第36話 ゲスモブ、リア充に呆れる

 翌日も、騎士団で朝食をパクった後で、訓練場へと移動した。

 今日はリア充グループの訓練を見るために訪れたのだが、肝心の宇田達の姿が無い。


 既に訓練場では、サイゾー達が魔法の練習を始めている。

 昨日の続きらしく、ゆっくりと時間を掛けて確実に発動させるところからやっている。


 いずれ素早く発動させる練習もするらしいが、まずは確実に、そしてより鋭くするのが目的のようだ。

 徳田の魔法も上達していて、昨日は着弾と同時に朦々と土煙が舞っていたが、今日は直線が刻み込まれるだけだ。


 見た目の派手さは減っているが、威力とすれば今日の方が確実に上だろう。

 宇田達が訓練場に姿を見せたのは、サイゾー達が応用の練習に入ってからだった。


 サイゾー達が魔法の訓練をおこなっている時には、リア充グループは武術、体術の訓練という感じに訓練場を使い分けているようだ。


「なんかさ……部活の合宿って感じじゃない?」

「それもユルい同好会って感じだな」


 ダラダラと喋りながらジョギングして、適当な素振り、防具を付けての模擬戦もチャンバラみたいな感じだ。


「昨日は桂木を魔王とか言っちゃったけど、これを見たら切り捨てたくなるのも分るかも」

「だよなぁ……てか、こんなんで実戦とか出たら死ぬだろう」

「でも、中には真面目にやってるのいるみたいじゃん」

「あぁ、木島か。あいつは危機感あるみたいだな」


 リア充グループは、男子が七人、女子が六人で、二人一組になって模擬戦をすると一人余る。

 余った一人が木島正明で、確か部活には入っていなかったはずだ。


 木島は少し離れたところで、一心不乱に剣を振っていた。

 左手に付けた盾で受ける動作をした後、片手剣で斬る、突く、払うといった動作を繰り返している。


「あれは、人間を想定した動きじゃないな」

「あぁ、なるほど……だから上向いてやってるんだ」


 木島の視線は、正面に回り込んだ俺達の頭の上に向けられている。

 たぶん、竜の大きさを想定しながら訓練を行っているのだろう。


「なんか、浮いてそうだよね」

「だな……てか、サイゾー達のグループに入れてもらえばいいのに」

「でも、あっちはあっちでクセの強いのが揃ってるじゃん」

「そっか、俺も能力がアイテムボックスじゃなかったら、木島と同じになってたかもしれないなぁ……」

「えぇぇ……善人は桂木とツートップ張ってたと思うよ」

「あぁ、その可能性もあるな」


 結局、リア充はダラダラと時間を過ごしただけで午前の訓練を終えてしまった。

 訓練が終わると、リア充グループの面々は木島の所に集まってきた。


 何事かと思ったら、木島は氷属性の魔法が使えるようで、周囲の温度を下げるようにリクエストされたようだ。

 そのまま全員で涼んだ後、昼食を食べに宿舎へと戻っていく。


 一方、魔法の訓練場から引き上げてきたサイゾー達のグループは、全員グッタリとしているように見えた。

 サイゾー曰く、魔力の最後の一滴まで絞り出すような訓練をしないと、ギリギリの場面では戦えないそうだ。


 てか、まだ一度も実戦に出てないけどな。

 それでも、格闘技の試合に出ている徳田が納得すればグループの方針になるのだろう。


 昼食後、サイゾー達は早々に訓練を始めるのかと思ったが、全員揃って宿舎に戻って仮眠を取り始めた。

 ダラダラ喋っている者は見当たらず、全員が寝息を立てている。


 徳田が統率しているのもあるのだろうが、それだけ訓練が厳しいのだろう。

 一方のリア充グループは、食堂に居座って喋り続けていた。


 木島だけが、少し離れた席でテーブルに突っ伏して眠っている。

 こんなに浮いているぐらいなら、サイゾー達のグループに入った方が生存確率は上がりそうな気がするのだが……。


「あたし、分っちゃったかも」

「なにが?」

「木島が、こっちのグループにいる理由」

「えっ、マジで?」

「こっちのグループに好きな女子がいるんだよ」

「あぁ、それはありそうだな」

「ありそうじゃなくて、確実だよ。食事の最中に、チラチラと女子のテーブルに視線を向けてたもん」

「なるほど……自分を盾にしてでも好きな女は守る……みたいな?」

「そうそう、絶対にそうだよ」


 清夏に言われて改めて木島を観察してみると、テーブルに伏せて眠っているかと思いきや、時々薄目を開けて女子のテーブルを見詰めていた。

 片思いの女子がいるのなら、実戦の時に離れないように同じグループに所属する気持ちは理解できる。


「ねぇねぇ、誰だと思う?」

「誰って、木島の片思いしてる相手か?」

「そうそう、あの感じからして木島から顔が見える子だよね?」

「だとすると、宮間、梶原、藤井か……」

「あたしは、梶原だと思うな。木島みたいに大人しいタイプは、梶原みたいな活発なタイプに惹かれると思う」

「俺は無難に宮間だと思うな。ルックスだけなら一番だろう」

「まぁ、男受けするタイプではあるよねぇ……あたしが選ぶなら紗千一択だけどね」

「紗千って、藤井? なんで?」

「だって男前じゃん」

「男前って……でも、確かにそんな感じだな」


 藤井紗千は、バレーボール部に所属している背の高い女子だ。

 スレンダーな体型で、髪の毛もベリーショートだから宝塚の男役みたいな雰囲気がある。


「案外、藤井なのかもな」

「うん、可能性はあるね」


 結局、片思いの相手が誰なのかは分らなかったが、午後の魔法の訓練でも木島は黙々と練習を重ねていた。

 ただし、グル―プ全体の練習風景をみると、派手にぶっ放すだけで、サイゾー達のような目的意識は感じられなかった。


 こんな感じならば、切り捨てようとするサイゾー考えに賛同するしかない。

 助けるのは、治癒魔法が使える梶原と見どころのある木島だけで良い気がしてきた。

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