第46話 マジモブ、己の分を知る

※今回はヤンキーグループの一員、大石和真目線の話になります。


 俺の名前は大石和真、地元の中学では周囲から恐れられる存在だったが、高校に入ったら上には上がいると思い知らされてしまった。

 徳田秀紀を見た途端、こいつには敵わないと直観的に思ってしまったのだ。


 ガチで総合格闘技をやっている徳田と、不良の間でお山の大将やってた俺とでは、体の鍛え方も違えば、実力は天と地、ただ存在しているだけで雰囲気がまるで違っていた。

 人間としての器の大きさも、俺と徳田では桁違いだった。


 ツルんでいても、口煩い先公のように文句も言わなければ、金や使い走りを要求することも無い。

 要求されるのは、ダサい真似だけはするな……それだけだ。


 徳田自身が弱い者イジメをしないように、俺達にもイジメに加担するなと言う。

 犯罪だとか、校則違反だからではなく、イジメはダサくて格好悪いからだ。


 最初はイジめの標的がいなければ退屈しそうだとか、周りの連中にナメられそうだとか思っていたが、そもそも徳田をナメる奴など一人もいない。

 まるで漫画に出て来る最強キャラのように、徳田はそこにいるだけで周囲を威圧する。


 徳田の周囲にいる俺達も、当然ナメられたりしないし、標的をイジめていた時のように軽蔑するような視線を向けられなくなった。

 これは思っていたよりも心地良く、俺以外の徳田とツルんでいる連中も同じように感じていたようだ。


 ただ、徳田みたいなスペシャルな存在に比べたら、所詮俺達はモブなのだと認めさせられてしまったのは少々悔しかった。

 もし生まれ変われるならば、次はガチで鍛えて徳田を越えるような存在になってやる……なんて考えていた時に、異世界召喚に巻き込まれた。


 これまでの自分とは違う存在に生まれ変わる絶好のチャンスだったが、俺が突然の事態に面食らっている間に、いきなり徳田を飛び越えてみせた奴がいた。

 オタクなデブにしか見えなかった桂木才蔵は、自分の趣味の知識をフル活用して強力な火炎系魔法使いへと生まれ変わってみせた。


 現地の兵士が恐れを抱く膨大な魔力と強力な魔法は、あの徳田でさえも一目置かざるを得ないほどだった。

 それに比べて俺は、クラスのみんなが軒並み千メーテを越える魔力量であったのに、ひとりだけ七百五十メーテで、属性も攻撃力の高い火ではなく水だった。


 なんで俺はこんなしょぼい魔力しか与えられないのかと最初は妬んだりもしたが、すぐに桂木への見方を変えた。

 飛び抜けた才能を発揮する連中は、徳田にしても桂木にしても物事にのめり込む度合いが一般人とは懸け離れている。


 魔法を使うというという未知の行動について道筋を示してくれて、徳田も一目置き、俺達にも恩恵を与えてくれるならば拒絶する理由は無い。

 今回の実戦訓練に関しても、桂木はこっちの兵士たちから情報を入手して、入念に下準備を重ねてきた。


 森に生えている木の種類、山の傾斜、走破する距離、遭遇する魔物、毒を持つ生物や虫の有無、現地で容易に手に入る物、持っていく必要のある物など、桂木のリサーチは詳細に及んだ。

 その上で、万全の状態で踏破できるように厳しい訓練を行った。


 桂木の訓練は容赦が無いが、最も訓練に向いていないと思われていた桂木自身が、それこそゲロを吐きながらでも率先して行うのだから、甘ったれた反発は出来ない。

 なにしろ、目的は俺達が生き残ることなのだから。


 そして、今回の実戦訓練で桂木がキーマンに指名したのが俺だった。

 補給が期待できない場所において、水の確保は何よりも重要だからだ。


 俺ともう一人の水属性、鹿島初美は行軍中の身の安全と魔力の温存を命じられた。


「カズマとハツミを隊列の中央に置く。水は生命線だからね。二人は極力戦闘には参加しないで良いけど、ヤバいと思った時には躊躇わず攻撃に参加して。判断に迷うようなら、僕かヒデキが指示を出すよ」


 飲み水は勿論、手や顔を洗ったり、手ぬぐいを絞って体を拭いたり、水の役割は重要だ。

 その確保を荷うのだと言われて、自分でも単純だが嬉しいと感じてしまった。


 こんな俺でも特別な役割を果たせるのだと、誇りにさえ思えてしまった。

 厳しい行軍になると思われた実戦訓練だが、想定しているより楽だと感じた。


 地図と方位磁石を手に、桂木は徳田と共に慎重にルートを選び、思っていたよりも緩いペースで進んだ。


「初日は足慣らしだよ。これまで僕らは平坦な場所でしか訓練をしてこなかった。それなりに厳しい訓練はしたつもりだけど、平らな場所と山歩きでは疲労の度合いが違うからね。明日からは少しペースを上げるけど、キツと思ったら遠慮しないで言ってほしい。疲れ果てて動けなくなった所で魔物に襲われるなんて考えたくないからね」

「サイゾーの言う通りだ、体調の悪い奴は遠慮しないで言ってくれ」


 普段は鬼のように厳しい桂木と徳田が、こうしてメンバー全員に気を配ってくれているのは有難い。

 普段の厳しさは、こうした実戦を乗り越えるためなのだと改めて認識させられた。


 それにしても、桂木という男は底知れない。

 今日の行軍の途中、三頭のゴブリンと遭遇したのだが、僕が片付けると言って桂木がアッサリと倒してしまった。


 まぁ、ゴブリン程度なら……と思うかもしれないが、倒した魔法がえげつないのだ。

 ピストルのように指を突き出して構えた桂木が撃ち出したのは、小さな火花にしか見えなかった。


 三発ともゴブリンの腹に命中させたのは流石だとは思ったが、驚いたのはその後だった。


「ブレイク!」


 そう桂木が唱えた途端、ゴブリンの体が爆散した。


「強力に圧縮した炎の魔力を撃ち込んで、後から解放してみたんだけど、結構使えそうだな」


 事も無げに呟く桂木を見て、心底敵に回さなくて良かったと思った。

 いくらオタクだからといって、想像する魔法が俺達とは違い過ぎるし、それを実現させてしまう手腕は恐ろしいの一言だ。


 今回の訓練も、桂木の下準備のおかげで上手く乗り切れそうだし、この調子なら邪竜とかいうのもアッサリ倒してしまいそうだ。

 日頃厳しい訓練をしている俺達に比べて、宇田達のグループはぬるい訓練をやっているようだが、今頃泣きを入れてるんじゃなかろうか。


 まぁ、そんなのは知ったことじゃねぇし、何なら女子だけ引き取って性欲処理の道具に使ってやるぜ。

 訓練が終わった後、奴らがどんな顔をしているか楽しみだ。

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