第38話 ゲスモブ、ヤンキーと顔を会わせる
「ヒデキ、ちょっといい?」
宿舎の部屋に戻ったサイゾーは、ヤンキー共と喋っていた徳田に声を掛けた。
すると徳田はヤンキ―から四人を選んで宿舎の周りを見張るように命じ、サイゾーと一緒に別室に向かった。
どうやら、そこはサイゾーと徳田が打ち合わせをするために使っている部屋らしく、四人掛けのテーブルには紙とペンとインク、それと灰皿が置かれていた。
紙やペンは考えをまとめるために使い、書いたメモは燃やしているようだ。
「それで、今度は何を企んでるんだ? サイゾー」
壁側の椅子にドッカリと腰を下ろした徳田は、期待に満ちた笑みを浮かべている。
「スパイを手に入れた」
「ははっ、どの兵士を手懐けたんだ?」
「兵士じゃない。こっちの人間は信用できないからね」
「こっちの人間じゃないとすると、城に残っていた連中の一人か?」
「半分当たり……いやぁ、僕も想像すらしてなかったんだよ」
「ほぅ、サイゾーの想像を越える奴か……面白そうだな」
「あぁ、俺達に欠けていた情報という部分を補ってくれる最高の味方だ」
「おぅ、それで……そいつはどこにいるんだ?」
「黒井、出て来てくれ」
テーブルを挟んで向かい合っているサイゾーと徳田の両方から見える位置でドアを開けた。
「サイゾー、こっちで話そうぜ、その方が分かりやすい」
「手前は黒井……どうなってやがる」
「まぁまぁ、ヒデキ、ちょっと入ってみてよ」
アイテムボックスの中は、丸テーブルと椅子三脚の形に作り変えてある。
それを見たサイゾーがニヤリと口許を緩めた。
徳田は椅子に腰を下ろした後、しげしげとアイテムボックスの内側を眺めている。
「どうなってんだ?」
「ここは、黒井が作ったアイテムボックスの中で、外とは別次元の空間なんだ。そこの窓から外の様子は見られるし、音も聞こえる。でも、こちら側の話は聞かれないし、姿も見られずに済む……だよね?」
「だいたい合ってるけど、こんな事もできるんだぜ」
サイゾーと徳田を座らせたままアイテムボックスを移動させ、壁抜けして宿舎の外へとでた。
「な、なんだこりゃぁ!」
「すっげぇな、黒井。壁抜けとか凄すぎるだろう」
「他にも出来ることはあるけど、サイゾーの魔法と同様に全部説明しているとキリがなくなる」
アイテムボックスを元の場所へと移動させ、話を再開した。
「なるほどな……この能力を使って敵の情報を盗んでくる訳か」
徳田は二度、三度と頷いて納得したようだったが、直後に俺に向けてきた視線は味方に向けられるものとは思えない鋭さを含んでいた。
「それで、手前は一人だけ高みの見物を決め込んでた訳か?」
「まぁ、そうだ……最初は掃除道具を入れるロッカー程度の大きさしか作れなかったからな」
「なんで隠れた?」
「異世界召喚は、イージーモードとハードモードの二つのパターンがあるっていうのは、オタクの間では常識だからだ」
俺の言葉を引き取って、サイゾーが召喚直後の自分の行動も合わせて説明を付け足した。
「……という感じで僕は魔法の威力を使い、黒井は情報戦で相手をコントロールすることを選んだって訳だよ」
「なるほどな……それで、向こうに残った連中はどうなってんだ?」
「女も男もオナホ扱いだった」
「何だと! 手前、それを見て見ぬふりしてたのか!」
徳田が俺に掴み掛かってこうとするのをサイゾーが間に入って止めた。
「落ち着いてよ、ヒデキ。この前、宇田達が兵士と揉めてたじゃん」
「それがどうした?」
「黒井がやったそうだよ……」
激昂していた徳田が動きを止め、俺に暗い視線を向けた後で問い掛けてきた。
「何人だ?」
「最初に三人、警告のために一人、警告に従わなかったから十三人、全部で十七人だ」
「一度に一人で十三人だと……どうやった?」
「簡単さ、この中から小さな窓を開けて……包丁で喉笛をサクっとな」
「ははっ、イカれてやがる……手前もサイゾーも最高にイカれてやがるぜ」
座り直した徳田は背もたれに体を預け、右手で顔を覆いながら笑い転げた。
「いいな、黒井。オタクを舐めてたけど、サイゾーもお前もいい感じでイカれてやがる。いいぜ、手を組もうぜ」
「異議無しだ」
徳田と握手を交わしたのだが、サイゾーと同様に俺も顔を顰めることになった。
握力強すぎるんだよ、脳筋ヤンキーは……。
「そんで、これからどう動くんだ?」
「黒井には、引き続き女王達の動きを探ってもらう」
「てかよ、この力を使えば女王殺せるんじゃねぇの?」
「殺せるぜ、でも簡単に殺したらつまらないだろう。利用して、利用して、利用して……他に利用できる奴を見つけてから、徹底的に追い込んで殺さなきゃ面白くねぇ」
「くっくっくっ……マジでイカれてやがる。でも、その通りだな」
この後、王弟バルダザーレの企みや実戦訓練の時の俺達の対応などについて話し合った。
「サイゾー、竜をぶっ殺した後はクーデターに加担すんのか?」
「それはバルダザーレって奴に会ってみてからかな。僕らを都合の良い道具だと思ってるなら相応の対応をしなきゃいけないし、僕らが都合よく利用できる相手なら使わない手はないよね」
「全ては、情報次第か……頼むぜ、黒井」
「あぁ、どこへだって探りに行くぜ」
打ち合わせを終えて、サイゾーと徳田は宿舎へと戻った。
無事に受け入れられたようだが、掴み掛かられた時にはちょっとビビった。
まぁ、アイテムボックスの有用性を徳田も理解したようだし、周囲が敵だらけの状況で俺まで敵に回すことはないだろう。
俺は清夏と合流した後で、サイゾーの要望に応えて城の兵士の動きを探りに出掛けた。
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