第22話 ゲスモブ、様子見をする
「やっぱりおかしい……普通じゃないよ」
「まぁ……うん……」
寝る前に風呂に入りたいという清夏のリクエストに応えて、王宮の広い風呂場に来たのだが……勃たなかった。
生まれたままの姿の清夏が目の前にいるのに、脳裏には凌辱されていた坂口の姿が浮かんでいる。
あっちはレイプ、こっちは同意の上なのに、そんな気分になれないのだ。
「ねぇ、何人殺したの?」
「覚えてない」
「嘘!」
「嘘じゃない……途中で数えるのを止めたんだ」
「馬鹿……馬鹿だよ善人は」
裸のままで清夏に抱き付かれても、それでも俺は反応しなかった。
「だってよぉ……許せる訳ねぇじゃん! あんなに坂口が泣き叫んでるのに、あいつら笑ってやがったんだぞ。もう止めて、凄く痛いって叫んでるのに、誰一人助けようとせず、ニヤニヤしながら順番待ちしてやがったんだぞ。許せる訳ねぇじゃん!」
気付いたら、俺は泣きながら叫んでいた。
あんな奴ら死んで当然だと思う気持ちと、喉笛を裂いて殺したという罪悪感がせめぎ合って、頭の中がグチャグチャになっていた。
「悪くない! 善人は悪くない! 悪いのはあいつらだから……死んで当然だから!」
「うぅぅ……だったら、だったら何でこんなに苦しいんだよ……」
「それは善人が優しいから、優しいからだよ」
違う、そんなのは俺じゃないと叫びたかったが、その言葉を否定したら清夏が消えてしまいそうな気がして、抱き合ったまま泣き続けた。
風呂から出た後、清夏の提案で女王の寝室近くの空き部屋で眠った。
勿論、アイテムボックスの中に入ったままだ。
服は着たけれど、一つのマットレスの上で清夏と抱き合って眠った。
途中、悪い夢を見た気がしたが、意外にも朝まで目を覚まさずに眠れた。
「おはよう、善人」
「おはよう、昨日はみっともない所を見せて悪かった」
「ううん、みんなのために戦ってくれたんだから、私は善人の味方だよ」
「ありがとう」
清夏がこの部屋を選んだのは、女王の近くなら兵士が家探しに来ないと思ったからだそうだ。
確かに、兵士の宿舎は大騒ぎになっていたが、ここは静かなままだった。
静かではあったが、警備が手薄な訳ではない。
金属鎧でフル武装した何人もの騎士が、廊下で目を光らせている。
女王の安眠を妨げないように、細心の注意を払いながら、可能な限りの護衛を配置したのだろう。
「善人、ババアの様子を探っていこうよ」
「そうだな、ここにいるんだしな」
アイテムボックスに入ったまま壁抜けして進むと、女王アルフェーリアは苦虫を噛み潰したような仏頂面でソファーに身を沈めていた。
暫く様子を窺っていると、経過の報告をするために騎士が訪れた。
「ご報告いたします。昨日殺害された兵士は十三名、いぜん犯人の行方は分かっていません」
「十三人も殺されて、手掛かり一つ掴めないのか?」
「はっ、申し訳ございません。殺害された者達は、いずれも突然首筋を切り裂かれ、手当の甲斐なく死亡しております。すぐ近くに同僚がいたケースでも、誰一人犯人を目撃しておりません」
「ふざけた事を申すな! 誰もいないのに殺されたとでも言うつもりか! 逃げた女の行方は?」
「最初の襲撃以後、姿を目撃した者もおりません」
「消えたとでも言うつもりか?」
「いえ、空間魔法を使ったのかと……」
まぁ、あれだけ殺して回れば、そうした推測をされるのも当然だろう。
「その女は空間魔法の使い手だったのか?」
「いえ、空間魔法のような有用な魔法の持ち主であれば、処分せずに利用していたはずです」
「では、別の者がいたのか?」
「その可能性は高いかと……」
「面倒な……」
「いかがいたしますか?」
女王アルフェーリアは、眉間に深い皺を刻みながら暫く考え込んでいた。
「当面の間、捕えている連中への手出しを禁じる。ただし、これ以上兵士が殺された時には全員を処刑せよ」
「はっ! かしこまりました」
退室する騎士を見送った後、アルフェーリアは苛立たしげに舌打ちを繰り替えしていた。
「やったね、善人。これでみんなの待遇も良くなるはずだよ」
「良くはならないだろう、最悪から脱出できただけだ。手出しを禁じられたけど、どんな待遇なのかは分からないからな」
「じゃあ、見に行ってみる?」
「んー……いや、止めておく。これ以上は、こっちも手出し出来ないからな」
「でもさ、今ならババアを脅して待遇改善できないかな?」
「そうか、なるほどな……よし、紙とインクとペンをパクりに行こう」
近くの部屋を探すと、女王用の机に一式が揃っていた。
「さて、何て書こうか……」
「まずは謝罪じゃない? 酷い目に遭わせたみんなに謝罪して、それから手当させて、普通の暮らしに戻れるように援助させて……善人?」
「ちょっと思ったんだけどさ、それやったら立場が逆転するよな」
「当然でしょ。そのための脅迫状じゃないの?」
「そうなんだけど……いままで迫害されてた側が、急に力を持ったらさ、それこそあいつら兵士を殺そうとしないか?」
「あっ、確かに……」
「そうなると、かえって危うくなるような気がするんだよなぁ、イラっとした兵士が殺されるの覚悟で殺しちゃう……みたいな?」
「そっか……じゃあ、どうする?」
「ちょっと様子見かなぁ……」
ひとまず兵士による凌辱は止められたので、その後の状況をみながら改善要求を突き付ける事にした。
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