第45話 ゲスモブ、夜の森で聞き耳を立てる
休憩を挟みつつ、空が茜色に染まるまで歩き続けたリア充グループの面々は、天幕の設営に四苦八苦していた。
奴らが担いできた天幕は五、六人が横になれるもので、当然その分だけ大型だ。
出発前に設営の予行演習はしていたようだが、森の中では満足に天幕を設営するための平らな場所を確保できない。
結局、二本の木の間にロープを張り、天幕の布地をタープのようにして使うことにしたようだ。
どうにか屋根は出来たが、壁も無ければ床も無い。
あちこちから灌木が生えているし木の根がゴツゴツとしていて、厚手の敷物を使っても寝心地は悪そうだ。
昼間、虫に刺されたところは治癒魔法を使える梶原が治していたが、虫よけの香炉が一つしかないから、治したそばから虫に刺されている状態だ。
虫除けの香炉を風上に置いて何とかしのごうと試みているが、あまり効果は無いようだ。
リア充グループを監視している兵士たちはどうしているかと見てみれば、木の幹と幹の間に張ったロープを支えとして、三角屋根の天幕を張っていた。
しかも、地面は土属性の兵士が魔法を使って均したようで、綺麗に平らになっている。
天幕の中に香炉を吊るして焚いているから、中には虫も入らず、ゆっくりと休めるという訳だ。
「やっぱり本職の兵士は違うな」
「そうだね。てか、この程度のことは教えればいいのに、性格悪すぎじゃない?」
「だよな。こいつらの都合で勝手に召喚されたんだから、最低限のレクチャーはするべきだろう。夜中に一人、二人ぶっ殺してやろうか」
「んー……それちゃっちゃうと、あいつらがギブした時に助けてもらえなくなりそうだよ」
「それもあるか、しゃーない生かしておいてやるか」
浄化魔法による精神への影響で、どの程度清夏が良い子キャラになったか確かめようと荒っぽい話をしてみたのだが、反応が微妙で判断がつかなかった。
とりあえず、そんなの絶対に駄目……みたいな潔癖になっていなかったので、今は良しとしておこう。
リア充グループを見張っている兵士たちは、天幕を設営し終えた後、周囲の木の間に細い紐を張り始めた。
何をしているのかと思ったら、張った紐に鳴子をぶら下げた。
魔物や獣の接近を知るための警報装置のようだ。
一方のリア充グループにはそんな備えも無く、やった事といえば穴を掘って焚火を始めたぐらいだ。
獣や魔物は火を恐れる……と思っているらしいが、実際のところはどうだか分からない。
ネットの知識では、地球の獣の中にも火を恐れないものはいるそうだ。
そうした連中にとっては、獲物がいると知らせる目印になるだけなのだが、吉と出るか凶と出るかは俺にも分からない。
「ねえ、善人、私たちはどこで眠るの?」
「そうだな……何かあった時に直ぐ動けるように、こいつらの近くにいた方が良いよな」
リア充グループが張った屋根だけの天幕の近くに、アイテムボックスでベッドルームを作って王宮から持ち出してきたマットレスを敷いた。
連中が携帯食と水だけで夕食を済ませるのを横目に見ながら、途中の街で買っておいたスープやパン、串焼きなどを食べる。
「うまっ、こっちの串焼きもいけるな」
「このスープも美味しいよ」
「ちょっと日本食が恋しくなる時もあるけど、こっちの世界の料理も結構いけるよな」
「うん、塩味だけじゃなくて、色々スパイスも使ってるから美味しいよね」
自分達がモソモソと携帯食を食べている横で、俺達がまともな食事をしていると知ったら、こいつらどんな反応をするのだろう。
食事を終えた宇田達は、焚火の番をする順番を決めて、残りの者は休むことにしたようだ。
休むといっても、ほぼ真っ暗闇の森の中で、地面に敷物一枚敷いただけの状態なので、グッスリと眠るという訳にはいかないようだ。
「ふわぁぁぁ……こいつら見ていても退屈だから寝ようぜ」
「でもさ、女子と男子で組になって焚火の番をするみたいだよ。恋バナとかで盛り上がって告白とかしちゃうかもよ」
「流石に、この状況じゃ無いだろう」
「そうかなぁ……」
「まぁ、覗いててもいいぞ。俺は明日の昼間も魔法を使わないといけないから寝るけど、清夏は運んでやるから昼間寝ててもいいし」
「んー……じゃあ、ちょっとだけ覗いてから寝る」
「んじゃ、何か役に立つ情報を聞いたら、明日教えてくれ」
「分かった、おやすみ善人」
「おやすみ」
清夏とキスを交わしてマットレスに横になった。
アイテムボックスの中も焚火の明かりしか入ってこないので、眠るには良い環境だ。
外の音は聞こえるようにしてあるので、目を閉じると夜の森の息遣いのようなものが伝わってくる。
遠くから聞こえる獣の吠える声や、木々の間から降ってくる鳥の声など、アイテムボックスの中にいるから楽しめるが、外にいたらさぞや不気味に感じるだろう。
森の雰囲気でも感じながら寝てしまおうと思ったのだが、外から聞こえてくる話し声が耳についた。
「今日は最悪だったな」
「ホント、琴音がいなかったら、まだ痛痒みに悶えてたと思う」
他に雑音の無い環境では、人の話し声がこれほど気になるとは思わなかった。
この実戦訓練に対する不満に始まり、日頃の待遇への愚痴は、こうしたシチュエーションでのお約束なのだろう。
「ねぇ、あたし達に邪竜の討伐なんて出来るのかな?」
「別にマジにやる必要なんか無いだろう。そんなの桂木とかに任せて、俺らは要領良く立ち回ればいいんだよ」
「だよねぇ、勝手に呼び出されて命懸けて戦う義理なんて無いもんね」
「そうそう、そういうのは魔法が使えるようになって調子こいてるオタクにやらせておけばいいんだよ」
誰が話しているのか分からないが、リア充グループの本音を聞いても別に腹は立たなかった。
そもそも、俺自身が好き勝手にやっているのだから、腹を立てる資格なんて無いと自覚している。
「ねぇ、本当に日本に帰れるのかな?」
「心配すんな、例え帰れなかったとしても、俺が守ってやるよ」
「絶対だよ……」
「あぁ、任せてとけ……」
話し声が甘ったるくなってきたところで、興味が失せたのか眠気が訪れた。
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