第31話 ゲスモブ、王弟を探る(前編)

 クラスメイトの待遇が改善されたのを確認した後、厚化粧女王の様子を見に行くと、成金趣味の弟バルダザーレが訪ねて来ていた。

 女王アルフェーリアは、装飾の付いた金のネックレスというよりも、まるで防具のごとき首輪を嵌め、金ピカの鎧の胴金まで着こんでいた。


 おそらく、兵士達が殺された状況を聞き、自分の所にまで警告ともいうべき書面が届けられたことで警戒しているのだろう。

 部屋の中には、本式の鎧を着こんだ女性騎士が四人も控えている。


 まぁ、それでも俺が殺す気になれば、全員殺せるけどな。

 アルフェーリアとバルダザーレの話題は、訓練場にいるクラスメイトだった。


「じゃあ、近々ボルゲーゼの森で訓練をやらせて、その結果次第で竜に戦いを挑ませるのですな」

「そうだ、ここまで来たら引く訳にはいかぬ。竜を仕留めさせ、その後で油断した所で皆殺しにしてくれる」


 女王は苦いものでも吐き捨てるように、顔を歪めて言い放った。


「だが姉上、そのサイゾーとかいう奴の一派は相当強いのでしょう? 竜を倒せるほどの戦力を殺してしまうのは惜しくありませぬか?」

「意のままにならぬ巨大な力ほど危険なものはない。たとえば、奴らが元々こちらの世界に住む者で、家族や友人などを人質に取れるならば話は別だが、今の奴らには失うものは己らの命しかない」

「だったら、死にたくないと思わせる弱みを作れば良いのではありませぬか。家族がいないなら家族を持たせ、友人がいないなら友人を与えれば良いでしょう。竜殺しの軍勢がいるのといないのとでは、近隣の国への影響力も違ってきますぞ」


 どうやらバルダザーレはサイゾー達を高く買っているようで、処分しようとする女王の案には反対のようだ。


「姉上が不要というのであれば、私がそいつらを手懐けてみせましょう」

「奴らには勇者の務めを果たせば、元の世界に戻れると言ってあるのだぞ」

「そんなものは、伝承に偽りがあったとでも言っておけば良いでしょう。むしろ戻れないとなれば、我らを頼るしかなくなくなるから簡単に手懐けられますぞ」

「ふん、好きにするが良い。ただし、竜を仕留めてからだ」

「顔繋ぎぐらいはしても構いませんよね?」

「構わぬが……良いのか、姿を晒しても」

「今更でしょう。その空間魔導士なるものが存在しているならば、今この瞬間にも話を聞かれているのかもしれません。もはやコソコソする意味などありませんよ」


 バルダザーレは、舞台の役者のごとく仰々しく両手を広げてみせた。

 まさか、本当にアイテムボックスに潜んでいる俺達に気付いている訳ではないのだろうが、無駄に格好つけた仕草が鼻につく。


「善人、なんかあいつムカつく」

「同感だが……サイゾーが利用するに丁度良さそうな気もする」

「あぁ、それは何となく分る。類友って感じはするわね」

「それに、この女王って結婚していなそうだよな?」

「あぁ、そう言われればそうね」

「だとしたら、バルダザーレは王の座を狙ってるんじゃないのか? 表面上は仲良さそうに装っているけどさ」


 王家の内情など全く分からないが、アルフェーリアとバルダザーレが対立する構図となるならば利用する価値が出てくるかもしれない。


「でもさ、下手に権力争いとかに巻き込まれると、かえって面倒なことにならない?」

「それはあるかもしれないけど、現状でも十分面倒だからな」

「確かに……てか、竜を殺したら始末する気だって、サイゾーに伝えておいた方が良いんじゃない?」

「勿論伝えるけど、その程度のことはサイゾーは織り込み済みだと思うぞ」


 召喚された直後に火属性の攻撃魔法をぶっ放して、俺が異世界の主役だとばかりに振舞ってみせたのだから、当然リスクは考えているはずだ。

 そうでなければ、リア充グループでなくヤンキーの徳田と組んだりはしないだろう。


 サイゾーがバルダザーレと手を組むにしろ組まないにしろ、先にこうした人物がいるという情報は流しておいた方が良いだろう。

 クラスメイト達の扱いについて話した後、竜の素材について他愛も無い話をして、バルダザーレは暇を告げた。


「では姉上、屋敷で受け入れの準備が整い次第、迎えの馬車を差し向けます。人数は六人でよろしいのですな?」

「そうじゃ、そなたは詳しい話は聞いていない、身柄を預かるように言われたと答えておれば良い」

「心得ました。では一両日中に……」


 どうやら、兵士達に凌辱されていたクラスメイトをバルダザーレの屋敷に移すようだ。

 あのまま宿舎に置いたままにして、兵士が手出しすれば余計な騒ぎになり、自分の身も危うくなると思ったのだろう。


「善人、後を付けてみようよ」

「だな……」


 アルフェーリアの居室を出たバルダザーレは、完全武装した八人の騎士に護られた馬車へ乗り込み城を後にした。

 十人程がゆったりと座れそうなキャビンには、バルダザーレの他に執事らしき男しか乗っていない。


「まったく、いつまで経っても姉上は目先のことしか考えられぬ。竜を倒せるほどの戦力を処分するなど愚か者のすることだ」

「それで、旦那様はいかがいたすのですか?」

「姉上が不要だと申すなら貰い受けるだけだ。まぁ、いずれこの国も私が貰い受けるのだがな……」

「それまで、アルフェーリア様には国民の不満を一身に集めていただくのですね?」

「その通りだ。そうすれば、民は我が王位に就くことを諸手を挙げて喜ぶであろう」


 なるほど、バルダザーレは国民からの王家への不満を全てアルフェーリアに背負わせた上で、王位から蹴落とそうという魂胆のようだ。


「いいね、いいよ、いいよ」

「どこがよ。欲の皮が突っ張ったオッサンじゃない」

「だからだよ。利用して、利用して、利用し尽くしても全然心が痛まないで済むじゃん」

「あぁ、それは確かにそうね」


 アルフェーリアとバルダザーレに潰し合いをさせて、漁夫の利をサイゾーに拾わせるのは悪くない作戦だと思う。

 馬車が城の敷地を出てから三十分程走ると、月明りに照らされた大きな館が見えてきた。


 どうやら、ここが王弟バルダザーレの屋敷のようだ。

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