第20話 ゲスモブ、浄化魔法について考える
「よしっ、頼む」
「クリーン……」
今一つやる気の感じられない清夏の声と共に発動された浄化の魔法は、強力に俺から汚れを取り除いた。
素早く身支度を整えてアイテムボックスの中へと戻ると、清夏は再度俺に浄化の魔法を掛けた。
「ねぇ、あたしのことウォシュレットか何かだと思ってない?」
「そんな訳ねぇだろう。紙が無いんだから仕方ないじゃん。てか、清夏だって浄化で済ませてるだろう」
「ま、まぁ、そうなんだけど、なんかモヤモヤするのよねぇ……」
俺と白川がアイテムボックスに引きこもって、もう一週間ぐらい経つだろうか。
運動不足解消のために、街から離れた所で外に出ることはあるが、殆どの事はアイテムボックスの中で済ませている。
ただ、どうしても出来ない事の一つがトイレだ。
こればかりは、人のいない城のトイレや屋外で済ませるしかないが、その後処理に白川の魔法を使わせてもらっている。
日本から持ち込んだティッシュは早々に使い果たしてしまったし、こちらの世界の紙は硬くてとてもじゃないが尻など拭けない。
そこで白川に魔法を使ってもらっているのだが、このスッキリ感はウォシュレットなどの比ではなく、用を足す前よりも綺麗になった気がするくらいだ。
「そんなに拗ねないでくれよ。こっちの世界で俺の味方は清夏しかいないんだから、頼りにしてるんだぜ」
「えっ……そ、そう? そうよね、うん、あたしも善人を頼りにしてる」
「清夏……」
「善人……んっ」
一緒に風呂に入って以来、白川との距離はぐっと縮まった。
ぶっちゃけ、白川がチョロインで助かっている。
まだ最後の一線は越えていないが、胸とか、口とか、手で処理してもらっている。
そうした生活の中で、俺は白川の魔法について少々懸念を抱き始めていた。
一つは、浄化の定義だ。
少々汚い話だが、さっき浄化してもらった時には、俺の尻に付いていた排泄物が綺麗さっぱり無くなったのだが、これは良く考えると恐ろしい。
白川が汚物だと認定しただけで、この世から消えてしまう。
今は浄化する魔法として使っているが、この先魔法のレベルが上がっていったら、気に入らない相手を汚物認定するだけで消せるようになるのではなかろうか。
あまり考えたくないが、民族浄化……なんて事まで出来るようになったら、魔法使いどころか魔王と呼んだ方が正しい存在だ。
別に敵に回すつもりは無いけれど、俺の手に負えない怪物を生み出してしまわないように注意が必要だろう。
もう一つの懸念は、浄化の効果が及ぶ範囲の拡大だ。
「なぁ、清夏の魔法、前よりも強力になってるよな?」
「うん、それはあたしも思ってた。汚れだけでなくて、除菌とか脱臭まで出来るようにイメージしているからだと思う」
「うん、それもそうなんだけど、俺が感じているのは外側じゃなくて内側にも影響が及んでるんじゃないかって感じるんだけど……」
「内側……?」
「うん、心というか精神的なもの?」
白川に浄化の魔法を掛けてもらう度、俺の心の中のドロドロとした汚い感情までもが浄化されているような気がするのだ。
例えば、現在進行形で一緒に召喚されたクラスメイトの一部を悲惨な境遇に置いている兵士達に対する殺意などが薄れてきている気がする。
「さすがに、そこまで意識してないけど……でも言われてみると、あのおぞましい記憶を消してしまいたいと心のどこかで考えていたかも……」
「実際のところ、どの程度の効果を及ぼしているのか分からないけど、下手をすると自分や他人の記憶まで消しちまう可能性があるから気を付けた方がいいな」
「そっか……でもさ、もし本当にそんな事が出来るなら、クラスのみんなを救い出した後で悲惨な記憶を消してあげた方が良くない?」
「うーん……どうなんだろうな」
確かに、白川が言っている事は一理ある。
凌辱されたクラスメイトの中には、男性経験も無いままに複数の兵士によって目を背けたくなるような行為を強いられた者もいるだろう。
最悪の記憶など綺麗サッパリ消してしまった方が、この先の人生を楽に生きていけるような気はする。
気はするのだが、記憶を無くしても体が元に戻るわけではない。
強力な治癒、回復魔法を使える者が治療をすれば体も元に戻るかもしれないが、そうでなければ記憶が欠落したことによって内面と体のギャップが出来てしまうだろう。
「そっか……心だけでも、体だけでも駄目なのか。確かにそうかも」
「ただし、それは清夏の魔法が内面心理に影響するならば……の話だな」
「うん、まだ効果があると決まった訳じゃないもんね」
「だから、今晩ちょっと試してみようと思う」
「試すって?」
「今晩、クラスのみんなの様子を見に行って、まだ待遇が改善されていなかったら兵士を何人か殺してこようと思ってる」
「えぇぇ……やめようよ」
やはり浄化の影響があるのだろう、以前の白川だったら一も二も無く賛成していただろう。
それを指摘すると、白川はハッとしたような表情を浮かべた。
「うん、確かにそうかも……でも、あたしは善人に助けてもらって、その……未遂に終わっているから他のみんなとは恨みの度合いは違うと思う」
「そうかもしれないけど、このまま奴らを処罰せずに済ませるべきではないと思う」
「でもさ、あたしの魔法に心理的な浄化効果が無かったら、善人は更に人を殺した罪悪感を抱えなきゃいけなくなるんだよ」
「それでも、残ってる連中の事を考えたらやるべきだろう。それに、待遇が改善されていれば殺す必要も無いんだしさ」
「でもなぁ……」
白川が浄化の効果で敵を許し始めているのか、それとも俺に罪を重ねさせたくないのか分からないが、それを確かめるためにもクラスメイトの様子を見に行く事にした。
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