第27話 ゲスモブ、訓練場へ向かう

 俺達が追いかけた兵士は、要望書を目にした女王の悲鳴を聞いて再び居室に戻ったが、結局は討伐組がいる訓練施設へと向かった。

 この兵士は、討伐組の訓練を統括している責任者の一人のようで、馬車に乗っての移動だったので助かった。


 馬に乗って移動されていたら、今の俺達では途中で追跡を断念せざるを得なかっただろう。


「ねぇ、善人。さっきの女王との話を聞くと、討伐組と兵士の間で揉め事が起こったみたいじゃない?」

「そうだな、それもサイゾー達じゃなくて、他のグループみたいだが」

「サイゾーって、誰だっけ?」

「オタクの桂木だよ」

「あぁ……って事は揉めたのはヤンキーの徳田達?」

「違うな、理由は知らないけど、サイゾーは徳田と組んでた」

「えっ? 宇田とかのグループじゃないの?」

「うん、たぶん何か企んでいるんだと思うけどね」

「ふ~ん……」


 サイゾーが、いわゆるリア充グループではなくて、ヤンキーのグループを選んだのは、たぶんクソ真面目に上から目線で指示されるのが嫌だったからだろう。

 日本にいた頃、肌色成分多めのラノベ、漫画、イラスト、同人誌などを学校に持ち込んでは女子の顰蹙を買い、リア充グループから散々嫌味を言われていた。


 召喚された直後のぶっ飛んだ行動から見ても、好き勝手やりたいと思っているのは間違いないだろう。

 それに対してグジャグジャと文句を言ってくる連中とは、組みたくないと思っているに違いない。


 討伐組がいるらしい訓練場までは、城から馬車で二時間ほどで到着した。

 馬車といっても、たいした速度では走っていないので、距離としてはせいぜい二十キロ程度だろう。


「うわっ、なにあれ!」

「サイゾーだな……」


 訓練場に到着したとたん、敷地の中で巨大な火柱が噴き上がった。

 直径は五メートル程度、高さは十メートルを優に超えているだろう。


 巨大な火柱は十秒ほど燃え盛り、真っ赤な炎が青色に変化した直後にフッと姿を消した。

 アイテムボックスの中にいるから届くはずがないのだが、それでも熱気が伝わってきそうな光景だった。


「なんか、ヤバくない?」

「だな……てか竜と戦うんだろ? あの程度の威力は必要なのかもしれないぞ」

「そっか、でもあの威力の魔法を撃てるなら、こっちの連中も要求を呑むんじゃない?」

「だな……」


 一応、清夏の意見に同意はしたが、不安が無い訳ではない。

 それは、果たしてサイゾーが他人のために動くかどうかだ。


 自分の欲望に対しては忠実に行動するが、他人を救うとなったら対価を求めてくる気がする。

 現状で、俺がサイゾーに支払える対価は情報だ。


 城に残った連中がどんな扱いを受けたのか……とか、女王の本当の狙いは何なのか……とか、サイゾーが知りえない情報ならば対価として認めるだろう。

 その一方で、対価が不十分だと思われたら、サイゾーは自分でやれと突き放してくる気がする。


 十分な対価が用意出来ない場合には、結果の面白さで動かすしかないだろう。

 何かをやった結果、面白い状況が作れるならばサイゾーは協力するはずだ。


 いずれにしても、サイゾーには連絡を付けておいた方が良さそうだ。


「とりあえず、こっちの状況を確認して、それから接触するかどうか考えよう」

「そうだね」


 火柱が上がっていた訓練場へと向かうと、そこにはサイゾーとヤンキーグループの姿しかなかった。

 どうやら、サイゾーはオタクの知識を使って、このグループの魔法を指導しているようだ。


「あれって、桂木?」

「おぉ、なんだか引き締まってる感じだな」


 日本にいた頃は、オタデブと称するのが一番シックリする体型をしていたのだが、体の丸みが取れて顔の輪郭もスッキリしている。

 小高い丘の斜面を使った射撃場のような感じなのだが、ヤンキーたちが魔法を撃ち込む度に斜面が抉れていく。


「すげぇ、銃撃どころか砲撃レベルだろう」

「こんなに凄いなら、クーデターとか起こせるんじゃない?」

「いや、この人数じゃ無理だろう。女王とかを殺す程度は出来るけど、その後が続かなくなる。どんなに強くても食糧が無くなればアウトだからな」

「それもそっか……」


 だが、確かにサイゾー達の攻撃力は脅威だ。

 こっちの連中が、一目置くのも当然だろう。


「ねぇ、善人。他の連中の姿が見えないけど……まさか」

「いや、こっちは戦闘力が高い連中が揃ってるんだろう? あっちのような状況にはならないだろう」

「うん、だといいけど……」

「ちょっと探してみるか」


 訓練場の敷地の中を探してみると、リア充グループの姿は宿舎にあった。

 宇田や佐久間といったグループの中心的存在の男子が、さっき城から戻ってきた兵士と何やら交渉を行っていた。


「なんで連れて来られないんだよ!」

「だから、向こうにいた者達は、別の街に移動して日常生活を送るための訓練をしているんだ。この国の風土を見て、触れて、自分に適した職業を選べるようにしている最中だ。確かに呼び出した責任はあるが、遊び呆けて生きるのが正しい訳ではないだろう。勿論、最低限の生活が送れるように援助はするし、病気や怪我で働けなくなった時の支援もする。だが、それと怠けて生きるのは別ではないのか?」


 さすがに責任者を任されるだけあって口が上手い。

 実際には、支援どころか性奴隷のような扱いを受けていたのに、この話だけ聞けば納得してしまいそうだ。


「だが、確かに向こうの連中みたいに可愛がってやろうか……と言われながら尻を触られたと言ってるんだぞ」

「それは、うちの兵士の勘違いだ。兵士達が性に対する欲求不満を溜め込まないように、奴隷を与えているのは事実だが、それは君らの仲間ではなく奴隷市場で仕入れてきた者達の話だ。向こうの連中とは、城にある慰安所の奴隷を指しているのだろう。だが繰り返すが、それは君たちの仲間の話ではない。こちらの世界の奴隷のことだ」


 どうやら、俺が宿舎の兵士を殺害した事で、ここの兵士が敵意を抱き、その余波ではないが女子にセクハラを行ったようだ。

 結局、リア充グループを担当する兵士を更迭して別の者を配属し、今後は行動を慎むと約束して話は収まった。


「なんかさぁ、こいつらは当てにならない気がしない?」

「どの程度の戦闘力があるのか分からないけど、サイゾー達より危うい感じはするな」


 俺も他人の事は言えた義理では無いのだろうが、こいつらの対応は甘い気がしてならない。

 やはり、接触するならサイゾーが最適だろう。

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