシチュが好きなんでしょ?」

「馬鹿、AVの見過ぎだ!」

「じゃあ……しないの?」

「ぐふぅ……」


 この後、目茶苦茶した……興奮した。

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