第80話 ドMショタ、帰国する(前編)
※今回は那珂川博士目線の話になります。
酷い悪夢を見ていた気がする。
また、あの兵舎へと連れ戻されて、屈強な兵士たちに尻を犯されていた。
文字通りに体が引き裂かれる激痛に耐えかねて、僕は感覚変換の魔法を発動した。
性行為によって引き起こされた激痛が、背骨を突き抜けるような性的快楽へと変換され、僕は雄叫びをあげながら射精した。
僕が射精しても兵士達が満足するまで凌辱は終わらない。
それどころかベッドサイドには、一緒に城に残った羽田君や女子のみんなが僕の痴態を蔑んだ目で眺めていた。
「違う、これは違うんだ、見ないで、見ないで……もっと見てぇ、いぐぅぅぅぅ……」
羞恥心を変換すると性的な快感が更に上乗せされて、僕はドン引きするクラスメイトの目の前で何度も射精して果てた。
勿論、そんな状況は実際には起こっていないのだが、熱と悪夢にうなされ続けた後で目覚めると、ベッドは酷い有様になっていた。
夢精をしたにしては、汚れ方というか量が多すぎる気がする。
無意識下で自慰行為を繰り返していたとすれば、僕の壊れ方は深刻だ。
こんな状態で日本に戻っても、無事に社会復帰できるのか不安になる。
体を拭いて着替え、シーツを全て交換しても、オスの臭いが残っているような気がした。
ようやくベッドから起きられるようになると、机の上には黒井君から僕の体調が戻るまで帰国計画は中止するというメモが残されていた。
その件を女子のみんなに伝えると、倉田さんと道上さんからは咎めるような視線を向けられてしまった。
折角、帰国する目途が立ったのに、僕のせいで延期になれば文句を言いたくなるのも当然だろう。
ましてや、正当防衛ということになっているが、羽田君の命を奪ったのは確かなのだ。
倉田さん達の冷たい視線に少し凹みながら部屋に戻り、体調を整えるためにベッドに潜ったが眠るのが恐ろしかった。
また悪夢にうなされて寝巻きやベッドを汚してしまうのではないかと恐れを抱くと同時に、またあの強烈な快感を味わえるのではないかと期待している自分がいた。
幸い、その晩は淫夢に取り憑かれることもなく、朝までぐっすりと眠れた。
そして、朝食の時に倉田さんと道上さんから謝罪された。
「那珂川君、ごめんなさい。私、自分達ばかり酷い目に遭った気になっちゃってて、那珂川君も酷い目に遭っていたことを思いやれなかった。本当にごめんなさい」
「ううん、僕のせいで帰国が遅れてしまっているんだから、攻められても仕方ないよ。でも、なるべく早く全員が帰れるように黒井君に頼んでみるから、もう少しだけ待ってほしい」
「分かった、那珂川君も無理しないでね」
なんだか倉田さんと話が噛み合っていないような気がするのと、同情するような視線を向けられてしまって居心地の悪さを感じてしまった。
部屋に戻ると、黒井君からの手紙が届いていた。
「えっ、今夜? って、女子は四人一度?」
手紙には、帰国計画の変更が書かれていた。
僕の帰国は今夜で、日本の状況が落ち着いた所で女子四人は一度に帰国させるらしい。
こっちの連中には、僕は羽田君を殺してしまったことを苦にしての失踪と思わせておけば、女子への監視の目も厳しくならずに済むというのが黒井君の予想のようだ。
確かに、僕が姿を消せば屋敷の者は不審に思うだろうが、羽田君の一件を絡めれば誤魔化せる可能性は高くなる。
屋敷の者から何を聞かれても、知らないと答えるか、自殺しないか心配だから探してくれと言えば納得するだろう。
問題は、女子四人が一度に帰国する件だが、倉田さん達に確認すると、むしろ一人ずつよりも一度の方が良いと言われた。
黒井君が出してきた条件についても、全員が同意してくれた。
それと、帰国出来ると分かったからなのか、坂口さんに生気が戻ってきていた。
これまでは世捨て人というか、周囲の何事にも興味を示さず廃人に近い印象だったが、生きる気力が感じられるようになった。
女子にとっては本当に辛い体験だったから、乗り越えて前に進む希望を持ってくれたのは嬉しい。
女子との打ち合わせを終えて部屋に戻ると、急に日本に戻れるのだという実感が湧いてきた。
黒井君曰く、こちらの世界と地球では微妙に時間差があるらしく、帰還地点に予定している光が丘公園が真夜中になるタイミングで作戦を決行するそうだ。
食事やトイレの時間以外は、極力部屋にいるように手紙には書かれていた。
どのタイミングか分からないが、ここでの食事もあと二食、ここでの生活もあと十数時間なのだろう。
日本に戻ったら、警察の事情聴取を受けて……と、そこまで考えた時になって、羽田君を殺した事を思い出して少し笑ってしまった。
自分でも驚くほど罪悪感が薄い。
あんな口の軽い迂闊な人間を日本に帰してしまったら、僕や女子の四人、それに黒井君は多大な迷惑を被っただろう。
だから、羽田君を殺したのは正しかったと今でも思っている。
羽田君に関して問題があるとすれば、帰国した後で警察に事情聴取される時に、ちゃんと申し訳なさそうな表情を出来るか心配だ。
僕は良い仕事したでしょう……みたいな表情をしていたら、警察の印象が悪くなりそうだ。
落ち着かない気分で昼食を食べ、傷口の薬や包帯を替えてもらい、夕食を食べ、そして黒井君が迎えに来た。
「いくぞ、那珂川」
「ちょっと待って、探さないで下さいって書き置きをしておく」
「早くしろよ……」
日記代わりに紙を綴ったものに、探さないで下さいと走り書きをしておく。
「もういいのか?」
「うん、よろしく頼むね」
前回と同じく何も無い場所にドアが開き、黒井君のアイテムボックスの中へと入る。
アイテムボックスの中にはLEDのランタンが灯されていた。
「日本に飛ぶから窓は閉めるぞ」
黒井君のアイテムボックスには、外の様子を眺められる窓が付いている。
日本に転移するには、窓を閉じる必要があるらしい。
窓が閉じられて、LEDランタンの明かりを残してアイテムボックスの内側が真っ暗になり、次の瞬間急に明るくなった。
窓の外には、見慣れた光が丘公園の芝生広場が広がっている。
「帰ってきた……」
「ちょっと待て、人が居ないのを確かめた後だ」
黒井君はアイテムボックスの周囲三百六十度を窓にして、人に見られていないか確認していた。
芝生広場の周囲には街灯が灯っているが、人の姿は見当たらない。
「いいだろう、後は上手くやれよ」
「うん、ありがとう。いつか、この恩は返すよ」
「だったら、魔法が使えるか検証を続けてくれ」
「分かった、じゃあ……またね」
「あぁ、またな」
黒井君が開けたドアから、芝生広場へと踏み出した。
直後に後ろを振り返ってみたが、そこには公園の風景が広がっているだけだった。
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