第24話 オタデブ、存在に気付く

※ 今回は桂木才蔵目線の話となります。 


 僕自身が一番驚いているのだが、日に日に筋肉がついてきている。

 徳田曰く、デブの方がガリガリよりも筋肉は付きやすいそうだ。


 それと、徳田が吟味している食事の内容もトレーニングの効果をアップさせているようだ。

 魔法の能力は桁違いだったが、体型はダルダルに弛みきっていた僕が日を追うごとに筋肉質になるのを見て、こちらの兵士も徳田にアドバイスを求めてくるようになった。


 兵士という職業は、一部のエリートを除けば筋力が物を言う仕事だ。

 現代日本で、科学的な裏付けを基にしたトレーニングを積み重ねてきた徳田の肉体や動きは、奴らにとっても参考に値するものだったらしい。


 そして、僕の魔法も奴らからすれば常識外れなものだったようだ。

 火の魔法といえば、どれだけ大きく、どれだけ高温で燃やすかぐらいしか考えていなかったものが、貫通、炸裂、速射、連射など、全く違った使い方をする僕に驚いていた。


 勿論、全ての手の内を明かしてしまうと、こちらのアドバンテージが無くなってしまうので、そこは徳田と相談しながら兵士も指導する事にした。

 舐めた態度を取るなら敵対するが、こちらを認めて教えを乞うて来るならば情報を与え、見返りを得た方が良いと判断したからだ。


 おかげで、僕らに対する兵士の態度が明らかに変わってきた。

 最初は見下し、逆に見下されて腹を立てていたらしいが、使える、役に立つ、相応の接し方をすれば話も通じるとなれば、態度を変えるのは自然な流れだろう。


 こちらが情報を与える見返りは、相手からの情報提供だ。

 まず最初に訊ねたのは、やはり邪竜に関する情報だ。


 兵士の話によれば、形状はいわゆる西洋のドラゴンのようで、四本の脚とは別に翼を持ち、空を飛ぶそうだ。

 風の魔法を操るらしく、地形が変わるぐらいの威力があるらしい。


 体長は頭から尾の先までが、成人男性七、八人分という事だから、十四、五メートルはあるのだろう。

 巨体に似合わず動きは早く、牙、爪、尾による攻撃に加えて、風の属性の魔法を付与した攻撃まで仕掛けてくるらしい。


 引っ掻くような爪での攻撃は、避けたと思ったのに一メートルぐらい先まで切り裂いたり、尾の攻撃は当たる一メートルぐらい前から衝撃を食らうそうだ。

 つまり見た目の爪よりも一メートルぐらい長い風の爪が、見た目の尾よりも一メートルぐらい太い風の尾が存在する訳だ。


 ただし、この風の爪や尾は実体ほどの強度が無いらしく、実物の爪は金属製の盾さえも切り裂くが、風の爪ならば金属製の盾で防げるらしい。

 それでも風の尾を食らえば人間の体など簡単に跳ね飛ばされてしまうし、風の爪も骨は無理でも肉ならば切り裂くそうだ。


 そして、邪竜の体を覆う鱗が非常に硬いのが、討伐を難しくしている最大の理由らしい。

 鱗は数年に一度のペースで生え変わるらしく、その一枚を見せてもらったのだが、厚さが三、四センチもある強化樹脂のようだった。


 徳田が言うには、機動隊などが使うポリカーボネートの盾みたいな強度があるらしい。

 実際、地面に置いた状態で兵士が槍を使って思い切り突き刺しても、切っ先が僅かに出る程度しか刺さらない。


 比喩でも何でもなく、全身に鎧を着こんでいるようなものだろう。


「サイゾー、どう思うよ?」

「そうだね、真正面からぶつかって行くのは馬鹿のやる事だね」

「だな、いくら魔法が使えても、武装した機動隊に一人で突っ込んで行けば跳ね返されるだけだ」

「現代兵器を使って戦車をぶっ壊す戦いを、どうすれば魔法で再現できるか考えよう」

「なるほどなぁ……異議無しだ」


 これで正面からやり合うなんて主張する馬鹿だったら、今後の関係さえも考えなきゃいけない所だったが、徳田も邪竜の危険度は理解したようで助かった。

 俺達の方針は、とにかく死なない、重傷を負わない、やばくなったら逃げられる道を用意しておくに決まった。


 一回で討伐出来なくても、実際に戦ってみれば相手の弱点も見えてくるし、ダメージを蓄積出来る。

 こちらが消耗しなければ、何度だってチャンスはあるし、やる度にこちらは有利になる。


 基礎的な体力を上げ、魔法の能力を高めながら実戦に備えていると、ある日リア充グループと兵士が口論しているのを見かけた。

 それを見た徳田が、ふっと眉を顰めた。


「何かあったな……」

「あの脳筋ども、こっちの足を引っ張るんじゃねぇぞ」

「違うぞサイゾー、たぶんここじゃねぇ。城だ……」

「城? 残った役立たずか?」

「さぁな……だが結構大きい騒ぎがあったんじゃねぇのか」


 荒事に関しては、徳田は僕よりも何倍も鼻が利く。

 その徳田が言うのだから、たぶん間違っていないのだろう。


 それと同時に、僕の脳裏には一人の男子の顔が浮かんだ。

 僕のオタク仲間にして、クラスで一番影の薄い男、黒井善人だ。


 僕と同類の高レベルなオタクの黒井が、こちらの世界に来てから姿が見えなくなっている。

 僕は僕が出来る最高のタイミングで、最適解の行動をしてきたから、余計に黒井がハシャギもせず、姿も見せないのには違和感がありまくりだ。


 城で何か大きな騒ぎが起こったのだとしたら、それはおそらく黒井の仕業だろう。

 おそらく、今までは潜伏して準備を調え、いよいよ反攻を始めたのだろう。


「ヒデキ、退屈しないな」

「ははっ、まったくだぜ」


 徳田は僕の言葉に凄みのある笑顔を浮かべて見せる。

 黒井がどんな魔法を手に入れて、何をやらかしているのか分からないが、僕は僕で、この異世界召喚を存分に楽しませてもらおう。

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