第25話 ゲスモブ、ギャルを連れてゆく

 清夏のたっての願いで、囚われているクラスメイトの様子を見に行った。

 俺としては、清夏の精神状態が不安定になるのは嫌なので、出来れば見せたくないのだが、どうしても確認しておきたいと言われてしまったのだ。


「てか、いないぞ……」

「ここじゃないのかな?」


 凌辱行為が行われていた兵士の宿舎を訪れたのだが、クラスメイトの姿が見当たらない。


「部屋は与えられなかったのか?」

「知らない……あたしは、ここに連れて来られた途端に、その……やられそうになって、そこを善人に助けられたから部屋とかは与えられなかった」


 兵士達には少し贅沢な独房みたいな自室が与えられていたが、だとしたら凌辱行為が行われていた部屋は何のための部屋なのだろう。

 まさか、クラスメイトが連れて来られる前にも、どこからか女性が連れて来られて、同じような行為が行われていたのだろうか。


「ねぇ……地下じゃない?」

「地下?」

「だって、牢屋とか地下が定番じゃない?」

「まぁな。じゃあ、階段を探すか」


 そもそも、地下室があるのかどうかも分からないが、とりあえず階段を探してみたが、二階に上がる広い階段の下は壁で塞がれていた。

 階段の下は物置にでもなっているのかと思ったのだが、階段スペースのとなりに部屋があり、そこから地下に下りられるようになっていた。


 ただし、地下への階段の手前には鉄格子が設けられていて、監視のための男もいた。


「うわっ、マジであったよ」

「なんか、ヤバくない?」

「てか、ヤバくない訳がないだろう」

「まぁね……」


 アイテムボックスに入ったまま鉄格子を通り抜け、階段を下りると薄暗い廊下に出た。

 階段を挟んで左右に廊下が続いていて、廊下にはそれぞれ四対、八つの鉄の扉があって、合計で十六の部屋があるらしい。


「こっちから行ってみるか?」

「うん」

「うわっ……こいつ、羽田か?」

「酷い……」


 右側の廊下の一番手前の部屋に、鉄の扉を通り抜けて入ってみると、粗末な貫頭衣を着た男子が寝台に横たわっていた。

 下着すら与えられていないらしく、股間の粗末な品が丸出しだ。


 羽田は、俺と同様にクラスでは目立たないモブだ。

 あまり強い印象は残っていないが、もう少しふっくらとしていた気がするのだが、今はゲッソリと頬がこけている。


 眠っているのかと思ったのだが、目は開いていた。

 目を開いているが、その瞳には何も映っていない感じだ。


 薄汚れた石積みの壁を淀んだ瞳で見続けている姿からは、生気の欠片も感じられなかった。

 独房には、寝台の他には大きな壺が置かれているだけだ。


 たぶん、排泄のための壺なのだろう。

 アイテムボックスを開いていないので姿も見えるし、音も聞こえるのだが、臭いは伝わって来ない。


 臭わないはずなのだが、見ているだけで胸が悪くなるような臭いを感じる。


「他の連中も見てみよう」

「うん……」


 隣の部屋に抜けると、クラス一の秀才、那珂川がいた。

 羽田と同様の貫頭衣を着て寝台に横たわっていたのだが、恍惚とした表情で勃起した陰部を扱いていた。


 口の端からは涎を垂らし、目が完全に逝ってる。


「こいつ、薬でも盛られたのか?」

「無理……怖い……」


 清夏が顔を背けて、俺に抱きついて来たのも当然だろう。

 あんな虐待を受けていたのに自慰行為に耽るなんて、薬を盛られたか、頭がおかしくなってしまったかのどちらかだろう。


 俺でさえも背中に冷たいものを感じたほどだ。

 階段を挟んだ右側の廊下にいたのは、羽田と那珂川の二人だけで、残りの女子は左側の廊下に面した独房にいた。


「酷い……酷すぎるよ……」

「もう見るな」


 囚われている女子は全部で四人、そのうちの三人は羽田達と同様の貫頭衣を着て寝台で体を丸めていたり、膝を抱えていたりした。

 だが、一番小柄な坂口だけは、寝台に全裸で横たわっていた。


 羽田と同様に目は開いているが、天井など見てはいないのだろう。

 口を半開きにして、薄い胸が上下しているから生きてはいるようだ。


 年齢のわりには幼く見える体には、無数の青あざや歯型が残されている。

 股間からは出血しているようだが、その血が何の理由で流れているものなのか、俺には判別できなかった。


「ねぇ、善人。浄化してあげたい」

「ばっ、そんな事をしたら、お前が戻って来たって分かっちまうかもしれないぞ」

「うん、そうだね」

「そうだねって……お前だけ無事で、みんながこんな状態じゃ恨まれるどころじゃ……」

「それでも! それでも、この状態は放っておけないよ!」


 確かに、この状況は俺の想像を超えているし、傷とか消毒もされているようには見えない。

 清夏が浄化を掛けておいた方が、傷が化膿する危険性を少しでも防げるだろうし、何よりも精神的に良いはずだ。


「分かった。もし、こいつら全員を助けた後で、清夏が恨まれるような事があったら俺を悪者にしろ。俺が助けるのを邪魔したって言えばいい」

「そんな事は……」

「事実だろう。実際、こうして俺は清夏を止めている。俺の意志で、こいつらを見殺しにしているんだ」

「善人……」

「まぁ、そう言ったとしても、恨む奴は恨むだろうな。だけど忘れるな、全ての罪は俺にあるし、俺は清夏の味方だからな」

「善人……うん、分かった」


 清夏は、俺の胸に顔を埋めながら頷いてみせた。


「それと……精神的な浄化は無しだ」

「えっ、どうして?」

「この環境だぞ。奴らへの恨みを反骨心みたいに利用しないと、精神的に持たない気がする」

「そっか……那珂川も坂口も、かなりヤバそうだもんね」

「あぁ、その代わり、傷口とかを消毒するイメージを強くしてやってくれ」

「うん、分かった!」


 この後、清夏に六つの独房を順番に浄化させた。

 囚われている者が驚いている間に、次の独房へと移動して、極力清夏の存在を気取られないようにしたのだが、たぶん無理だろうな……。

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