第35話 ゲスモブ、騎士団にパクりに行く

「桂木のやつ、もう完全に魔王じゃん」


 サイゾーとの情報交換を終え、城へと戻った後で実戦訓練でリア充切り捨て作戦を話すと、清夏は憤慨してみせた。

 召喚された直後の清夏だったら、ここまで反対しなかったような気がする。


 やっぱり、浄化が精神面にも影響を及ぼしているのだろうか。

 このまま浄化を続けたら、聖女様なんて呼ばれそうな性格になるんじゃなかろうか。


「でも、俺も清夏を助けた時、他の連中を見捨てたんだぜ」

「それは……私以外を助ける余裕が無かったからじゃん」

「そうだけど、他の連中が凌辱されているのを見ても助けずに、浄化が使える清夏を選んで助けたんだぞ」

「それは、そうかもしれないけど……」


 清夏にしてみれば、自分を助けた俺を非難したくないのだろうが、計画しただけで実行していないサイゾーに比べて俺は実行までしている。

 サイゾーが魔王だとすれば、俺もまた魔王なのだ。


「まぁ、俺がゲスなのは自覚してるし、あの件に関して清夏に罪は無いから気にするな」

「気にするよ! だって、私を助けるために善人に人殺しまでさせちゃってるんだよ。気にしないなんて無理だよ」

「兵士を殺したのも、俺の判断だからな。清夏が罪の意識なんて感じる必要は無いぞ。てか、あんなゲス共を殺したって罪悪感なんか覚える必要なんかねぇよ。だろ?」

「そう……かも、うん、そうだね」


 一応、納得したような顔をしているが、実際のところは俺を気遣って納得したフリをしているようだ。


「ねぇ、善人。宇田達の訓練の様子も見ておいた方が良くない?」

「あぁ、それは俺も思った。どの程度の実力なんだか見ておかないと、実戦訓練のフォローなんかできないからな」

「桂木は、宇田達はダメダメだって言ってたんでしょ?」

「まぁ、サイゾー達がヘトヘトになるまで訓練やってるのに、先に上がって休んでいるのを見ても駄目なのは想像できるけどな」


 俺達の目から見ても、サイゾー達の訓練は鬼気迫るものがあった。

 部屋に戻ってからの様子しか見ていないが、宇田達があれと同等の訓練を積んでいるようには思えない。


「なんつーか、危機感足りないよな」

「うん、でも召喚される前は、ごく普通の高校生だったから、サイゾー達みたいに厳しく訓練に取り組める方がおかしいと思うけど」

「まぁな……でも、やらないで困るのも、痛い思いをするのも自分達なんだぜ」

「そうだけど、実感湧かないんじゃないの?」

「そうなんだろうな」


 邪竜を討伐してくれ……なんて頼まれたって、実際に竜を見たこともないし、その力がどれほどのものなのかも知らない。

 実感が伴わないのも当然だろうし、訓練に身が入らないのも当然だろう。


「ねぇ、善人。包帯とか添木とか、寝かせる布団とか用意しておいた方が良くない?」

「そうだな……パクりに行くか」


 瞬間移動と同様に、外部を見える窓を小さくするほどアイテムボックスの容積が増やせた。

 サイゾーには教室一個分と言っておいたが、実際にはその倍近い容積を確保している。


 物を入れておくだけならば窓を付ける必要はないし、時間の観念からも切り離してしまえば物を腐らせずに保管できるかもと思いついた。

 暖かいお茶を密閉するアイテムボックスに入れて実験してみたら、丸一日たっても冷めていなかった。


 食材とかも保管できるはずだが、今のところは自分達で料理するのが面倒なので、そのまま食べられる果物やパンしか保管していない。


「てか、医務室ってどこなんだ?」

「城よりも兵士のいる方が良いんじゃない? 怪我とか多そうだし」

「そうだな」


 騎士団らしき建物へ行ってみると医務室があったが、現代日本のような設備は当然無い。


「一応、薬も存在してるんだな」

「でも、学校の保健室程度じゃない?」

「包帯だけは一杯あるけど、消毒薬も無いのか」

「そこは、あたしがクリーンしちゃえば大丈夫でしょ」

「おぉ、それもそうか。怪我した直後ならば清夏が浄化して、血止めの薬でも塗って包帯巻いておけば応急処置にはなるのか」


 一度に複数の怪我人が出たら、梶原の治癒魔法がどの程度なのか知らないが、治療が追い付かなくなる可能性がある。

 やるだけやって助からないなら仕方がないのだろうが、できれば知り合いが死ぬのは見たくない。


 とりあえず、包帯と血止めのポーションを棚の後ろ側からゴソっといただいておいた。


「これだけあれば足りるんじゃね? 包帯は浄化しておいてくれ」

「オッケー、クリーン!」


 浄化を終えた包帯と血止めのポーションは、密閉するアイテムボックスに入れておいた。

 医務室を物色していたら、日が暮れて夕食の時間になっていた。


 ついでなので、騎士団の食堂で夕食もパクらせてもらった。


「見て見て、善人。肉だよ、肉、肉!」

「おぉ、体が資本の仕事だし、騎士団だから金あるんだろうな」


 肉も、スープも大量に作っていたので、調理人の目を盗んでパクった。


「おぅ、結構いけるじゃん」

「騎士とか兵士は汗かくから、味付けが濃い目なんじゃない?」

「あぁ、言えてる。このぐらいの味付けの方が俺はいいな」

「あたしも!」


 城の食事も悪くはないが、騎士団の味付けの方が俺達には合っている。

 それに、がっつり肉も食えそうだから、これからはちょいちょい利用させてもらおう。


「てか、あんまり食うと太……」

「何か言った?」

「いえ、何でも……」

「善人だって、大きい方が好きでしょ?」


 清夏が胸の膨らみをグッと寄せて強調してみせるが、脱いだ時に脇腹が……いや黙っておこう。

 ご機嫌を損ねると、色々とサービスしてくれなくなりそうだからな。

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