第28話 ゲスモブ、オタデブと接触する

 昼食の後も、サイゾーは黙々と訓練を続けていた。

 魔法の訓練を行っていた午前中とは打って変わって、午後は肉体を使った格闘戦のトレーニングだ。


 講師役はサイゾーから徳田に交代して、厳しいながらも合理的なトレーニングが行われている。

 当然ながらサイゾーの動きは他の連中に比べると鈍いのだが、それを笑ったり馬鹿にしたりする者は一人もいない。


 腕っぷしでは最弱でも、魔法を撃たせれば並ぶ者なき威力を発揮する。

 もし戦うことになれば、一撃で意識を刈り取るような攻撃を仕掛けられない限り、反撃の魔法で命を刈り取られる事になるのだ。


「ねぇ、なんか桂木、凄い馴染んでない?」

「魔法に関してのアドバンテージがあるから、一目置かれているんじゃないか?」

「あぁ、なるほど……」

「それに、サイゾーはコミュ力高いからな」


 オタクの関連の豊富な知識によって、SNSのフォロワーは十万を超えていたはずだ。

 何度かサイゾーのアカウントを覗いたことがあるが、交流の幅の広さに圧倒された覚えがある。


 逆に俺はコミュ力に関しては、まるで自信がない。

 自分で言うのも何だが、猜疑心の強い方なので交わる人間は限定している。


 今回コンタクトするのも、出来ればサイゾー一人に留めておきたい。

 徳田とか他の連中には存在を知られずに連絡を取りたいのだが、なかなかチャンスは訪れなかった。


 訓練を終え、水浴びで汗を流し終えたサイゾーが、宿舎の裏手に出てきたから声を掛けようとしたのだが、先に歩み寄った一団がいた。

 リア充グループの宇田達だ。


「おい、桂木!」

「ちゃんと用件伝えろよ、宇田ぁ!」

「セクハラ担当者は代えさせたからな!」

「手前、ちゃんと情報は聞き出したんだろうなぁ!」


 サイゾーも宇田も、喧嘩腰の日本語だ。


「当り前だ、向こうの連中ってのはクラスメイトじゃなくて、別の奴隷の事だってよぉ!」

「はぁぁ? 本当なんだろうな!」

「向こうに残った連中は、研修で別の街を回ってるってんだから本当だろうよ!」

「だったら、手前らも訓練に戻るんだな!」

「当り前だ! 戻るに決まってんだろう!」

「ちんたらやってっと死ぬぞ!」

「言われなくても分かってるよ!」

「女子にも体力付けさせろ!」

「手前らも怪我したら、すぐに言ってこいよ!」

「そん時は頼むからな!」

「あぁ、任せとけ!」


 サイゾーと宇田は、互いに挑発するようなポーズを取った後で別れた。


「ねぇ……なに、あれ?」

「さぁ? 対立しているように装ってるのか?」

「えっ、なんで?」

「分からないけど、優等生とヤンキーみたいな感じで、互いに要求をしやすくしてるのかもな」

「あぁ、なるほど……」


 宇田達と別れたサイゾーがトイレに用を足しに行った帰り、一人になったタイミングで声を掛けた。


「サイゾー……サイゾー……」

「ん……黒井か?」


 アイテムボックスに入ったまま、少しだけ隙間を開けて声を掛けたのに、サイゾーはさほど驚きもせずに俺の名を呼んだ。


「よく分かったな」

「オタクのお前がはしゃぎもせず、姿も見えなくなってたからな。透明化か?」

「いや、アイテムボックスだ」

「マジか……自分も入れるのかよ」

「まぁな、詳しい話は後にするとして、俺は今日まで城に残っていた。情報の擦り合わせがしたい」

「おぅ、異議なしだ。付いて来てくれ……」


 そう言うとサイゾーは、倉庫らしき建物の影へと入っていった。

 俺はアイテムボックスを分割して、片方に清夏を残して表に出た。


「引き締まったなぁ……別人みたいだぞ」

「当り前だろう、邪竜とガチでやり合うんだぜ。動けなかったら死ぬからな」


 交わした握手も確実に力強くなっている。


「その邪竜討伐だが、あの厚化粧ババアが不老不死の力を手に入れるためと、素材を売って稼ぐためらしいぞ」

「はぁ……まぁそんな事だろうと思ってたがな。なぁ、城に残った連中はどうなった?」

「たぶん、サイゾーが想像している通りだと思うぞ」

「男も含めて性奴隷?」

「正解だ。まぁ、いったん止めさせてあるけどな」


 さすがにオタクらしく、的確に想像してくる。

 そのサイゾーが、ふっと表情を引き締めて聞いてきた。


「何人始末したんだ?」

「これまでに……全部で十七人だな」

「ひゅ〜……やるなぁ、アイテムボックスの中からサクって感じか?」

「正解だ。まぁ、害虫駆除みたいなもんだ」

「違いねぇ……俺もここに着いた直後に一人燃やしてやった」

「始めが肝心ってか?」

「そういう事だ」


 やはりサイゾーは、サイゾーらしく好き勝手するつもりのようだ。

 とりあえずは、竜の討伐に全力を上げて、それを達成した後の事はまた考えるそうだ。


「それで、黒井はこれからどうすんの?」

「とりあえず、王国に寄生しながら帰国する方法を探る」

「帰れそうなのか?」

「今は無理だが、アイテムボックスだぜ……」

「そうか、異空間魔法ってことか?」

「そういう事だ。レベルが上がれば、日本と自由に往復できるようになる可能性は十分にある」

「自由に日本と往復かぁ……それもいいな、こっちで魔法を使って好き放題やって」

「日本に戻っても好き放題できるぜ」

「いいな、さすが黒井だ」

「それと、今はレベル上げの最中だから、まだ空間の大きさに限界があるが、広さを確保できるようになれば……」

「セーフスペースとしても使える」

「その通り」

「よし、共闘しようぜ」

「異議なしだ。こっちは火力が無いからレベル上げと情報収集に徹する」

「こっちは、ひたすら火力を上げるぜ」


 サイゾーと連絡の取り方を決め、今後の共闘を誓い合う握手を交わしてからアイテムボックスに戻った。

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