第32話 ゲスモブ、王弟を探る(後編)
女王アルフェーリアの弟バルダザーレは、翌日の午後には城に残っていた六人のクラスメイトを自分の屋敷へと移送させた。
屋敷の敷地内にある、離れの建物をクラスメイトの宿舎として使うようだ。
離れには十以上の部屋があり、食堂にリビング、遊戯場、大きな風呂場も二つある豪華な造りになっていた。
首輪を外されたクラスメイト達は、それぞれに割り振られた部屋で用意された上質な衣服に着替え、リビングへと集められた。
リビングは手入れの行き届いた庭園に面していて日当たりが良く、十人ほどが集まれるソファーセットが三組置かれている。
クラスメイト達は長テーブルの両側に三人ずつ腰を下ろし、いわゆるお誕生日席にバルダザーレが座った。
これまでの奴隷のごとき扱いから、いきなり賓客扱いを受けて戸惑っているクラスメイト達に、バルダザーレは深々と頭を下げてから話し始めた。
「私は女王アルフェーリアの弟、バルダザーレと申す。まずは、これまでの非礼を詫びさせてもらう、誠に申し訳なかった」
「ふざけんなよ、謝って済むような……」
近くに座っていた羽田尚人が食って掛かろうとしたが、バルダザーレに一睨みされて手で制せられただけで黙らされてしまった。
ただの高校生と一国の王族とでは醸し出す雰囲気が違い過ぎる。
「不満は多々あると思うが、まずは私の話を聞いてもらいたい」
バルダザーレの口調は丁寧だが、有無を言わさぬ迫力がある。
それに、バルダザーレの後ろに控えている兵士が、いつでも抜けるように剣の柄を握って剣呑な目つきをしている。
「私が貴方達の存在を知ったのは、先日宿舎で多くの兵士が殺されたと聞いてからだ。我が国は邪竜の存在に手を焼いているが、まさか姉アルフェーリアが他世界からの召喚などに頼っていたとは思ってもみなかった。更には、召喚した貴方達に奴隷のごとき仕打ちを行っていたとは……身内といえども許される所業ではない」
勿論、バルダザーレの言葉は真っ赤な嘘だ。
清夏を救い出した翌日、俺達は女王とバルダザーレが面談している場面を目撃している。
そこでの会話でバルダザーレは、召喚についても城に残ったクラスメイト達の扱いについても知っていたし、腹を立てている様子も無かった。
「貴方達の存在を知り、すぐにでも助け出したかったのだが、この国の王は絶大なる権力を持っている。例え実の弟であっても、王の意向に逆らって何かをするのは本当に大変なのだ。ようやく貴方達の身柄を移せたが、安心はしないでもらいたい。この屋敷中ならば大丈夫だが、一歩敷地の外に出れば女王の目が光っていると思ってくれ」
「あの……他の人達と連絡を取るのは?」
話が途切れたタイミングで道上奈々が質問したが、バルダザーレは首を横に振ってみせた。
「今は難しい。貴方達と訓練場にいる人達を危険に晒す事になる。姉は非常に疑り深い性格で、反逆の可能性があると見極めれば処分も辞さないだろう」
「処分って言っても、みんな凄い魔力を持っているから簡単には出来ないのでは?」
「簡単では無いだろうが、どんなに強力な魔法が使えても、休息無しで戦い続けることは不可能だ。一人一人の力が凄かろうが、十倍の人数の敵と戦うのは容易ではない。こちらも大きな損害を出すだろうが、貴方達の仲間も無傷では済まないだろう。なかには命を落とす人も出るだろう。私としては、なるべく無益な流血は避けたいのだ」
確かに、サイゾー達の魔法は凄い威力だが、十倍の数の兵士を退けるのは楽ではないはずだ。
「貴方達の仲間は、ここから遠く離れた訓練施設にいる。もともと兵士を訓練する為の場所で、多くの兵士が駐留している。それらの兵士の目的は、訓練と同時に貴方達の仲間の監視だ。最初から包囲された状況で反乱を起こせば、被害は甚大だろうし、この屋敷も無事では済まないだろう」
訓練場のクラスメイトはまだしも、この屋敷が女王の軍勢に囲まれるとは思えない。
あくまでも、自分は味方であり、同じ危ない橋を渡っているのだと思い込ませたいのだろう。
「貴方達には、もう暫くの間は不自由な生活を強いることになるが、可能な限り要望には応えていきたいと思っている。ここまでで、何か質問はあるかね?」
バルダザーレの問い掛けに手を挙げたのは、クラスで一番の秀才、那珂川だった。
地下牢を覗いた時には、かなりヤバい感じだったが、どうやら回復したらしく理性的な目に戻っていた。
「我々が被った損害に対して、この国はどんな謝罪と賠償をしてくれるのですか?」
「申し訳ないが、今の時点では期待しないでくれ」
「今の時点ということは、状況が変わる可能性もある……ということですか?」
「先程も言ったが、この国では王の権力は絶大だ。それ故に、王位にある者がその座を譲る可能性は非常に低い」
「可能性が低いということは……ゼロではないのですね?」
那珂川の意味ありげな言い回しに、バルダザーレはニヤリと笑みを浮かべてみせた。
「君はなかなか頭が切れるようだね。いずれ力を貸してもらうことになると思うが、今は馬鹿のフリをしていてもらえると有難い」
「そうですか……分かりました」
那珂川が、質問は終わりとばかりにソファーに深くもたれると、他のクラスメイトも顔を見合わせた後で口をつぐみ、バルダザーレとの会見は終了した。
「ねぇ、善人、あいつが嘘ついてるって教えなくてもいいの?」
「今、ここにいる連中に騒がれるよりも、静かにしているならば騙されていた方が良いだろう。扱いも悪く無さそうだし、下手に騒ぐと怪我人が出そうだ」
「それもそうか……サイゾーには?」
「そうだな、知らせておくか」
俺と清夏は、バルダザーレの屋敷を出て、サイゾー達がいる訓練場へ向けて移動を始めた。
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