第39話 ヤンキー、オタクに戦慄する

※ 今回は徳田秀紀目線の話となります。


 力に対抗するには、自分も力を手に入れれば良い。

 俺が格闘技を始めた理由は、ウザ絡みしてくる兄貴達に対抗するためだった。


 男ばかりの三人兄弟の末っ子に生まれ、物心が付く前から兄貴達のオモチャにされていた。

 別に兄貴達は俺を嫌っていた訳ではなく、いわゆる好意の裏返しでイジっていただけなのだが、体の小さい俺にとってはイジメと同じだったのだ。


 そんな状況から抜け出すために、俺が選んだ道は打撃系総合格闘技だった。

 たまたま家の近所にジムがあり、そこにキッズコースがあったから入会したのだが、兄貴達にリベンジする目的を忘れ、すぐにその面白さの虜になった。


 練習すれば強くなる、それまで出来なかったことが出来るようになる。

 自分で言うのもなんだが、素質にも恵まれてメキメキと強くなった。


 中学に入る頃には体も大きくなり、ますます格闘技にのめり込み、兄貴へのリベンジとかは頭からすっかり抜け落ちていた。

 母親を除けば男ばかりの家で育ったのでガサツな性格だったが、好んで悪事を働いた事はない。


 むしろ、ジムのオーナーや先輩から、いくら体を鍛えようと刃物や銃には敵わないから調子こいてイキるなと注意され、それを守ってきたつもりだ。

 ただ、中学に入った頃には、こちらが望まなくてもヤンキー共に絡まれるようになってしまった。


 穏便に話し合い……なんて、ヤンキー相手には通じる訳もなく、ローキックかボディーブロー一発で沈めてから話し合いという形にならざるを得ない。

 その結果、いつの間にかヤンキー共のリーダーに祀り上げられてしまったのだ。


 迷惑な話だが、ヤンキー達と話をしてみると、みんな何かしらの事情を抱えていた。

 両親から育児放棄されたとか、母親がアルコール依存症だとか、太っているのを馬鹿にされキレたとか……中には下らないと思う話もあったが、当人には深刻な話だった。


 言ってみれば、理解してもらえなくて駄々をこねているようなもので、だからこそ理解してくれる者同士で寄せ集まっているのだ。

 寄せ集まっているから更に反感を買い、反感を買うから更に態度を硬化させる。


 みんな分かってはいるけど、引きどころが分からなくなっているのだ。

 そんな時に、異世界召喚に巻き込まれた。


 クラス中が混乱している中で、真っ先に動いたのがサイゾーだった。

 普段、オタクだと馬鹿にされていたサイゾーが、とんでもない威力の魔法を放ち、召喚した現地の王族すらもやり込めている姿は痛快だった。


 見た目は別にして、その行動は勇者と称されるものだったから、てっきり優等生グループの中心になるのだと思っていたら、サイゾーは俺に声を掛けてきた。

 しかも話を聞いてみると、マジでヤバイ奴だった。


 俺達の仲間内でも、時々危ない事を言い出す奴はいるが、サイゾーのヤバさは俺達とは異質だった。

 例えば、ヤンキー達が殺すぞ……なんて口にしても、イキがっているだけで実際にやる気は半分もないが、サイゾーは口にするよりも先に実行するタイプだ。


 頭のネジが一本飛んでいる感じで、味方にするのは危険だと感じる一方、魔法の威力を考えると敵に回す訳にもいかず、迷った末に手を組んだがすぐ後悔した。

 城から訓練場に移動した直後、舐めた口の利き方をした兵士を黒コゲにして殺してしまったのだ。


 確かに現地の人間の言動には目に余るものがあるが、交渉する為とはいえ迷わず人間を丸焦げにするなんてヤバすぎるだろう。

 だからと言って、サイゾーを孤立させれば、何をやらかすかわからない。


 ヤンキーらしく肩に手を回して話し掛けたが、声が震えるのを抑えるのが大変だった。

 一緒に行動するようになって分かったのだが、サイゾーは頭の回転が恐ろしいほど速く、状況の把握から行動の決定までに迷いが殆ど無い。


 俺も格闘技の試合ならば迷わず行動できるが、異世界召喚なんて想像を超える事態の中でサイゾーのように迷わずに行動する自信は無い。

 それはヤンキー仲間も同じのようで、サイゾーは必然的にグループの中心となった。


 訓練場で共に過ごす時間が増えて、ようやくサイゾーという人物が分かりかけてきた。

 どうやら異世界召喚という状況を利用して、思い切り楽しもうとしているらしい。


 兵士を殺したのも、自分達の立場を良くするために計算された行動だったようだ。

 実際、兵士達が敬意をもって接してくれば常識的な対応をしているし、当初感じたヤバさは薄れてきていたのだが、また認識を改めなきゃいけない事態になった。


 ずっと姿を晦ませていた黒井善人が姿を現し、城に残った連中を凌辱した兵士を殺したというのだ。

 それも、一人や二人ではなく十七人、そのうちの十三人は一度に殺したと平然と言い放ったのだ。


 いやいや、お前らおかしいだろう。

 こっちの世界だって人殺しは重罪だろうし、他人の命を奪っておいて、何で平然としていられるんだ。


 正真正銘の殺人鬼に体が震え、笑ってごまかすしかなかった。

 日本にいる頃には、オタクなんて……と心のどこかで馬鹿にしていたが、目の前にいる二人は人間の皮を被った化け物だ。


 手を切るべきだと分かっているが、二人の能力は邪竜を討伐するのに役に立つ。

 女王が言う日本への帰還なんて全くアテにならないが、それでも邪竜を倒さないとその先の生活の目途が立たない。


 サイゾーと黒井は、この世界で生き残るために力を貸してくれる悪魔のようだ。

 契約してしまった以上、活用するしかないのだが、いったいどれほどの代償を求められるのか、どうすれば回避できるのか……考えるほどに胃が痛くなってくる。


 いざとなれば刺し違えてでも仲間を守るしかないだろうが、果たして俺に出来るのだろうか……。

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